歯車の音
おはようございます、こんにちは、こんばんは。
読んで下さる皆様、いつもありがとうございます。
連日殺人的な猛暑が続いています。
外は勿論の事、屋内でもこまめに水分補給をして下さいね。
……先日、夢中になってこの話を書いていたら、気が付けば汗だくで喉はカラカラ、頭がガンガンして暫く立ち上がれませんでした。
前から本を読むと日常的な事が疎かになりがちな私ですが、書いても同じだったみたいです。
今年の夏はなかなかの強敵ですが負けずに頑張りましょう!
「リフレシア様」
先程の柔らかい問いかける声とは違い、凛と力強い呼び掛け。
「……カテリナ様?」
「わたくし達は大丈夫です。魔力を、怒りを静めて下さいませ」
「い、今取り込み中ですので、また後で……」
「リフレシア様っ!この魔力で出来た光をおさめて下さいませ!」
えっ?
何でカテリナ様怒ってるの?
こ、怖いんですけど……
カテリナ様に怒られて意気消沈した私の魔力がふわりと霧散します。
私の背後でクロード様達とサブリナ様が揉めている中、カテリナ様達が私へと近付いて来ます。
カテリナ様達にサブリナ様の言葉が聞こえて欲しくない。
また、何か酷い事を言うのでは、とオロオロする私へと足早に近寄ったカテリナ様達はじとりと私を睨みます。
……何故?
「……リフレシア様、わたくし達は雛鳥ではありませんのよ?」
「はぁ」
「リフレシア様、周りが私達をどんな風に噂してるかなど侍女見習いになった頃から知っていますわ」
「わたくしはリフレシア様の侍女見習いとして周囲の情報を収集、精査、管理する役割を言いつかっていました」
「私はマリネラからの情報を共有し、それがリフレシア様の害となる場合の対策を立案し、実行可能な域に修正し報告していました」
「このお二人にその基本を助言したのがわたくしです」
矢継ぎ早に3人から告げられる内容は、私が全く知らない事でした。
私を抱き締めているアリアを見上げるとこくりと頷きます。
我が家の侍女見習いの仕事内容、レベル高過ぎなのでは?
「リフレシア様がわたくし達を案じて下さる気持ちは大変嬉しいですわ。ですが、わたくし達も貴族令嬢、陰口如きに振り回されたりしません。それに昔のわたくしに比べたら、小鳥の囀りの様なものですわ。殿下の婚約者候補ともあろう方々とは思えない稚拙さに驚いていましたのよ?」
カテリナ様の言葉にコクコクと頷く2人。
彼女達のお顔には憔悴した様子は微塵も無く、むしろ呆れたと言わんばかりです。
「それに、前々からいつか言わねばと思っておりましたが……。リフレシア様」
居住まいを正したカテリナ様が私の目を真っ直ぐに見ます。
綺麗な真紅の瞳は翳る事無くキラキラと輝きを放ち、強い意志がこもっていました。
「リフレシア様はわたくし達を認めては下さいませんの?わたくし達はそんなにも無力な存在ですか?」
「そ、そんな。カテリナ様達は素晴らしい才能を持った、自慢の友人です!」
「友人……ならば何故わたくし達を信じて頂けないのですか?何故、わたくし達を悪意から遠ざけ守ろうとなさいますの?」
「っっ、それは……」
「リフレシア様がわたくし達を案じて下さるのと同じに、わたくし達もリフレシア様を案じております。なのに、全てを背負わせる事がどれだけ苦しいか……わかって下さいませんの?」
ああ、私はまた間違えてしまいました。
父様や家族で失敗したのに……
「リフレシア様。今回の事、全て殿下から事前に聞かされておりました。勿体なくも止めても良いと仰せでした。ですがわたくし達は是非とお願い致しましたの。彼女達の囀りなど些末な事ですわ。そんな事で傷付いたりしません。もっとわたくし達を信じて下さいませ」
「カテリナ様……」
「そして……リフレシア様らしく歩いて下さい。わたくし達はその側を迷う事なく付いてゆきますから。まだ未熟ですが、きっとその力を手に入れるとお約束します」
そうでした。
かつて私も同じ思いをしました。
守ろられているだけでは満足出来ず、自ら力を求め、その力を得る為に優しい籠から出ようとしました。
私のその想いを、可能性を信じて欲しいと願いました。
……父様の子供だと痛感しました。
「ごめんなさい」
「ふふっ、謝って欲しい訳ではありません。でもわかって頂けて嬉しいですわ。これからは包み隠さず相談して下さいね?」
「はい。気付かせてくれてありがとうございます」
申し訳無い気持ちと嬉しい気持ちで情けない顔になっていそうですが、感謝を込めて微笑みます。
「「「「「っっ、んっ」」」」」
?
カテリナ様達とアリア、ポアロ先生が同時に咳払いをしました。
「兎に角、今回の事は切欠であって、他にも色々あるんだよ。ただ、相手は侯爵家だから確たる証拠も無しに召喚や尋問は出来なくてね。しかも巧妙だから、学園で機会を窺っていたんだ。だけど今回の事で彼女を尋問出来る。彼女はきっと色々と教えてくれるに違いない。だけどカテリナ嬢達やリフレシア嬢には嫌な思いをさせて申し訳なかった」
「学園長が謝る事は何一つございませんわ」
「そうです。ポアロ先生止めて下さい」
先程の色気駄々洩れの微笑みとは違い、眉を下げ申し訳無さそうな笑顔のポアロ先生。
憂いの無い3人の微笑み。
私の大好きな人達が笑い合っている。
私の望む光景が此処にあります。
……でも何か引っ掛かる。
「リフレシア、話がある」
背後から掛かるクロード様の小さな声。
私を包むアリアの腕がぴくりと反応します。
3人と笑い合っているポアロ先生も視線を此方に向けました。
「放課後、特別棟の訓練場で」
周りには聞こえない程の声で告げるとクロード様はルーカスや護衛の方々とサブリナ様達を引き連れて行きました。
その姿を眺めながら、私は思う。
私の歯車がまた一つ動き出したのだと。
カタン
目に見えない歯車の音が聞こえた気がした。
リフレシアの『ごめんなさい』系の微笑みは、普段の整った人形の様な顔がへにゃりと崩れ、幼子の様になります。
リフレシアの周りの人達は当然リフレシア教の信者(笑)ですので、その笑顔を見ると撫で回したい欲求に駆られ悶えてしまうのです。
……リフレシア本人はわかっていませんが。




