元同僚の連絡と、横浜への再依頼
朝、スマホを開くと三浦からの文面が残っていた。
『会社でちょっと回ってる』
嫌な感じはあった。
ネット上の匿名の書き込みと違って、顔と名前のある人間が動いている話だ。
ただ、旧職場の中の動きを自分が直接止める手段はない。
できることをやるだけだった。
◇
三浦に返信した。
『俺から会社側に何か言うつもりはない。その話をこれ以上広げないでくれ。ただ、何か具体的に動いたらそのときだけ教えてくれ』
送信して、スマホを置いた。
15分ほどして返信が来た。
『了解。俺も広げるつもりはない。古田さんあたりはたぶん気づいてると思う。総務経由で変な噂になる前に言っておこうと思って』
返信はしなかった。
気を利かせたつもりで余計なことも言う。
三浦という人間は、会社にいた頃からずっとそういうタイプだった。
◇
昼前、浅田からメッセージが届いた。
『横浜母岩の件で、管理局の専門チームを入れる前に追加確認をお願いしたいです。前回の切り出し地点付近に、まだ未確認の付着反応がある可能性があります。正式依頼として出しますので、受けるかどうか判断してください』
前回持ち帰った欠片を切り出したあたりの壁に、変色した部分があった。
特に気にしていなかったが、改めて確認するならそこだろう。
『受けます。次の配信を終えたあとで日程を調整します』
『ありがとうございます。依頼メールを明日までに送ります』
それで連絡は終わった。
スマホを開いて確認した。
今夜の配信、それから横浜。
順番に動けばいい。
◇
夜、25回目の配信を始めた。
「今日は品川のB4Fを見てきます。最近B3Fが多かったので、少し下まで入ります」
コメントが流れた。
『今日も落ち着いた感じだな』
『こういう通常回も好き』
『横浜の前に品川を見ておきたかった』
「大発見は期待しないでください」
B4Fへ下りた。
B3Fより通路が細く、照明の間隔が広い。
足元が砂っぽくて、壁の質感が上の層と少し違う区画だった。
◇
壁の低い位置に、小さな金属片がいくつか引っかかっていた。
縦3センチほどの薄い金属の札で、端に小さな穴が開いている。
表面が変色していて、刻印のようなものがかすかに残っていた。
古い名札か廃材にしか見えない。
「小さい金属片が何枚か落ちています。確認します」
一枚拾い上げて【鑑定】を向けた。
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旧式封緘タグ(単体)
希少度:C+
素材:旧式魔力封止合金
単体売却価値:2,000〜4,000円
備考:旧式の封印箱や魔力保管具の識別・封止部材として使用されたタグ。
単体では用途が限定されるが、同系統のタグが3〜4枚揃うと旧式保管具の修復素材として需要が出る。まとめると40,000〜70,000円程度になる
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「単体だとそこまでですが、同じ種類が揃うと4万〜7万円ほどになります」
周囲を確認した。
同じ形のものが壁際に散らばっていた。
数えると5枚あった。
「あと4枚あります。全部持って帰ります」
コメントが動いた。
『地味だけど確実』
『揃えると価値が出るのか』
『こういう地道なやつ好き』
「大きいものが出る日ばかりじゃないので。これで十分です」
5枚まとめて袋に入れた。
こういう地味なものを拾っているときの方が落ち着く。
見た目では何もない場所で、何かを見つける。
そういう日のやり方が、自分には一番合っていた。
◇
配信を終えたのは2時間後だった。
視聴者ピークは5,900人。前回に引き続いて静かな回だった。
スレを確認した。
新しい動きはなかった。
スレを閉じると、メッセージアプリに通知が残っていた。三浦からだった。
『まだ名前は出てない。ただ声で気づくやつはいるかも』
返信はしなかった。
部屋の机の上に、民間鑑定士の証明書と、浅田から届いた横浜再調査の依頼メールを表示し、今日回収した旧式封緘タグ5枚を並べた。
現実側の圧は少しずつ増えていた。
ただ、次に行く場所はもう決まっていた。
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