魔法少女の末路
基地は、いつも通りだった。
白い壁。
静かな空気。
何も変わらない——はずなのに。
「……ただいま」
アカネは、小さく呟いた。
その声には、もう温度がなかった。
「……帰還を確認」
司令官000が、いつもの場所に立っている。
「……ボルトは」
「排除しました」
短く答える。
感情は、ほとんどない。
すると。
「……そうか」
000は、頷いた。
「助かった」
その一言。
あまりにも、軽い。
「……助かった……?」
アカネの声が、わずかに揺れる。
「ええ」
淡々と続ける。
「不確定要素が一つ消えた」
その言葉に。
何かが、音を立てて切れる。
「……あなたたちは……」
ゆっくりと、顔を上げる。
「……私たちを……なんだと思っているんですか……?」
静かな問い。
だが、その奥には怒りがある。
000は、少しも迷わず答えた。
「道具だ」
即答。
「魔法少女は、秩序維持のための使い捨ての兵器」
その言葉は——
あまりにも、はっきりしていた。
「……っ……」
息が詰まる。
否定すら、してくれない。
「君も、その一つだ」
続ける。
まるで当たり前の事実を述べるように。
「……ふざけないで……」
声が震える。
「……私たちは……人間だよ……」
その言葉に。
000は、わずかに首を傾げた。
「違う」
否定。
「少なくとも、君は」
一拍。
「人間ではない」
その言葉が、刺さる。
「……ディストラクションデビルの宿主」
冷たく言い放つ。
「そして、組織の機密を知った存在」
ゆっくりと、手を上げる。
「——削除対象だ」
その瞬間。
空気が、変わる。
「……っ!!」
アカネが構える。
黒が、滲む。
だが。
000は、動じない。
「……解析は完了している」
静かに言う。
「君たちの戦闘データは、すべて収集済みだ」
その身体から——
光が、走る。
異質な力。
「……ネクスト」
その言葉とともに。
姿が変わる。
装甲。
洗練された力。
それはもはや、魔法少女ではない。
“兵器”。
次世代の存在。
——魔法戦士。
「……排除を開始する」
その声に、感情はない。
ただの処理。
ただの作業。
「……っ……」
アカネは、歯を食いしばる。
そして——
黒が、溢れる。
再び。
デビルアカネへと変貌する。
空間が、歪む。
圧倒的な力。
だが。
「……壊す……」
その言葉が、止まる。
身体が、軋む。
内側から、拒絶される。
「……っ……!」
痛み。
強烈な。
骨が軋む。
意識が揺れる。
「……なんで……」
分かっている。
壊したくない。
もう。
これ以上。
「……制御不良」
000が、淡々と分析する。
「当然だ」
一歩、踏み出す。
「魂を悪魔に売った代償だ」
冷たい声。
「ためらえば——壊れるのは、君の方だ」
「……っ……!!」
限界だった。
黒が、弾ける。
強制解除。
変身が解ける。
「……あ……」
膝が崩れる。
立てない。
もう、戦えない。
「……終了だ」
000が、銃を向ける。
迷いはない。
躊躇もない。
ただの処理。
「……まって……」
声が、震える。
でも。
止まらない。
アカネの喉から、掠れた声が漏れた。
「やめろ……やめてくれ……」
震える視界の先で、000は何の感情も宿さないまま、銃口を向けていた。
「さようなら。」
乾いた声が、やけに鮮明に響いた。
「やめろ――――!」
叫びは、引き金の音にかき消された。
銃声。
それだけだった。
世界から音が消える。
衝撃が、遅れて胸を貫いた。
何かが壊れる感覚と共に、力が抜けていく。
アカネの身体は、その場に崩れ落ちた。
――静寂。
血の流れる音すら、聞こえない。
ただ、何もない。
何も――
視界が、ゆっくりと霞んでいく。
その中で、アカネは“それ”を見た。
あり得ないはずの光景。
空に浮かぶ、赤い月。
現実には、存在しないはずの――
深く、濁ったような赤。
まるで、すべてを見下ろすように。
(ああ……)
それが何なのか、分からないまま。
アカネの意識は、そこで途切れた。
——終わり。
光。
白い天井。
「……ん……」
目を、開ける。
身体が、重い。
でも。
痛みは、ない。
「……ここ……」
周囲を見渡す。
病室。
静かな空間。
機械の音。
「……え……?」
混乱する。
さっきまでの記憶が、曖昧になる。
戦い。
死。
全部が、遠い。
そのとき。
「……目、覚めた?」
まだ物語は終わっていない。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
一章はこれで一区切りとなります。
最初は、ただの魔法少女の物語として書き始めたこの話も、
気づけば少しずつ形を変えていきました。
戦う理由や、その力の意味。
正しいと思っていたものが、少しずつ揺らいでいく感覚。
そういったものを、この一章で描けていたなら嬉しいです。
はっきりとした答えが出る物語ではありませんが、
だからこそ、どこかに引っかかるものが残っていればいいなと思っています。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。
もしこの先も見届けていただけるなら、
ブックマークや評価をしていただけると、とても励みになります。
約1週間程、更新をお休みします。
また戻ってきたときに、続きを読んでもらえたら嬉しいです。
――ミスターイワシ




