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問7)公園を話しながら歩いていたときの『彼女』の心情を答えよ







「大変だったねぇ」

「そうですね」


 もう何度目かになる駅員のおっさんの言葉を適当に聞き流す。

 むしろ大変なのはこれからなのだ。


 セミのなく猛暑の中を歩いて奏の家に行き、それから奏との思い出の場所を新月封印と巡る。真夏だと言うのにクーラーの恩恵はほぼない。それがすっかり魂まで東京っ子になってしまった俺には非常にきつい。

 新月封印の体温は奏の体を使っているだけあって冷たいので、耐えきれなくなったときには触らせてもらっているが、それだけでどうにかなる気温ではない。できることならべったりとひっついて歩きたいが、奏にもしたことのないそれを新月封印にしてしまうわけにも行かないので、なんというかまあ自制心の試されるところである。


 さて。

 勝手知ったる奏の家だ。

 門構えを適当にくぐり、庭のある縁側方面に向かう。


 果たして――そこに新月封印はいた。

 縁側に寝そべって猫のようにだらけている。

 猫は液体とよく言われるが、彼女のだらけ具合もだいぶ液体のようだった。手足から力という力が抜けて、さながら死体のようだ。いや、死体と言えば死体ではあるのだが。


「……おお、来たか、ユキハル」

「また盛大にだらけているな」

「どうにも気力が湧かなくてな……」

「この暑さだ。無理もない」


 縁側に座って手で扇いでやると、新月封印は心地よさそうに目を閉じた。

 気持ち、少し痩せたようにも見える。


「それでユキハル。今日はどこに行くんだ?」

「公園だ。少し歩くが、平気か?」

「平気ではないが行くともさ。連れて行ってくれ、ユキハル」

「そうか。じゃあ、そうするか」

「にゃわ――」


 俺は新月封印の体を抱き上げた。

 いわゆるところのお姫様抱っこである。

 無論自立心にあふれた新月封印のことだ、連れて行ってくれというのがそういう意味ではないことは百も承知だ。

 だが、新月封印は楽ができる。

 俺は彼女の体が冷たくて気持ちがいい。

 これぞWIN-WINというやつではないか。


「さて、行くか」

「かはは。行こう」


 そういうことになった。









「ここが件の公園か」

「今となっちゃあなにもないがな、昔はなかなか楽しいところだったんだ」


 小さなブタの石像に迎えられて、俺と新月封印は公園に入る。

 こいつのせいで奏はずっとここを「ブタ公園」と呼んでいた。本当の名前はなんだったか。昔は立て札があったのだが、いつの間にかなくなったらしい。


 そこで新月封印を降ろす。

 彼女は両足を揃えて雑草まみれの地面に着地した。


「ご苦労。いやしかし、十分楽しそうではないか」

「遊具がほとんど撤去されちまってるんだよ。時流だな。ほんと緑一色の寂しい景色になっちまった」


 いたるところに雑草が育ち、砂場とコンクリートでできた山を囲んでいる。


「緑一色?」

「だろう。ひどく田舎らしく感じちまうのは、俺が都会に染まったせいなのかね」

「ユキハルは贅沢者だな」

「贅沢?」

「これが一色に見えるのなら贅沢という他あるまい。よく見てみろ。葉の一枚たりとも同じ緑はない。美しい景色じゃないか」

「……そういうもんかね」


 そういえば新月封印のいたところは自然がまったくないのだったか。

 とすれば、ずいぶん配慮の足りないことを口走ってしまった。

 猛省するばかりである。

 そこで露骨ながら話を変えることにした。


「おい、新月封印。あそこにコンクリートの山が二つあるだろう?」

「うむうむ、あるな」

「昔はあそこに雲梯がかけられていたんだ」


 小山のように盛られたでこぼこのコンクリート。

 今ではその二つが砂場を挟んでいるだけ見えるが、かつては山の頂上を鎖と輪っかが繋いでいた。そうだな、電車の吊り革のようなものだ。それが鎖から均等な配置で垂れていて、それを筋力に任せて渡る遊具だった。間に砂場があるのは落下したとき怪我をしないためだったのだ。

 それで、多くの園児や小学生が競って挑戦していたものだ。


「けど、完走できるヤツはほとんどいなかった。俺は文字通りお山の大将を気取っていたんだが、ある日奏が自分もやると言いだしてな――」


 案の定、途中で震えながら「ハルちゃん動けない」と言って泣き出した。

 俺は仕方なく下で腕を構えて彼女を受け止めることにしたのだが――これがまあ、よくなかった。落下する奏をなんとかキャッチしたまではよかったが、その衝撃で腕の骨が折れてしまった。

 しかし、それを奏に悟られたらもっと泣き出すのは目に見えていたので、決死のポーカーフェイスで彼女を送り届け、その後帰り道で痛みに泣いた。


 そんな思い出がある。


「かはは。男の子だな、ユキハル。格好いいじゃないか」

「まあ、格好つけマンだったことは認める」


 男は誰しも女の子の前では格好よくありたいものだ。

 それが好きな女の子ならなおさらにな。


「ちなみに、そんな話はまだまだあるぞ。例えばあのブランコだ」

「ほうほう」


 真夏の炎天下。

 セミの合唱の中で。

 俺と新月封印は話をしながら公園を歩いた。

 まるでデートみたいに。

 そこにはロマンスの欠片もないから、俺はデートだとはついぞ思わなかったが――









 ――今になってみて、考えることがある。

 俺は思わなかったが、アイツの方はどうだったんだろう、と。




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