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会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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湾岸捜査

 昨夜の段取りでは、早朝に大阪管理局と合同で湾岸の倉庫街を押さえに入ることになっていた。

 現場には難波と御堂が向かう。俺は支部に残ることになった。

 拠点を開けてみないと、何が出るかは分からない。


 大阪支部の作業フロアに着いたのは、朝の8時を少し過ぎたところだった。


 壁際の机にスマホを置いて、薄手袋とメモ用紙、封印札の予備を順に並べていく。

 道具を並べたら、こちらの仕事は来るまで待つことだけになった。


 窓の外は曇りで、低い雲が街の上に広がっていた。

 昨日、難波が地図の上で赤ペンを走らせていた湾岸の倉庫街は、ここから車でしばらく走った先にある。

 今頃、最初の踏み込みが始まった頃だろうか。


 肩から下ろしたシオが、机の端にちょこんと収まる。

 外をぼんやり眺めるような姿勢で、しばらく動かない。


 「あの、おはようございます」


 声と一緒に、岸部が盆を持って近づいてきた。

 湯呑みと、紙袋に入ったパン。


 「今日は曇ってますね。お時間あるときに、どうぞ」

 「ありがとうございます」


 短く返すと、岸部は会釈をして、フロアの奥のほうへ戻っていった。

 他に人の気配はない。

 難波と御堂が朝早くから出ていったぶん、フロア全体が普段より一段静かに感じる。


 シオが、首だけこちらに向ける。

 机の上を一歩こちらに寄って、また止まった。


 時間が、静かに流れていく。


 フロアの奥で岸部が書類を整理する音が、小さく聞こえるだけになっていた。


 時計の表示が、9時を過ぎる。


 スマホが短く震えた。

 難波からの一行だった。


 『合同で拠点へ入りました』


 画面を一度見てから、伏せる。

 返信はしないでおいた。

 拠点に入った直後に画面を見ている余裕は、向こうにはないはずだ。


 パンの紙袋は、机の隅にそのまま置いたままにしてある。


 シオが、机の上で姿勢を低く落ち着けた。


 次の通知が来たのは、それから20分ほど経った頃だった。


 『中継倉庫と、簡易工房がひとつ。末端の人員数名を確保。中核は不在、抜けた形跡あり。押収品が想定より多いです。立会い鑑定、お願いできますか』


 文末に、難波らしくない丁寧な語尾がついている。

 現場のばたつきが、文字越しに薄く伝わってきた。


 『分かりました。こちらで受けます』


 短く返して、画面を伏せる。


 フロアの奥に視線を向けると、岸部がこちらを見ていた。

 通知が来たことに気づいたらしい。


 「岸部さん、午後、こっちに押収品が来ます」


 「あ、はい。御堂さんからも、午前中のうちに連絡もらってました。今、机寄せておきますね」


 岸部はそのまま、フロアの中央の長机を端に寄せ始めた。



 ◇



 昼を回って間もなく、台車の音がフロアに入ってきた。


 大阪管理局の搬送職員2人が、コンテナを3つ、フロア中央の長机に並べていく。

 伝票を岸部に渡して、軽い会釈だけ残して帰っていった。

 簡単なやり取りで終わったのは、現場側がまだばたついている証拠だった。


 岸部が伝票を確認しながら、こちらに目を向ける。


 「最初のコンテナから、開けてもらってもいいですか」

 「お願いします」


 岸部が手袋をして、いちばん手前のコンテナの蓋を持ち上げた。

 中身は装備品が中心で、短刀、小手、腕輪、ベルト類が、緩衝材を挟んで重ねられている。


 俺は薄手袋をはめて、机の前に立った。


 いちばん上の短刀から、手を伸ばす。


 ――――――――――――――――――――

 短刀(折れあり・処理対象)

 希少度:低

 状態:刀身根元から破断、柄に補修痕あり

 危険度:低

 推定価値:5千〜1万円(素材回収のみ)

 術式痕:刀身に汚染術式痕あり。湾岸の仕分けで上がっていたものと同型の組み方

 構造:表面の処理は雑だが、術式の組み込みは丁寧。本職の手によるもの

 備考:柄頭の角に、小さな刻印が1つ。休憩地で拾った薄い金属片と同じ記号

 ――――――――――――――――――――


 最初の1点目で、出てきた。


 短刀を机に置いて、次を取る。

 小手の内側、肘当ての縁を返したところに、同じ記号が刻まれていた。


 次の腕輪は留め具の裏に、その次のベルトはバックル金具の縁に、それぞれ同じ記号があった。


 刻印の位置はばらばらで、どれも目立たないところに小さく刻まれている。


 2点までは、偶然と読めなくもない。

 3点目で、その読みは消える。


 持ち主が複数いる。

 その複数人が、同じ記号で繋がっている。


 コンテナの中の他の品からも、同じ印を介した薄い気配が、いくつも返ってきた。

 1個や2個ではない。コンテナの底に向かうほど、同じ印を持つ品が増えていく。


 組織の規模が、品物の数で見えてきた。


 もう1つコンテナを開けてもらって、中の封印箱と保管箱を順番に確認する。

 封印箱の蓋裏と、保管箱の背面。

 どちらにも、同じ記号が小さく刻まれている。


 最後にもう1点、別の小箱の中から、術式の組み方そのものに見覚えのある護符が出てきた。


 東京で前にやった案件で見た術式と、組み方が同じだった。


 俺はその護符だけ、別の盆に取り分けた。


 スマホで、浅田に短く照会を投げる。

 大阪で出た術式痕の写真と、東京の案件で出ていた術式痕の照合依頼。

 難波の名前を出した上で、確認を頼む形で書いた。


 返信は、思っていたより早く来た。


 『照合かけました。組み方、完全に一致しています。同じ手の人間が、東京と大阪の両方で組んでいたと見て間違いないです。東野の方も、大阪管理局の聴取で末端確認まで取れたそうです。中核ではなく、運び役と仕分け役の中間あたり。中核は別動で、湾岸からは抜けた形跡があるとのこと』


 ここまでは、こちらが想定していた範囲だった。

 その下に、もう1行ついていた。


 『大阪湾岸の対応を続けるなら、そろそろ天城本社に話を通したほうがいい段階だと思います。真壁さんを長く大阪に置く形になっていますので』


 画面を一度、机の上に伏せた。


 浅田の言うことは、間違っていない。

 大阪に来てから、ホテルと支部と現場の往復だけで日が過ぎている。

 これ以上続けると、当初の依頼内容からも、依頼期間からも、はみ出してしまう。


 『了解しました。こちらで難波さんに伝えます』


 短く返事を入れた。


 「ひとまず、湾岸はここで一区切りですね」


 独り言に近い声で、机に向かって言った。

 返事は誰からもない。

 コンテナの中の押収品が、答えの代わりに机の上に並んでいる。


 俺は岸部のほうを見た。


 「アーカム関連の押収品、明日もう一巡できますか。今日のうちに気になったものを、もう一度通したいんです」


 「はい。難波さんと御堂さんも、明日の朝には戻られる予定です」


 「分かりました」


 短く返して、薄手袋を脱ぐ。


 机の上の押収品の山と、別の盆に取り分けた1点を、コンテナの順に岸部が片付け始めた。

 フロアの天井灯が、いつのまにか一段明るくなっていた。

読んでいただきありがとうございます。

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