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【書籍化&コミカライズ決定】会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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真壁、配信やめるってよ!①

新章開始です!

世界探索者競技大会編(略称:WEG編)

初回から不穏なタイトルが……!

 朝の光が窓から差し込み始める。

 初夏を思わせる風の匂いは、分け隔てなく大地へと恵として運ばれていく。


 みずみずしい、あの夏の到来を感じさせる空気の匂いにつられたのか、俺はゆっくりと目を覚ました。 


 「ずいぶんと寝た気がする」


 寝返りをうつと、いつもとは違う感触が体全体に感じられる。

 体全体を優しく包み込むマットレスがその違和感の元でもあり、そこで俺は「あぁ」と掠れた声を漏らした。

 

 いつ寝たのかは覚えていない。

 昨日、管理局の人と何か嫌なことを言われたような気がしたが、今は思い出せない。

 意識が落ちて、深く底の方まで沈んで、そこから戻ってきた、そんな眠りの前では些細なことは思い出さなくてもいいらしい。


 体の重さはまだ残っている。

 けれど頭の奥底に貼りついていた熱は、かなり引いていた。


 ここまで深い眠りを経験したのはいつぶりだろう。

 そう思っていると、俺の視界に天井が入ってくる。


 「天井高いな…」


 白く細工が施された天井は、自宅の無機質なパネルとは大違いで、格調の高さを示していた。

 

 「……どこだっけ」


 口に出してから、すぐに思い出す。


 大阪…ホテル…管理局が用意した部屋。


 俺はゆっくり体を起こした。


 「ベッド広すぎだろこれ」


 幅が2メートル以上ありそうな大きなベッドは、豪勢な天蓋付きで、その横には遮光するための薄手のカーテンまで備え付けられていた。


 周囲を見渡すと、調度品が部屋の格を示すかのように整然と置かれていた。


 「花のない花瓶、か」


 観賞用のために置かれた花瓶の意味がいまいち理解できてはいないが、そんなことを考えているとようやく頭のボケが解消していた。 

 

 枕元では、シオが小さく丸まっている。

 俺が起きたことに気づいたのか、殻の表面がほんの少しだけ光を返す。


 「おはよう」


 シオは返事の代わりに、殻を小さく揺らした。


 起きた俺は、ベッドから多少距離がある大きな窓に向かい、カーテンを開ける。

 眼下には朝日と共に大阪の街が広がっていた。


 ソファに腰をつけると腰が有り得ない位に沈み込む。

 そして俺の体全面を面で支えるその構造に、やっぱ高級品はちがうんだな、そう思ってしまう。

 

 ローテーブルの上には果物の盛り合わせが置かれている。


 「これ…食べるとお金かかるのかな」


 俺はしばらく果物を眺めつつ、今一度、なぜここに居るかを振り返った。


 昨日の夜、泊まる場所はチェックアウトしてしまっていたので、東京に戻ろうかどうか迷っていた時、半ば強制的にこのホテルへ厳重な護衛付きで送迎され、そして強制的にこの部屋を宛がわれたわけだが……。


 待遇だけ見れば、あり得ないほど丁重だ。

 というか、たぶん俺が自分で泊まることは一生ない部屋だと思う。


 「これ、1泊いくらすんのよ…」


 そして俺は外に繋がるドアへ視線を向ける。

 

 「籠の中の鳥状態…だな」


 扉の外には護衛が24時間警護を行うと昨日の夜、説明された。

 部屋から出る場合は、必ず声をかけてほしい。

 ホテル内の移動でも同行する。

 外出は原則として事前確認。

 急ぎの場合でも護衛体制を整えてから、全ての安全が確認されるまでは出られない。


 つまり、一人では出られない。


 「これ、保護って言うんだろうか」


 小さく呟く。


 誰に宛てた訳ではないので、当然返事は返ってこない。

 ただ、シオが俺の方へ少しだけ寄ってきた。


 護衛と保護。


 言葉だけ聞くと、ありがたい。

 実際、大変ありがたいのだと思う。

 俺が狙われる可能性があることも、昨日の通知欄を見れば分からなくもない。


 だけど、ホテルのスイートルームで目を覚まして、扉の外に護衛が立っていて、コンビニに行くにも一人では行けない。


 それは、監禁に近い。


 もちろん、鉄格子はない。

 鍵も内側から開けられる。

 部屋は広いし、水は高そうだし、朝食も頼める。


 だから余計に、どう受け止めればいいのか分からなかった。


 スマホを見ると画面には、通知制限中の表示が出ていた。

 昨日、あまりに通知が止まらないので、管理局の職員が一時的に制限をかけてくれた。

 それでも、画面端の方にアイコンごとに未読件数らしき数字が見える。


 「9999…カンストはそこなのね」


 俺は見なかったことにした。


 「……寝たのに、問題は減ってない」


 自分で言って、少しだけ嫌になる。

 減っていないどころか、寝ている間にも増えている気がした。


 洗面所に向かうと、昨日よりもマシな面をした男の顔が大きな鏡に映る。

 目の下の影は残っているが、少なくとも立ったまま寝そうな顔ではない。


 顔を洗って、歯を磨いて、そしてタオルで拭く。

 妙に肌触りがいい。


 「いい匂い…」


 それから服を着替えた。

 管理局側が用意したのはカジュアルファッションで、部屋の格と服の普通さが強烈な違和感を残している。


 シオはいつものように着替えた後、俺の肩に乗ってくる。

 

 「とりあえず、護衛の人に挨拶するか」


 ドアを開けるとスーツ姿の男が二人立っていた。


 どちらも昨日見た護衛だ。

 管理局特務部隊所属でA級探索者。

 そう説明されている。


 「おはようございます、真壁さん」


 片方が、静かに頭を下げた。


 「あ、おはようございます」


 反射的に頭を下げ返す。


 ホテルの廊下で、護衛に朝の挨拶をされる。

 昨日までの人生にはなかった場面だ。


 「体調はいかがですか」


 「昨日よりは、だいぶ回復しました」


 「それは何よりです」


 言い方は丁寧だったが、視線は廊下の左右にも向いている。

 こちらと会話しながら、周囲をさりげなく監視していた。


 彼らは彼らの与えられた仕事をしている。

 そう思うと、文句を言いづらい。


 「本日の予定ですが、午前中にダンジョン庁の方から説明があります」


 「事情聴取ですか」


 「いえ。配信活動に関する説明です」


 「……説明、ですか」


 護衛は少しだけ間を置いた。


 「朝食はお部屋でお取りいただけます。外に出られる場合は、こちらで同行します」


 「……コンビニとかちょっとだけいく時も、ですか?」


 「はい」


 護衛は真顔で言った。


 「ちなみにですが、本日の説明は、一般職員からではありません」


 「一般職員でない……もしかして偉い人ですか?」


 「かなり」


 「……寝起きに聞く話じゃないですね」


 「申し訳ありません」


 謝られても困る。


 そして俺は部屋に戻った。

 朝食は、そのまま部屋で取ることにした。

 

 運ばれてきた朝食は、見た目からして高そうだった。

 焼きたてのパンに妙にみずみずしいサラダ、そしてスープが運ばれる。

 

 「まずは前菜でございます」


 鯛のカルパッチョが平皿で出される。

 俺のテーブルには2人給仕の人が付いており、後方からは護衛がそれを見守っていた。


 「なんて食べにくい環境なんだ…」


 「どうかなさいましたか?」


 「……いえ、大変美味しいです」


 「お口に合いまして、大変光栄にございます」


 そしてアイスコーヒーを頼んで、朝御飯はつつがなく終えた。

 たぶん、普通ならこんな豪華な朝食を出されたのなら、感動するところなのだと思う。


 でも俺は、アイスコーヒーを片手にため息をつきながらスマホを横目で見ていた。


 そしてほどなく、護衛から声がかかった。


 「説明の方が到着されました」


 「…はい」


 俺は立ち上がる。


 説明は、ホテルの上層階にある専用の会議室で行われるらしい。

 スイートルームの応接スペースでもよかったのではと思ったが、さすがに部屋に入れる人数や機密の問題があるのだろう。


 廊下を歩くと前に1人、後ろに1人。

 俺は挟まれるようにして進んだ。


 途中、ホテルのスタッフとすれ違う。

 相手は明らかにこちらに気づいていたが、何も言わずに頭を下げた。

 視線だけが、ほんの少しだけ俺に向かって残る。


 たぶん、バレている。

 でも近づいてはこない。


 それもまた、昨日までとは違っていた。


 会議室の前に到着すると、別の護衛が立っていた。

 護衛同士で軽く会話を行い、その後、中に案内される。


 部屋は広くない。

 けれど窓が大きく開口が取られ、机はロの字で組まれていた。


 そして席にはすでに数人が座っている。


 一人は管理局側の職員。

 昨日、新しいスマホの移行に関わってくれた人とは違う。

 もっと上の立場の人間だと、雰囲気で分かった。


 もう一人。


 年配の男性が、正面に座っていた。

 スーツ姿に髪には白いものが混じっている。

 背筋は伸びていて、机の上にはタブレットが置かれていた。


 俺が入ると、管理局側の職員が立ち上がる。


 「真壁さん。お疲れのところ、ありがとうございます」


 「いえ」


 俺も頭を下げる。

 年配で白髪交じりの男性も立ち上がった。


 「初めまして。ダンジョン庁副長官の瀬尾です」


 「……副長官」


 思わず繰り返してしまう。


 「はい。本日は、配信活動に関する説明と、今後のお願いについてお話しさせていただきます」


 「えっと、真壁遼です」


 名乗る必要があるのか分からなかったが、とりあえず名乗った。

 瀬尾副長官は、少しだけ表情を和らげる。


 「存じております」


 それはそうだ。


 俺は椅子に座ると、護衛は壁際に立った。

 管理局側の職員が端末を操作し、資料が机の中央に設置されているモニターに表示される。


 そこには、見慣れた単語が書かれてあった。

 

 《真壁遼氏の回収屋チャンネルについて》

 

 瀬尾副長官が口を開く。


 「まず最初に申し上げます。真壁さんを責めるための説明ではありません」


 「…はい」


 「ダンジョン万国博覧会における一連の対応について、政府としても、ダンジョン庁としても、あなたの行動に深く感謝しています」


 丁寧な言葉だった。


 「ただ、そのうえで真壁さんの配信は、これまでとは別の段階に入りました」


 瀬尾副長官は、資料を進めると連動して中央のモニターの表示も変わる。


 画面に、配信画面の静止画像が出る。

 俺がダンジョンコアの前に立っている場面だった。

 見た瞬間、胃のあたりが少し重くなる。


 「この映像は、国内外で広く拡散されています。配信サイト、切り抜き、海外ニュース、SNS。すでに完全な回収は不可能です」


 「……はい」


 「映像そのものを問題にしているわけではありません。問題は、この後です」


 資料が切り替わる。

 そこに今回世界に開示してしまった、本来であれば極秘情報だった名称が書かれていた。

 

 「真壁さんが配信中に見たもの、口にしたもの、映したもの。それらは、今や国際的な価値を持つ情報になっています」


 「国際的な価値、ですか」


 「はい」


 瀬尾副長官は頷く。


 「たとえば、未鑑定の魔道具や術式痕を配信に映した場合、それを解析しようとする組織が出ます。ダンジョンコアに関する発言は、海外組織や模倣犯に利用される可能性があります。コメント欄やDMは、企業、クラン、海外勢力、場合によっては犯罪組織の接触窓口になります」


 聞けば聞くほど、配信アプリの画面が遠くなる。

 俺が使っていたものは、そんな重いものだっただろうか。


 いや。

 昨日までは違ったはずだ。


 「さらに、配信映像から位置情報、警護体制、同行者、管理局の動きが推測される可能性があります」


 俺は壁際に立つ護衛を見た。

 護衛は表情を変えなかった。


 「真壁さんの鑑定判断そのものが、すでに価値ある情報です。公式発表前の内容を、あなたが配信で口にした場合、政府発表より先に世界へ出ることになります」


 「……それは、まずいんでしょうね」


 「はい。かなり」


 瀬尾副長官は、言葉を選ぶように続けた。


 「そのため、当面の間、真壁さんの配信については、いくつかお願いがあります」


 資料に項目が並ぶ。


 ・事前申請

 ・配信場所の確認

 ・鑑定対象の事前確認

 ・コメント欄表示の制限

 ・切り抜き管理

 ・海外メディア対応の窓口一本化

 ・企業案件、スポンサー案件の事前相談

 ・ダンジョンコア、呪術汚染、封印指定品、特務部隊、警護体制に関する発言制限

 ・配信後のアーカイブ確認


 俺は、それを上から順番に読んだ。


 「つまり配信する前に、どこで何を映すかを確認してもらう、ということですか」


 「大まかには、その形になります」


 「鑑定対象もですか?」


 「可能な範囲で」


 「コメント欄も?」


 「制限が必要な場合があります」


 「アーカイブも?」


 「確認対象になります」


 瀬尾副長官の返答は丁寧だった。

 高圧的ではない。

 俺を責める言い方でもない。


 むしろ、守ろうとしているのだと思う。


 俺の身や周囲の人間、管理局の情報、そして国の何かを。

 たぶん、全部。


 それは分かる。

 分かるのだが。


 俺は机の上の資料を見た。


 配信場所、鑑定対象、コメント欄、切り抜き、企業案件、アーカイブ。

 これらが国によって管理されるとすれば、もう俺が知っている配信ではない気がした。


 俺が配信を始めたのは、会社をクビになって、どうにかしなければいけなくなったからだ。

 最初は、拾ったものを見て、値段がついて、コメントが少し流れて。

 それだけだった。


 それだけだったけど、嬉しかった。


 見えたものをそのまま話すと、誰かが驚いた。

 価値のないと思われていたものに価値があった。

 危険だと分からなかったものが、危険だと分かった。

 そういうものを、自分の言葉で伝えられた。


 俺にとって配信は、そういう場所だった。


 申請して、確認して、そして止められて。

 あとからチェックされて、何を言っていいか、どこまで映していいかを決められて。


 そこまでしてやるものだっただろうか。


 瀬尾副長官が言う。


 「もちろん、真壁さんの活動を止めたいわけではありません」


 俺は資料から顔を上げた。


 「あなたの配信には、大きな価値があります。ダン博事件後、真壁さんが沈黙したままになることを、不安に思う人も多いでしょう。ですから、我々としても、できる限り続けていただきたい」


 「続けてほしいってことですか?」


 「はい」


 「でも、自由にはできない」


 「そうなります」


 正直な返答だった。

 だからこそ、俺も黙った。


 瀬尾副長官は続ける。


 「真壁さんには、今後の配信について事前申請をお願いする形になります」


 俺は、資料をもう一度見る。

 それから、新しいスマホを見た。

 通知制限中だがその下に、見えない通知が積み上がっている。


 たぶん、配信サイト公式からも、まだ何か来ている。

 視聴者からのコメントもある。

 感謝の言葉も……ある。


 それを全部なかったことにしたいわけではない。


 でも。


 俺は小さく息を吐いた。


 「分かりました」


 瀬尾副長官の表情が、ほんの少しだけ緩む。


 「ご理解いただけますか」


 「はい」


 俺は頷いた。

 そして、できるだけ普通の声で言った。


 「じゃあ、しばらく配信はやめます」


 会議室の空気が止まった。


 瀬尾副長官も。

 管理局の職員も。

 壁際の護衛も。


 誰も何も言えなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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