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38話「冒険者ギルド(8)」




──マーシュとの話を終えてアンが引く馬車でクラレンス邸へ戻る道中、馬車の室内でルタ様の距離感は異様に近かった。


いつもなら50cmくらいは空けて座っているのだが、今はピッタリと密着している。


「……ルタ様、マーシュよりも距離感が今は近い様に感じるのですが」

「そうか? 意識して近づいているつもりはなかったのだが……。やっと二人きりになれたのもあるかもしれない」


隣から覗き込むルタ様の真っ赤な美しい瞳が私の顔を写していて、それ程に彼との距離は近い。


「……る、るた様。お顔もとっても近いように感じます」

「マーシュも割と近い距離で話していたが、俺だとダメな事でもあるのか?」

「いや、そんなことは……──」


ただでさえ近かった顔は更に近づき、彼は私の頬に優しくキスをした。


「──ひゃっ!?」

「……ふっ。ケイ、顔が赤い。これだけ君に近付いていいのは“俺だけ“だからな。マーシュが近付いてきたら距離を取るように」

「………は、はい…」


一瞬ふと、唇にキスをされるかと思った。鼻先でさえ胸の動悸が凄いし頭がクラクラするのに、口付けなんかしたら……。


彼にとってはほんのスキンシップなのだろうが、この愛情表現に慣れなければ私の身が持たなそうだ。


「……あと、ルタ様。ギルド内での話ですが、すみませんでした。私の我儘を通してしまって」

「我儘なんかじゃない。 安全でもっと危険じゃない事ならよかったが、自分で自分のやりたい事を言っただけだろう?」

「……すみません」

「謝らないでくれ、ケイ。離れてはいるが後衛には魔物は行かせない。俺が必ず君を守るし、マーシュだってあんな奴だが頼りになる男だ。当日までに全力で備えよう」

「あ、ありがとうございます!!」



……私の我儘で危険な場所へ行く。自身の未熟さで足を引っ張り現場の方々に迷惑を掛けてはいけない。


実戦経験豊富で実力のあるルタ様だって私に何かあれば、マーシュに任せるとは言っていても幼き頃の様に身を捨てて自分を危険に晒す可能性だってある。


気を引き締め、この一ヶ月で死に物狂いで成長しなければならない。



「……ケイ、どうした? 顔が少し強ばっているぞ。眉間にシワが寄っている」

「気を引き締めております……」

「あはは。今ぐらいはいいんじゃないか。止めないと眉間のシワが刻まれてしまうぞ」


ルタ様は私の頬に優しく手を添え眉間に優しくキスをした。


毎度の事、声にならない声が自分の喉から微かに漏れる。


未だにルタ様からの繰り返される愛情表現に慣れることが出来ず、その度に心臓が跳ねて何処かへ飛んで行ってしまいそうだ。


心臓の鼓動が落ち着く頃、ふと元婚約者のラインハルト様は妹のロージュにこうやって愛を伝えていたかと思ってしまう。



私はルタ様が好きだし、ラインハルト様に好意や未練があるわけではないが、自分が如何に婚約者として大切にされていなかったのかと比較してしまうのだ。


ルタ様がこうやって私に愛を示してくれることで、愛されている事を実感出来て安心するし、とても幸せな気持ちになるのだが過去の暗い気持ちがたまに心の隅に表れる。



その心の曇りは表情に出るようで、ルタ様はそれを直ちに読み取って「大丈夫……大丈夫……」とでも言ってるかのように私の髪を優しく撫でた。


彼の大きくゴツゴツした手で撫でられるととても安心するし、悲しくなった心もポカポカと温かくなり落ち着いた。




……たぶんだけど、ルタ様に溺愛されて“愛され慣れてない“私は困惑しているのだと思う。


こんな私をここまで大切にしてくれる人がいるとは思いもしなかった。


婚約破棄をされ、傷物令嬢として生涯独身で一人寂しく死ぬ運命だと思っていた。



……しかしもうそれも過ぎた話。

過去を何時までも引きずっていては、今現在目一杯の愛を注いでくれる彼に失礼だろう。


気持ちを入れ替え、気を引き締めて明日からの訓練を頑張らなくては。




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