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会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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連動護符の照合

 早朝、いつもの日課になりつつあるシオの月次記録を開いた。


 シオの状態欄に今週分を書き込む。

 殻の光量はほぼ変わらないが、容器の中での移動が増えており、目を開けている時間が長くなってきている。

 外部の動きに固まる時間が短くなった。

 これは色んな刺激に慣れてきているということなのだと思う。


 管理局支給の魔力栄養液を細口の滴下器で少量入れると、以前より早く向きを変えて液の方へ寄ってくる。

 飲み終えた後も、しばらく液の側の壁に寄ったままでいた。

 容器の脇に指を近づけると、まだ少し固まるが逃げない。

 目がこちらへ向く。


 懐いたとまでは言えないが、距離が少しずつ縮まって来ているような気がする。


 月次記録を見返すと、確実に成長していると実感できる。

 動きも出て来たし、何よりも外の世界に興味を持っているようなそぶりが最近増えてきた。


 「しっかり成長できているな」


 そんなことを呟きつつ、記録を保存してスマホを閉じた。



 ◇



 浅田からの連絡は午前のうちに届いた。


 『別件護符が届きました。先日お話した、同じ流通経路からのものです。都合のいいときに来ていただけますか』


 『午後に伺います』


 返信してスマホを閉じた。

 そして家の中で色々と雑務を終えると午後に差し掛かっていた。


 「そろそろ出るか」


 保護容器に視線を移すと、シオが殻の内側で身じろぎした。

 出かける気配を察したらしい。


 「シオ、出かけるぞ」


 携行ケースに容器を収めて、スマホと鑑定道具を鞄に詰めてから部屋を出た。



 ◇



 管理局についた俺は、前回同様の会議室に通される。

 浅田が先に待っていて、机の上に封入袋が2つ並んでいた。

 1つは先日の護符で、もう1つが今回届いた分だった。

 

 「来ていただいてありがとうございます」


 「いえ、依頼ですから。……これですか」


 「そうです。押収元は近い場所なのですが同一現場ではなく、別の回収ルートを経由しています」


 「なるほど。通常鑑定の結果は」


 「同種の劣化護符の可能性あり、で止まりました。前回と同じです」


 「わかりました。とりあえず鑑定に入ります」


 2点を並べてまず最初の目視から始める。


 最近わかってきたことだが、いきなり鑑定スキルを発動するよりもこうしてじっくり観察してから鑑定スキルを発動すると、より深い情報が読み取りやすいことから、この最初の目視を重要視していた。


 外観は似ている…が、劣化の仕方が違う。

 前回の護符は全体的に均一に古びていた。

 今回のものは端の部分が集中して摩耗していて、内側の術式線の一部が他の箇所より強く残っている。

 使われ方か保管状況の差か、外見だけでは判断できなかった。


 目視確認を行っている途中で、腰のケースがわずかに揺れる。

 そちらに軽く目を向けると、ケースの合わせ目から光が淡く漏れていた。

 シオが護符の方へ頭を向け、容器の中で体勢を変えていて反応自体は強くはないが、向いたまま止まっている。


 「出していいですか」


 浅田が頷いた。


 携行ケースを開いて護符の横に並べた。

 シオは護符の方を向いたまま静かにしていた。

 

 (明らかに反応を示しているな)


 真壁は2点の護符を手元に引いて、【鑑定】を向けた。


 ――――――――――――――――――――

 汚染護符(中継型・第2個体)

 希少度:D

 状態:術式消失(機能停止)

 危険度:低(機能停止のため)

 推定価値:なし

 術式痕:前回照合個体(第1個体)と同系統。識別刻印の形式が一致

 構造:表層術式は消失しているが、内部に識別刻印が残存。前回個体と同一の連動設計で、複数個体が連動して機能する前提で製造・流通されたもの

 接続先・発信源:不明(この個体単体では特定不可)

 備考:2個体の識別刻印形式の一致により、製作・配布元が複数個体を意図的に連携させて流通させていたことが、単発ではない流通として傍証付けされた

 ――――――――――――――――――――


 「識別刻印の形式が前回の護符と一致しています。この2点は同じ設計で、連動する前提で作られています」


 浅田が前回の記録に目を落とす。


 「単発ではなかった、ということですね」


 「少なくとも複数個体が実際に流通していたということでしょう。同じ設計がばらけて流通していたと考えた方が自然です」


 「出所の手がかりはありますか」


 「この2点だけでは出ません。ただ連動が設計として確認された以上、他にも同じものがある前提で調べる必要があります」


 「確かにその通りですね」


 真壁は2点の護符を並べたまま、もう一度識別刻印の部分を見た。

 形式は一致している。ただ末尾がわずかに違う。

 細かい差だが、揃えて見なければ気づかない程度のものだった。


 「1点追加があります。2点の識別刻印、末尾の形式がわずかに違います」


 「同じ設計から出たものですよね」


 「設計は同じです。ただ末尾の差が、流通ロットか経由ルートの違いを示している可能性があります。同じ製造元から出て、別の流し先へ渡ったかもしれない。断定はできませんが、無視できない差です」


 「ロット差が出るなら、回収場所の重なりを見直せますね。押収元の記録をすぐに当たります」


 2点の護符を封入袋に戻して返した。


 「また何かあれば連絡します」


 「はい、お待ちしています」



 ◇


 

 管理局から一度自宅に戻り、そして深夜。

 俺は品川第七ふ頭ダンジョンで29回目の配信を入れた。

 

 携行ケースを腰に取り付けて、証明書を提示してから配信を始める。


 「29回目です。今日は品川のB4Fに入ります」


 早速コメントが流れた。


 『あの子また来てる?』

 『名前ついたの?』


 腰のケースのロックを外して、シオを取り出した。

 手のひらの上で殻の光が薄く揺れている。

 そしてシオが映るようにカメラを向けた。


 「今日も同行しています。名前は、シオにしました。書類上の仮称ですが」


 コメントが少し増えた。


 『シオ』

 『いい名前じゃん』

 『潮晶殻獣だからシオか』

 『仮称ってことはまだ変わるかも?』

 『もうシオで定着しそう』


 「変えるかもしれませんが、多分このままかな? シオからもっといい名前をって言われない限りはですけど」


 シオをケースに戻してロックをかけ、奥へ向かった。

 

 B4Fはいつもどおりだった。

 段差が多い通路、壁際に古い回収の痕跡がある。

 俺は回収屋としての基本でもある、足元を注意深く見ながら進む。

 今日は大した物も落ちておらず、1時間過ぎても大きな収穫はなかった。


 そんな渋い状況の中で、地面の隅に小さな布片が落ちているのを見つけた。

 封印残滓がわずかに残っている。

 鑑定を向けると、劣化した術式の残り香がある廃材で、推定価値は6千円前後だった。


 「今日はこんな感じのものが多いですね」


 しっかりと回収して先へ進んだ。

 それからも配信を続けていたが、目立つ物は回収できずに終了を迎えた。

 

 「今日はいいもの落ちて無かったですね。また次回、よろしくお願いします」


 配信を閉じるとコメントに『こういう回も好き』が流れていた。

 地味にうれしいコメントだった。



 ◇



 帰路についてしばらくして、浅田からの短い連絡が届いた。


 『押収元の記録を照合しました。今回の2点、回収場所のひとつが以前の案件と近い地点と重なっています。偶然とは言いにくい重なり方です。詳しくは次回共有させてください』


 スマホを閉じながら少し考えた。


 2点の護符が一致した。

 識別刻印の末尾に差がある。

 回収場所が以前の案件と重なっている。

 それぞれは確認できる事実だが、つながりを示すにはまだ足りない。

 ただ、点が増えるたびにこれらが示す先が出揃って来始めているようにも思える。


 そして現物を1点ずつ確認しているだけでは追えない段階に来ており、流れそのものを見に行く必要がある。


 「シオ、どう思う?」


 何気なく言葉にすると、シオが携行ケースの中で一度だけ動いた。

 別に返答したわけじゃないんだろうが、反応してくれたことにちょっとだけ嬉しい気持ちになった。

読んでいただきありがとうございます。

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