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会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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上位登録試験(後編)

 翌朝、起きてすぐに月次記録を立ち上げて、シオの状態欄に「感応継続。肩上定位置。体重・飲む量に変化なし」と書き込んだ。

 前日と特に変わったところはない。

 記録を保存してから準備を済ませ、地下鉄で管理局の庁舎へ向かった。


 試験区画は前日と同じ部屋だった。

 扉を開けると、他の受験者3名がすでに席に着いている。

 登録鑑定士の男性は手元の書類に視線を落としていて、クランの女性は背を伸ばしたまま正面を向いている。

 民間鑑定士の男性だけが入ってきた俺に気づいて、軽く会釈した。

 俺も同じように会釈し、空いている席に着いた。


 肩口のシオは今日も静かにしていた。

 肩の先端の方へ少し位置を変えて、そこでまた落ち着く。


 全員が揃ってしばらくしてから、試験官が部屋に入ってきた。

 前日と同じ50代の男性で、上位鑑定部門の腕章をつけている。


 「応用鑑定を始めます」


 手元の書類を確認しながら、淡々と続ける。


 「今回の形式を説明します。受験者はそれぞれ別の鑑定室に入っていただきます。入室と同時に開始、制限時間は1時間です」


 顔を上げると、廊下の先に4つの扉が並んでいるのが視界の端に入った。

 各室がそのまま試験室になっているのが分かる。


 「各室に複数の物件が置かれています。危険な物・呪いの残滓を持つ物・価値のある物が含まれていますが、物件の配置と数は開示しません。室内を確認して、特別な扱いが必要と判断した物をすべて記録してください。根拠と扱い方も併せて記すこと」


 登録鑑定士の男性が小さく頷き、クランの女性は表情を変えずに耳を傾けている。


 「なお、ダミーや劣化品も混ざっていますので、誤判定も評価の対象になります」


 少し間を置いてから、試験官は付け加えた。


 「受験者ごとに室内の内容は異なります。難度も同じではありませんので、その点もご承知おきください」


 ひと通り説明を聞き終えてから俺は席を立った。



 ◇



 案内された4番室に入ると、背後で扉がゆっくりと閉まった。


 部屋は広めの倉庫型の造りで、棚が3列、壁際に台が2台、床にはいくつかの木箱が置かれている。

 物件がどこに紛れているのか、一見しただけでは分からない。

 室内全体が保管場所のように見えた。


 肩口でシオがわずかに動いて、棚の奥の方へ向いている感じが伝わってくる。

 何かを示す動きではなく、室内の魔力の偏りに反応しているように感じた。


 まずは全体を一度見渡してから、手前の棚の端に立って【鑑定】を向け始める。


 最初に目に入ったのは、棚の中段に置かれた陶製の小瓶。

 外見は普通の保管容器に見えるが、底面の封印が薄く劣化しているのが分かった。


 ――――――――――――――――――――

 封印破れかけ容器(内圧蓄積型)

 希少度:C

 状態:封印不安定(内圧残存)

 危険度:高

 推定価値:廃棄

 術式痕:表層封印は維持されているが、内側の封印術式が劣化している

 備考:開封または強い衝撃を与えた場合、内圧が周囲に放出される可能性あり。

 外見での判別は困難

 ――――――――――――――――――――


 「危険・隔離」の欄に分類し、内部構造と扱い方の根拠を書き添えた。

 表層封印の残量と劣化の進み方を一文で補足してから、次の物件に視線を移す。


 壁際の台の上では、廃材に混じって石板が一枚置かれていた。

 一見、ただの石材にしか見えない外見だが、【鑑定】を向けると術式が活性状態のまま残存していると出る。

 希少度Bで、加工業者に渡せば素材として十分な価値がつく内容になっている。

 迷わず「価値のある素材」の欄に書き込んだ。


 次に確認した棚の奥の金属製の小箱は、表面に封印処理のような刻印が施されている。

 一見すると要警戒に見える種類だが、【鑑定】の結果は術式としての機能を持たない装飾用の刻印で、ただの古い保管箱に過ぎない。

 誤判定を誘うための物件と判断して、「ダミー・劣化品」の欄に記録した。



 ◇



 しばらく棚を見回っていると、肩口のシオが急に首元から離れようと強く動いた。

 これまでの落ち着いた動きとは明らかに違う、感情をはっきりと出している反応だった。


 その先には、床に置かれた木箱がいくつか並んでいる。

 シオが指している方向にある一箱に近づいて、【鑑定】を向けた。


 外見は普通の梱包資材だが、内側に呪い刻印の痕跡が残っているのが分かった。


 ――――――――――――――――――――

 呪い刻印残存木箱(接触汚染型)

 希少度:D

 状態:汚染(刻印残滓・残存)

 危険度:中

 推定価値:廃棄

 術式痕:呪い系の刻印が木材内部まで浸透した状態で残存

 備考:素手で長時間触れた場合に軽度の干渉が生じる可能性あり。封入処理を推奨

 ――――――――――――――――――――


 「触れてはいけない物」の欄に分類して、処理手順と隔離方法を書き添えた。

 木箱の周辺に他の物件がないことを確認してから、棚側に視線を戻す。


 残りの棚を順に確認していった。

 装飾品と劣化品が合わせて4点並んでいたが、いずれも特別な処理は必要のない品で、まとめてダミーとして記録した。


 ここまでで一通り見たことになる。

 最後に残ったのは、壁際の床に積まれた布の束だった。


 布の束に視線を向けたところで、肩口のシオが急に動いた。

 これまでの「気になる」程度の反応とは明らかに違う、首元より向こうへ強く離れようとする動きで、姿勢ごと変えるような勢いがある。


 明確な警告の動きと判断して、布の束へ【鑑定】を向けた。


 ――――――――――――――――――――

 呪い布(複合残滓付き・高度)

 希少度:B

 状態:汚染(複合呪い残滓・活性状態)

 危険度:高

 推定価値:廃棄(専門処理必要)

 術式痕:浸透型と接触型の呪い残滓が重なって残存。

 直接触れた場合、複合干渉が生じる可能性がある

 備考:通常の封入処理では不十分。管理局の専門処理班が必要

 ――――――――――――――――――――


 今まで見た中で一番厄介な物だった。

 処理手順と必要な対処班の種別まで欄を埋め、要除去の中でも特別扱いにする旨を併記してから記録用紙を閉じた。


 ペンを置いて、室内全体をもう一度ゆっくり見渡す。

 棚の隅、床の木箱の影、台の裏側まで順に視線を走らせて、見落としがないことを確かめてから退室した。

 手元の時計を確認すると、制限時間は40分ほど残っていた。



 ◇



 廊下に出ると、他の鑑定室の扉はまだどれも閉まったままだった。


 壁際の椅子に腰を下ろして、肩口のシオに目をやる。

 シオはケースに戻したわけでもないのに静かにしていて、廊下の天井をぼんやり眺めるような姿勢のまま動かない。

 時計の針が進むのを眺めながら、俺はそのまま待った。


 制限時間に近づいたあたりで、ようやく一番手前の扉が開いた。

 登録鑑定士の男性が用紙を手に出てきて、廊下に座っていた俺に気づいて軽く眉を上げる。

 残り時間ギリギリまで部屋にこもっていたらしく、表情にはまだ集中の余韻が残っていた。

 その少し後、クランの女性も用紙を片手に出てくる。

 背中を伸ばしたまま、こちらに一度目を向けたが何も言わない。

 最後の民間鑑定士の男性が出てきたのは、制限時間の終了寸前だった。

 額にうっすら汗が浮いている。

 廊下で先に待っていた俺の方を見て、少しだけ目を細めた。


 全員が揃ったのを確認してから、試験官が廊下に出てきて4人分の用紙を順に回収していく。


 「お疲れさまでした。結果は後日、書面でお送りします」


 言ったのはそれだけで、内容への言及も他の受験者との比較もない。


 登録鑑定士の男性が小さく頷き、クランの女性が静かにバッグを肩にかける。

 民間鑑定士の男性は俺の方を一度見てから、廊下の出口へ顔を向けた。

 俺も用紙の控えをしまって、出口へ歩き始めた。


 肩口でシオが静かに姿勢を変えた。

 感情の動きが伝わってきたわけではなく、ただ体の位置を整え直しただけの動きにすぎなかった。



 ◇



 受験者が全員帰ってから、試験区画の奥の小部屋で試験官2名が用紙を広げていた。

 前半・後半を含む全試験室の用紙が、机の上に4部並べられている。


 「4番室の用紙、もう一度見てください」


 補佐の担当者が指したのは、俺の記録の最後に書かれていた複合型残滓の欄だった。


 「これ、うちが設定した処理基準と違います。接触型が重なっていること、書いてあります」


 「ああ。私も用紙を読んでから初めて確認した」


 試験官が用紙を改めて手に取った。


 「持ち込んだ段階では浸透型として扱っていた。接触型の残滓が重なっていたところまでは把握できていなかった。あの布、処理の手順を間違えていたら現場で干渉が出ていた可能性がある」


 少し沈黙があった。


 「こちらが試験に使った物件の危険度を、受験者の方に教わった形ですね」


 「そうなる」


 担当者が他の欄に視線を移した。


 「後半で差し替えた物件についても全件出てます。最上位基準で設計した内容で、処理の種別まで書いたのはこの用紙だけです。過去の試験でこの欄を埋めた受験者はいませんでした」


 「そうだな」


 「採点基準、どうしますか。上位登録の判定枠には正直、収まらないと思います」


 試験官は用紙を揃えながら少し考えた。


 「上に回す。私の権限で結論を出す話じゃない。一目見てほぼ迷わず全部出してくる鑑定士を、上位登録の枠でどう扱うか、私には判断できない」


 担当者が頷いて、用紙を丁寧にファイルへ収めた。



 ◇



 庁舎を出たとき、外はすでに午後の明るさで、空気がうっすら温んでいた。


 結果については後日書面で通知すると言っていたから、しばらくはこちらからできることもなかった。

 どう判定されるかは分からないが、見るべき物はひと通り見たという手応えが残っている。


 肩口に視線をやると、シオは今日もそこにちょこんと張りついている。

 試験中もずっと同じ場所にいて俺が向きを変えるたびに脚で服地を小さく掴み直して、ずれずについてきていた。


 念のため保護容器をバッグから出してシオを移そうとすると、嫌がるように首元の方へすっと位置を変えた。


 今日はもう少し、外の空気を感じていたいらしい。


 容器をそのままバッグに戻して、俺は駅の方角に向かって歩き出した。

 試験は終わったが明日からはまた、いつもの仕事の日が続いていく。

読んでいただきありがとうございます。

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