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問4)『彼女』の提案を聞いたときの俺の心情を答えよ





 

 よく考えろ、という俺の口癖がどこから来たのか。

 たぶんお気づきの方もおられよう。よく考えるまでもない。俺自身がよく考えないからなのだ。本を読んで感銘を受けることがあっても、そこに思いを馳せたり自分の中に新しい芽を探したりはしない。ふむふむとかほうほうで終わりだ。


 お前はどうだ、兄弟。

 そうだ、ひとつ試してやろう。



 俺は『彼女』に出会ったことで360度考え方を改めた。



 どうだ? 何かひっかかるか?

 何も考えず流し読みしたヤツは言うまでもないな。論外だ。

 だが、こう聞いて「360度じゃ元に戻ってんじゃん」と思ったヤツ。

 そうだお前だ。

 お前は360度というものをよく考えたことがあるか? それは本当に0度と等しいか?


 例えば、人の顔で考えてみよう。今お前は正面を向いている。これが0度だ。そこから360度回ったらどうなる? ああそうだ、確かに顔は正面に向いているな?

 だが、そいつは間違いなく死んでいるだろう?

 つまり表面をなぞっただけでは物事は見えてこないということだ。元に戻っているなどと言うヤツは表面だけ見て回転を見ていない。世界というのはただ見ているだけでは真実を見せてはくれない。これは重要なことだ。テストに出るぞ。


 などと偉そうなことを言ったわけだが、しかし実際にはどんな考えなしの大馬鹿野郎でも俺よりはマシだろう。

 俺はあのとき、何一つまともに考えることもなく、ただ感情に任せて動いていただけだった。前にも言ったな、俺を反面教師にしろと。

 感情とは素晴らしいものだが、それは知性があることが前提になっている。

 考えることを止めたとき、人は感情のみで行動し、そして後悔をするものだ。

 兄弟よ、願わくば――お前はそうなってくれるなよ。







 さて、場面を奏の家に移そう。

 おそるおそる上がり込んだ俺をおじさんおばさんは疲れた顔で迎えてくれた。遅くなった理由を問い詰めたりはしなかった。

 そして俺の後ろについて来た新月封印についても、何も言わなかった。


「という表現は正確ではないな。そいつらには新月が認識できていないのだ」

「……お前のスーパーパワーで催眠術でもかけてるのか?」

「かはは。そういう認識でもいい。好きなように解釈しろ」

「ってことは違うんだな」

「ん? 気になるか? 真面目に答えてほしいなら新月はちゃんと答えるぞ」

「……いや、いい。俺の頭の中はもう一杯一杯だ。そんなもん聞いてもどうにもならんしな」

「そうか。それで、銀はどこにある?」

「食器棚中段の引き出しの中だ」


 そこは勝手知ったる幼馴染の家、迷うことなく新月封印を案内する。


「これで大丈夫そうか?」


 件のカトラリーセットを渡すと、新月封印は容赦なく箱を引き裂き、ナイフを先からがぶりとかじった。


「んー……ちと混ぜものがしてあるな。あまり美味くない」

「ええい、贅沢を言うな。他に銀の製品なんて――」


 ない、と言おうとしたのだが――あった。

 あったが、あれはコイツに食わせるためのものじゃない。


「なんて?」

「――ないに決まっているだろう」

「かはは。なら、仕方ないな。これで保たせよう」


 残った持ち手の部分も口の中に放り込んで、また三日月のように唇を吊り上げる。


「さてさて。提案したいことが二つある」

「なんだ、言ってみろ。奏の体を取り戻すためだ、大抵のことは飲んでやるぞ」

「まず一つ。お前をなんと呼ぶべきか教えてくれ」

「――む」


 これだけ常識から逸脱した存在に、これほど常識的な提案をされるとは思いもしなかった。

 確かに俺は名乗られたのに名乗り返しもしなかったし、自己紹介もしていない。


「雪春だ。呼び方は好きにしてくれ。ハルちゃん以外なら何でも構わない」

「ユキハルか。うむ、いい名前だな。ではユキハル、もう一つの提案だ」


 新月封印は白装束の襟の合わせ目をひっぱった。

 そうすると痛々しく突き出した肋骨と心臓が丸見えになる。

 そこをじっと見つめていると、新月封印は困ったような顔で襟を正す。


「要するにな、いつまでもこの格好でいるわけにも行くまいという話なのだ。だから服をくれ」



 これまた至極まっとうな提案だった。




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