ヴァイオレット家の巣窟駆除
赤い、朱い、紅い獣達が、俺とシエナを餌として見ているのが分かる。
「悪皇子!!貴様のせいで首がもげたわ。戻せ!俺様の体……」
「…………黙って逝け。化物」
大鎌で、セバスチャンの頭部を攻撃し。《《完全に仕留めた》》。そして、大鎌の刃の部分にひび……割れ目ができ始めた。この武器も、そろそろ限界が近いな。
こいつら……いや、紅食獣は、とにかく生命力が強い。確実に息の根を止めないと、今の年齢と身体では攻撃されて深手を負ってしまうので一撃で殺す。ウイスキーモンキーの時と一緒だ。
『アルティミス・オーブ』のゲーム内で、ヴァイオレット領地で起こるイベント『ヴァイオレット家の真実』で、この展開になることは分かっていた。
アルティミス皇国の辺境に住むと言われる、知性高いモンスター、紅食獣が、ヴァイオレット家の人間達を一人を除いて皆殺しにして、ヴァイオレット家を乗っ取る。
それを主人公のティファニーが、看破して、ヒロインのシエナと共に乗り切る……11年後に起こるイベント。
「……………バカヨル……私………頭がクラクラするの………なにか可笑しいのよ」
シエナの様子が可笑しい。口から泡を吹いて白目を向いている。
このまま、彼女を放って置いたら精神崩壊を起こすな。
「…………あいつ等の本当の姿を見て、洗脳が解け始めたところなんだろう。すぐに終わらせる。〈『死神舞踏」
大鎌を一振する。すると月の満ち欠けのような形の斬撃が、紅食獣へと向かっていく。
【なんでバレた?俺達の正体なんでバレ……ぇ?】
【殺そう。殺そう。正体バレたんだがら、悪名高い、あの第二皇子を殺そう。そうすれば、他の貴族達も喜ぶ喜……ぶぅ?】
【シエナも食べよう。あいつの家族を食べた時のように食べ……よぉ?】
次々に、切り刻まれていく化物達の身体。そして、さらに大鎌にはひびが入った。
「……………ヨル。私、どうなってるの?私の家族は?」
「…………シエナ」
君の家族は残念だが。数名を除いて化物達に食われたなんて、まだ6歳時のシエナに言えるわけがなかった。
まったく、この世界の主要キャラ達は、なぜ、皆不幸な生い立ちなんだろうか。
「…………今は、疲れただろう。寝ていろ。次に起きたら君が新当主で、ヴァイオレット領地も平和になる」
「………難しいこと言われても分からないわよ。私、バカだもん」
「それなら、これから学んで頭を良くすれば良い。今後は、君を俺が見守るから、今は眠りに落ちて……〈グリム・リプス〉」
「……ヨル?………私になにしたのよ……」
闇魔法で、強制的に眠らせた。これから起こる残忍な景色を彼女に見せたくないからな。
「オホホホ!!あら?敵対してるのに、随分とその小娘に優しいのね。意外だわ。悪辣な第二皇子様」
「…………うるさいぞ、悪知恵猿。これだから、牙獣種系統のモンスターは嫌いなんだ。人に化けて悪さをするからな」
「ルホホホ!!じきに『レーヴァトス・ホール』領地もそうなる予定よ。今頃は、お前の家族も酷い殺され方をされているでしょうね。お前はなぜ、こっちに来たのかしら?」
「それなら、『レーヴァトス・ホール』に着いたと同時に、全て駆除し尽くしたぞ。残念だったな。魔猿だけの楽園作りができなくなって」
「…………はぁ?……ちょっと待ちなさい。レーヴァトス・ホールには私の本当の夫が……ウイスキーモンキーのウイルが仕切っているのよ」
「俺をいきなり襲ってきた奴か?それなら、真っ先に殺して毛皮を剥いだぞ。死骸は邪魔だったから。『ディープホール』のモンスターの餌にした」
ウイスキーモンキーやピンキーモンキーの死骸は、腐ると異臭を放つからな。地上に残さずに、ディープホールに転移で移動させるのが一番効率的だった。
ディープホールのモンスターを手懐けられるし、牙獣種の匂いも覚えさせられるから一石二鳥だったな。
「あぁ!?……お前!!私の夫を……レーヴァトス・ホールの支配者になるウイルをどうしたのよ?」
「だから、真っ先に殺した……悪知恵を働かされて、危害を加えられても困るからな。まぁ、ヴァイオレット領地は、殆んど手遅れになっているが……今夜で、それも終わる………〈ゼンオール・テレポート〉」
俺は、迷宮最難関のディープホールの地下10階までの権利を有している。
そう、地下10階までに住んでいるモンスターを、自由自在に転移で呼べるということ。
そして、そいつらには、牙獣種が上手いと教え込んでいる。
【オオオオオォォオ!!】【アハハハハハハ!!!】【ニク……ニク……ニク……】
「………こいつ等は何?」
「ディープホールの危険なモンスターだ。安心しろ。俺には逆らわず。紅食獣やウイスキーモンキーなどの牙獣種を襲って食べるように教えてある……ここに居る全ての猿達を食べていいぞ。お前達」
【【【アアアアアアアアァァ!!!】】】
精気に溢れる肉を食べられるからか、歓喜に震えている。やっぱり、畜生なモンスター達だな。こいつ等は。
「があぁぁ!!止めろ!!なにをするの!?私はヴァイオレット家の主で……」
「ヴァイオレット家の人間達を殺した魔猿だろう。いいから、さっさと家督をシエナに返せ!!――――六道輪廻・〈修羅童子切り〉」
「がぁ!?……私の首を切……」
【【【オオオオオオォオオ!!】】】
「ぎゃああああ!?」
大鎌をヴァイオレット家の偽物当主……いや、人に化けたグリムガン・ヴァイオレットへと振り下ろした。すると、グリムガンの身体は、ぶつ切りに刻まれ。モンスター達に喰われ始めた。
「…………暴れ回られても被害が出るからな。必殺の一撃で終わらせてもらったよ。そして、大鎌とも……これでお別れだな」
バキンッ!という音と共に、量子になって消えていく死神の大鎌。
初期武器としては、持った方だったな。
「これで、ヴァイオレット領地は、こちら側に付くしかなくなったが。今回の騒動で隣接の領地はうるさくなるか。アルティミス皇国の南部を脅かす“魔猿”とも敵対することになるな」
「…………バカヨル」
「なんだ。アホの子………寝言か」
今回、シエナが攻めてきて分かったことは、アルティミス皇国の中枢の、ある一部貴族達は俺を殺そうとしていることだ。
そして、これからも俺を殺そうと、あの手この手で策を労して来るだろう。
…………ならば、俺は急がないといけない。アルティミス皇国南部、10の領地をこちら側に付かせる必要がある。
現皇帝の父上が行方不明になり。国内が群雄割拠の時代に入る前に、安定した地盤を築きあげないといけないな――――




