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会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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壁の中の封印箱

 朝、保護容器を確認した。


 保護幼体は容器の底で動かない。

 青灰色の殻が薄く光を反射していて、目は半開きのままで前日から特に変化はない。

 月次報告の様式がメールで届いていたが、今日のところは特に書くことがなかった。


 『環境変化なし、活動低調』


 管理局からは似た事例の種について情報をもらっただけで、まだ読み込めていない。

 こいつが何を食べるのか、どういう活動サイクルなのかも一切の謎で不安だけが残る。


 とはいえ、今やれることをやるしか俺にはできない。


 「今日のスケジュールは…」


 スマホのスケジュールを開くと、本日の配信スケジュールが記載されていた。


 今日は27回目の配信を入れており、場所は品川第七ふ頭ダンジョンのいつものB4Fを予定している。


 スケジュールを確認後、保護容器に目を向けた。 

 保護幼体を連れていくかどうか少し考え、そして昨日の帰り道の出来事を思い出す。


 昨日の帰り道で、バッグの方を向いて殻の内側の光が一瞬だけ揺れた。

 あれが何に反応したのか、自宅に戻ってきたときにはもう確かめようがなかった。


 「わからないことだらけだしな。色々と試してみるか」


 ちょうど腰に取り付けられる小型の携行ケースが一つある。

 保護容器より一回り小さいが、保護幼体が収まるかどうか試しに入れてみると、ちょうど入った。


 ケースの蓋を一度閉めて、また開けた。

 保護幼体は変わらず動かない。


 連れ出すこと自体が負担にならないかは、判断がつかなかった。

 ただ、衰弱は進んでいて、これ以上進んだ場合は試すこともできなくなってしまう。

 だから母岩から離れた場所での反応も、今のうちに見ておきたかった。


 「……よし」


 今日は連れていく、と決めた。



 ◇



 品川第七ふ頭ダンジョンの入口で証明書を提示し、いつものように配信を始めた。


 「27回目です。今日もおなじみの品川のB4Fに入ります」


 コメントが流れ始めた。

 腰の携行ケースのロックを外し、保護幼体を取り出した。

 手のひらに乗る大きさで、青灰色の殻が薄く光を反射している。


 その保護幼体にカメラを向けた。


 「管理局の許可を取った保護対象です。今日は同行させています」


 コメントが短く動いた。


 『何それ』

 『生き物?』

 『許可取ってるなら大丈夫か』

 『ちっちゃいな』


 「詳しい話はまた別の回でします。今日は探索を進めます」


 保護幼体をケースに戻してロックをかけた。


 「行きます」


 いつもの足取りで奥へ向かった。



 ◇



 B4Fはいつもどおりの感じだった。


 通路の幅が少し狭くなり、床の段差が多くなる。

 壁際に目を向けると古い回収の痕跡がある。


 この辺りはB3Fと違って、整理されたり整理されていなかったりする区画が混在している。

 フロアの使い方が上の階層とは違っており、ここにはあまり管理局の資材などは置かれていなかった。


 俺は丁寧に周辺を見ながら進んでいた。


 今日は頻繁に携行ケースの様子を伺っているが、ケースの中でほとんど動いた様子はない。

 殻の光も揺れておらず、これが普通の状態なのか不活発なのか、判断できる根拠はまだ見つかってはいない。


 通路の角を2つ過ぎたあたりで、通路の端に避けられていた旧式の試料袋が落ちているのを見つけた。

 結び目が残っているが、中身は誰かが先に取ったあとで、外装だけ残っていた。

 鑑定を向けると「素材価値なし」が返ってきたため、そのままにして先へ進んだ。


 視聴者コメントが時折流れた。


 『今日は静かな入りだな』

 『携行ケースの子、反応あんまりない感じ?』

 『B4Fは不作のときと当たりの時の差がけっこうあるよな』

 『こういう普通回も嫌いじゃない』

 『この配信はギャンブル性高いから上に触れた時ハンパない』


 特に目立つ拾い物は出ないまま、B4F奥へ進んだ。



 ◇



 B4Fの北側通路を進んでいるとき、携行ケースの中で音がした。


 硬いものが微かにぶつかるような、短い音だった。

 昨日の帰り道と同じ種類の音だと、真壁にはすぐ分かった。


 視線を注意深く周囲へと広げる。

 保護幼体がケースの中で頭をわずかに起こし、通路の右手の壁の方向へ向いている。

 殻の内側の光が一瞬だけ強くなって、また元の薄さに戻った。


 保護幼体が向いた方向の壁を見た。

 古い継ぎ目が縦に走っている。補修跡のようにも、何かを埋めて塞いだ跡のようにも見えた。

 同じような継ぎ目は通路のあちこちにあって、特別な目印にはならない。


 ただ右端の部分だけ、ほんのわずかに歪みがあった。

 保護幼体が反応していなければ、自分でも素通りしていたはずだった。


 「なにかある?」


 【鑑定】を向けた。


 ――――――――――――――――――――

 旧式封印箱(埋没状態)

 希少度:A

 材質:魔力遮断合金・外装

 状態:構造保全(埋没による保護)

 内容:封印保存済み触媒片×3(種別・品質は開封後確認)

 推定価値:12万〜18万円(中身の品質による)

 備考:外装を無理に破損した場合、内部素材の品質が低下する可能性あり。

 壁面接触部の緩衝層を先に処理し、正しい順序で取り出すことを推奨

 ――――――――――――――――――――


 「……壁の中に箱があります」


 配信に向けて言った。


 「旧式の封印箱で、中身がまだ生きています」


 コメントが動いた。


 『え?』

 『壁の中?』

 『どこ見てたんだ』

 『鑑定で分かるのか』



 ◇



 俺は壁との接触部分を指先で確かめた。

 表面は補修跡のように見えるが、指先に返ってくる手応えが周囲の壁とは違っている。

 奥に固いものが収まっている感触だった。

 鑑定が示した緩衝層の部分を探し、そこに指先をかけた。


 無理に引き剥がすのではなく、壁面の素材を傷めないように順番を守りながら外していく。

 少しずつ隙間が広がり、金属質の外装が見えてきた。

 緩衝層を全部外すと、縦10センチほどの小型箱が壁から半ば顔を出した。


 「取れます」と言いながら、慎重に引き出した。

 表面に錆はない。密閉が保たれている。


 開け方は鑑定が示しており、側面の突起を特定の順序で押すと内側の封印が解ける構造だった。

 3回押すと、蓋が浮く。


 触媒片が3つ入っていた。

 小型で、それぞれ色の異なる結晶が封印保存されている。

 個別に鑑定すると、合計で15万円前後の値が出た。


 「中身が出ました。封印保存の触媒片が3点です。合わせて15万前後になります」


 『まじか』

 『壁を掘り当てた』

 『普通の回じゃなかった』

 『これがあるからこれ見るのやめられねぇ笑』 



 ◇



 その後数時間B4Fを探索するも、特に何も見つからず配信も終了した。

 配信を閉じた後、携行ケースを見ると保護幼体はまた静かにしていた。

 頭を向けて反応したのが嘘みたいに、いつもの不活発な状態に戻っている。


 昨日の帰り道と今回で2回、同じ種類の反応があった。

 どちらも封印に関係したものに向かっていた。


 (こういうのに反応するのかもしれない)


 ただし2件だった。

 偶然かどうかも、条件が揃っているかどうかも、まだ判断できない。


 次は封印物を意図的に近づけてみるか、と考えた。

 断定する前に、もう1回くらい確かめた方がいい。

読んでいただきありがとうございます。

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