第99話 たった一輪の華 その⑥
(……動きが、見える)
先程まで、あんなにも速くて捉えられなかった動きが、見える。
きっと、血の出しすぎで頭が冴えてきているからだろう。
鉞を振るえば、アクゼリュスの鎌がガキンと音を立てて弾かれる。
まるで体が最小限の動きで私を守ってくれてるかのような……生存本能というやつだろう。それが働いて、動ける。
「っ!! てめぇマジになんなんだよォ……あァ!!?」
私の目の前に鎌が振り落とされる。
それを後ろにステップして避けて、ぐっと力を込めて、勢いよくかけ出す。
鎌に目掛けて思いっきり鉞を振るう。ズバッと音が鳴り、鎌と腕の接続部が切り落とされる。
「らぁ!!」
私の叫び声が鳴り、やつの脇腹に鉞が刺さる。
痛みからか声を出さず、顔をしかめるアクゼリュスをみて、ニヤッと笑う。
効いてる、効いてる……っ!
私はそのまま後ろに下がり、避けようと思った瞬間、蹴り飛ばされる。
血を吐き、もう一度立ち上がる。
おかしいな、あんまり……痛みを感じなくなってきた。
「クソが……テメェの……テメェらのせいだ!!」
「……てめぇら?」
鬼円の事だろうか……いや、なんかちがう。
明らかに、私に向けての憎悪が強い……? なんでだ。
ふと、視界が揺らめくのが分かった。
「!!」
前に倒れ込み、その後に空気が斬りさく音で目を見開く。
先程まで私が立っていたところ……ちょうど首筋があったところに鎌があった。
コンテナが何個か切り落とされ、大きな煙を上げて爆発する。
走り出す。あんなので斬られたら、私どころか金之助君まで死んじゃう!!
金之助君を持って、走り出す。
「はぁっ、はあっ……」
どうする、どうするどうするどうする!
この近くに倉庫はない! 隠れられる場所がない!
どうしよう、どうすればいい! 何か、なにかないのか!
「どこだァ、出て来やがれェ……カイツール……」
快弦ちゃん、を呼ぶ声?
もう一度ギリっと歯を噛む。あんなやつなんかに、快弦ちゃんを……呼ぶ資格なんて、ないっ!
けれども、どうすればいい……なにか、なにか……っ!
「いや、爆発……?」
なぜ先程爆発したのか?
そうか、船に積むための……家電や、自動車あるのか。
ならば、ならば……!
私は辺りを見回す。あった、クレーン車だ。
コンテナを船に乗せるためのクレーン車……あれを使って、コンテナをあいつにぶつければ……!
ぶつけなくても、切った瞬間、車のオイルがかかるはず!
「っ!」
私は駆け出す。なんとかクレーン車にまで辿り着き、汗を垂らす。
起動しない! 当たり前だ、今のご時世、鍵を入れたまま帰る馬鹿などいない。けれども、動かさないと!
「動けっ、動け!!」
エンジンを入れる部分を触って何度も何度も壊そうとする。
……ふと、声が響いた。
『こうよ!』
なにか、黒い何か……髪の毛のようなもの? が鍵穴に入って……カチリ、と音が鳴る。
クレーン車が動いた。
「!!!」
分からない、分からないけど……動いたなら、使わせてもらう!!
クレーン車を動かして、コンテナを掴む。
コンテナが、クレーン車が動いたことで、アクゼリュスがこちらに気づいた。けれども、もう遅い!!
「当たれェエエエエエッ!!!!」
クレーン車による、コンテナを持った攻撃。
アクゼリュスの顔面にコンテナが当たり、そのままコンテナが落ちてさらに追撃する。
ガシャン、と音を立てたコンテナは、潰れて……光った。
「うわぁっ!!?」
大きな爆発と共にクレーン車が悲鳴をあげる。
私は飛び降りて、ゴロゴロと転がり込む。痛ぁ……膝を擦りむいた!
「っ……!」
アクゼリュスの姿が見えない。死んだの、だろうか……?
ふと、後ろを振り向く。
「なっ……!」
アクゼリュスが立っていた。
片腕がもげており、身体中から血を流していた。
どうやって……! 体を小さくして、コンテナの爆発の勢いでここまで吹き飛んだの!?
「死ね、クソガキィ……カイツールァァア!!!」
私は後ろに逃げようとする。
ダメだ、アクゼリュスの方が早い、私はアクゼリュスの鎌を見て口を開ける。
まるで全てスローモーションのように、ゆっくりと動いて……。
「オラァァァ!!!!」
アクゼリュスの顔面に右ストレートが入る。
その顔は……知ってる! 殴ったその人の顔を、よく知ってる!
「邪魔ァ、すんなぁ!!!!」
「鬼円っ!!!」
鬼円が顔面を殴り、目を見開く。
アクゼリュスが殺そうとしていた私からそっちに鎌を向ける。
鬼円の顔から、血が吹き出し、顔面から血が流れるが、鎌を思いっきり叩き折った。
「死に晒せぇえええっ!!」
アクゼリュスに近づいて、もう一度……顔面を殴りつけて、地面に叩きつけた。
大きな亀裂が入っていき、ズドンッ! と大きな音と共にコンクリートが1段階沈む。
力を込めた鬼円の腕は、真っ赤に染まっており……明らかに、リミッターを解除してるような、筋肉の張りだった。
「おに、まる……」
「言ったろ、守るって……」
鬼円は顔から流れる血を片手で拭いながら言ってくれた。
ほんとに、びっくりした……けど!
「ち、血っ! 大丈夫!?」
「なんともねぇよ……」
フラフラしてるけど! 私は鬼円に肩を貸して、微笑む。……勝てた。
金之助君も、意識を取り戻したようで腕を抑えながら立ち上がる。
私たちは歩き出して……地面の影が動いたのを見た。
「なっ!?」
「チッ! しぶ、といなぁ!!」
アクゼリュスは何かを言いながらブツブツと立ち上がり、顔面が崩壊した状態で私たちに鎌を向ける。
最早それは顔ではなく、なにか……黒くなって、見えなくなっていた。
「っ! 鬼円!!」
鬼円がガクリと膝をつく。限界なんだ、私たちも。このまま逃げ切れる? いや、この調子じゃ、街にまで被害が出る!
私は汗を垂らし、歯を食いしばる。もう一度……やるしか!
そう思っていた時だった。
光が、アクゼリュスを貫いた。
「……春ちゃん。あとは……任せて?」
満月を背にして、その人は言った。私は、口を震わせて、汗を垂らした。
その、顔は笑顔で、可愛らしいはずなのに。どこか、怖くて、凶悪で……。
「……さて、やろうか」
悲しそうに、笑っていた。




