連動護符の照合
浅田からの連絡は午前のうちに届いた。
『別件護符が届きました。先日お話した、同じ流通経路からのものです。都合のいいときに来ていただけますか』
『午後に伺います』と返信してスマホを閉じた。
家の中で色々と雑務を終えると午後に差し掛かっていた。
「そろそろ出るか」
保護容器に目を落とすと、シオが殻の内側で身じろぎした。
出かける気配を察したらしい。
携行ケースに容器を収めて、スマホと鑑定道具を鞄に詰めてから部屋を出た。
◇
管理局の小部屋は前回と同じだった。
浅田が先に待っていて、机の上に封入袋が2つ並んでいた。
1つは先日の護符で、もう1つが今回届いた分だった。
「押収元は近い場所です。ただし同一現場ではなく、別の回収ルートを経由しています」
「通常鑑定の結果は」
「同種の劣化護符の可能性あり、で止まりました。前回と同じでした」
2点を並べて確認した。
外観は似ているが、劣化の仕方が違う。
前回の護符は全体的に均一に古びていた。
今回のものは端の部分が集中して摩耗していて、内側の術式線の一部が他の箇所より強く残っている。
使われ方か保管状況の差か、外見だけでは判断できなかった。
腰のケースがわずかに揺れた。
ケースの合わせ目から光が淡く漏れていた。
シオが護符の方へ頭を向け、容器の中で体勢を変えた。
前回と同じ種類の反応で、強くはなく、向いたまま止まっている。
「出していいですか」
浅田が頷いた。
携行ケースを開いて護符の横に並べた。
シオは護符の方を向いたまま静かにしていた。
真壁は2点の護符を手元に引いて、【鑑定】を向けた。
――――――――――――――――――――
汚染護符(中継型・第2個体)
希少度:D
状態:術式消失(機能停止)
危険度:低(機能停止のため)
推定価値:なし
術式痕:前回照合個体(第1個体)と同系統。識別刻印の形式が一致
構造:表層術式は消失しているが、内部に識別刻印が残存。前回個体と同一の連動設計で、複数個体が連動して機能する前提で製造・流通されたもの
接続先・発信源:不明(この個体単体では特定不可)
備考:2個体の識別刻印形式の一致により、製作・配布元が複数個体を意図的に連携させて流通させていたことが、単発ではない流通として傍証付けされた
――――――――――――――――――――
「同じでした。識別刻印の形式が前回の護符と一致しています。この2点は同じ設計で、連動する前提で作られています」
浅田が手帳に書き込んだ。
「単発ではなかった、ということですね」
「少なくとも複数個体が実際に流通していた。同じ設計がばらけて動いていたと考えた方が自然です」
「出所の手がかりはありますか」
「この2点だけでは出ません。ただ連動が設計として確認された以上、他にも同じものがある前提で調べる必要があります」
浅田が手帳から顔を上げた。少し間があった。
真壁は2点の護符を並べたまま、もう一度識別刻印の部分を見た。
形式は一致している。ただ末尾がわずかに違う。
細かい差だが、揃えて見なければ気づかない程度のものだった。
「1点追加があります。2点の識別刻印、末尾の形式がわずかに違います」
「同じ設計から出たものですよね」
「設計は同じです。ただ末尾の差が、流通ロットか経由ルートの違いを示している可能性があります。同じ製造元から出て、別の流し先へ渡ったかもしれない。断定はできませんが、無視できない差です」
浅田がもう一度書き込んだ。
「ロット差が出るなら、回収場所の重なりを見直せます。押収元の記録を当たります」
2点の護符を封入袋に戻して返した。
「また何かあれば連絡します」と浅田が手帳を閉じた。
◇
夜、29回目の配信を入れた。品川のB4Fだった。
携行ケースを腰に取り付けて、証明書を提示してから配信を始めた。
「29回目です。品川のB4Fに入ります」
コメントが流れた。
『あの子また来てる?』
『名前ついたの?』
腰のケースのロックを外して、シオを取り出した。
手のひらの上で殻の光が薄く揺れている。カメラを向けた。
「今日も同行しています。名前は、シオにしました。書類上の仮称ですが」
コメントが少し増えた。
『シオ』
『いい名前じゃん』
『潮晶殻獣だからシオか』
『仮称ってことはまだ変わるかも?』
『もうシオで定着しそう』
シオをケースに戻してロックをかけ、奥へ向かった。
シオは携行ケースの中で落ち着いていた。
ケースの合わせ目から光は漏れていない。
B4Fはいつもどおりだった。
段差が多い通路、壁際に古い回収の痕跡がある。
真壁は足元を見ながら進んだ。
通路の半分を過ぎても大きな反応はなかった。
折れ曲がりの手前で、床の隅に小さな布片が落ちているのを見つけた。
封印残滓がわずかに残っている。
鑑定を向けると、劣化した術式の残り香がある廃材で、推定価値は6千円前後だった。
回収して先へ進んだ。
通路の端で腰のケースが一度だけわずかに揺れた。
シオが動いて光が薄く漏れたが、すぐに止まった。
今日はそれ以上の反応はなかった。
「今日は小さかったです」と言って配信を閉じた。
コメントに『こういう回も好き』が流れていた。
◇
帰路についてしばらくして、浅田からの短い連絡が届いた。
『押収元の記録を照合しました。今回の2点、回収場所のひとつが以前の案件と近い地点と重なっています。偶然とは言いにくい重なり方です。詳しくは次回共有させてください』
端末を閉じながら少し考えた。
2点の護符が一致した。
識別刻印の末尾に差がある。
回収場所が以前の案件と重なっている。
それぞれは確認できる事実だが、つながりを示すにはまだ足りない。
ただ、点が増えるたびに向きが揃ってきている。
現物を1点ずつ確認しているだけでは追えない段階に来ており、流れそのものを見に行く必要がある。
シオが携行ケースの中で一度だけ動いた。
護符はもうないが、体勢を変えただけだった。
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