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9.不可思議な行動

 浅原と下山が署に急いで戻ると、署内はパニック状態に陥っていた。デスクの電話、無線、全てが鳴り響き、事の重大性が自ずと示されていた。

「本部長、どこが爆破されたのですか?」

「東京都内各地、台東、新宿、世田谷、目黒の派出所が狙われた。今はまだ、被害状況等、情報収集の段階だ。怪我人も出ているらしいし、すでに、警察庁長官がこちらに向かわれている。直ちに対策本部を立ち上げるぞ」

 中川は、二人を背にして他のものを押しのけながら、上階へと足早に消えていった。

「下山、来い」

 浅原は、下山を連れて取調室へと足を踏み入れた。そこには下山に代わって取り調べをしていた若い者がいたのだが、そんなことはお構いなしだ。

「これか?お前らの目的は?お前以外の誰だ?誰が組織を動かしているんだ?えぇ一体、何がしたいんだ?」

 浅原はMr.Xと名乗るそのものに詰め寄り、胸ぐらを掴んだ。

「少し此処に我々も長居しすぎましたかね?浅原さん。私達の挨拶が度を過ぎた様なら謝りもしますが、こんなことをしてもただ、私達の怒りを買うだけですよ」

 相変わらず彼が口にするのは癪(しゃく)に触る冷静な受け答えだけだった。

「私たち?Mr.Xだの、ふざけた名前を言いやがって。ちゃんと名を名乗れよ、えぇ」

「まっ、待ってくださいよ、浅原さん」

 下山が慌てて今にも殴りかかりそうな浅原を止めに入った。

「私は、X。彼はまあ、言うなればMr.Yとでも…」

「お前、おちょくってんのか?Xとか、Yとか、えー?ならZって名前の奴もいるのかよ」

 浅原の怒りは治らない。

「浅原さん、何かお忘れではありませんか?我々にはZなどいやしない、つまり終わりとなる者はいないんですよ。終わりのない組織アンフィスバエナ、双頭の蛇という名前はここから来ているんですが、どうです?洒落てますか?」

「双頭の蛇だ?」

 Mr.Xは尚も腹立たしい不敵な笑みを浮かべ続けていた。


 浅原は頭に上った血や怒りを冷ましながら、大会議室で息を整えていた。

「大丈夫ですか?浅原警部補らしくない、いつもは沈着冷静な人なのに…」

「すまん」

 浅原は自分の思い通りにならない、痛みの引かない自分の身体にも苛ついていた。

「警察庁長官がお目見えになられました」

 そう言うと、部下5名を従えた長官が、開かれた前方サイドのドアから用意された中央の対面席へと足を進め、すぐさま腰を下ろした。一瞬にして大会議には緊張が走った。

 そしてすぐさま、警察庁長官から向かってドアに一番近いものが立ち上がり、落ち着いた様子で話し始めた。

「先ほど、知っての通り、この凶悪犯からの要求が警視庁の方にも入った。直ちに、昨晩、押収した彼らが言う荷物やらと仲間の速やかな解放だ」

「爆破の被害の方は、どうなんですか?」

「たまたま巡回に出ていた者などが多く、被害は軽微な負傷者5名、重傷者、死傷者0ということだ。今回は脅しのつもりだろう、小規模な爆破だった為に、歩行者等にも被害は出ていない」

「警視庁は、あの荷を返し、あの者たちを釈放しろと言うのですか?あの荷がどういうものか、わかってらっしゃるんですか?」

 下山は不機嫌そうな顔をして、立ち上がった。

「もちろん、理解しているつもりだ。だが、犯人の要求は明日の夕刻3時、つまりは24時間を既に切っているわけだが、その時間までに荷と彼等の仲間の者たちを指定の場所で解放できなければ、今度は多数の死傷者が出るだろうとの警告をもしてきている」

 警察庁長官が静かな重々しい口調で、その後に続いた。

「今回の事件、おそらくまだ何処かに爆弾が仕掛けられているはずだ。爆弾処理班と共に、この事件、テロ事件と認証し、SATを導入する。君たちには、主に背後支援に回ってもらうつもりだ」

 SATとは、Special Assault Team、特殊急襲部隊の略称で、重大テロ事件、銃器等の武器を使用した事件への対処を主な任務としている組織だ。

「あのー私達にも浅原警部補と実績をあげて来られた方がいるんですが」

 浅原はそう言う下山の左手を引き、座るようにと促した。

「君は、何様のつもりだ?」

 そう怒鳴った者を警察庁長官が遮った。

「あぁ君たちの上司に同じように今までこの国家の安全を守るために貢献してきた浅原君という者がいることは我々も重々に知っている。だが、今回は私直々の命令だ。何かがあれば、私、いや、国家公安委員会、いや、内閣総理大臣の問題にもなり兼ねない。よって、私の命令は、この国のトップの命令と心得て欲しい」

 下山はその言葉にそれ以上の抵抗もできず、座ることしかできなかった。


 浅原は大会議室を出ると、下山に意外なことを口にした。

「下山、さっきのテレビ局ってどこだ?」

「え?テレビ局って何のことですか?」

「ほら、あれだよ。食堂で見た、お前が好きだっていう女子アナのいる…」

「東京テレビのことですか?」

「そうか、これから、そこに向かうぞ」

「え?またどうしてですか?何でこんな時に…」

「俺が今までに意味のないことを言ったことがあるか?」

 浅原は不機嫌そうに、そう口にした。それを背後で耳にした中川が口を挟んだ。

「下山、浅原と行くんだ。俺たちは俺たちで出来ることをするしかない。あんな特殊部隊よりも俺はお前達を信じているからな」

 下山は納得出来ない状況でありながらも非常灯を鳴らし、浅原と共に東京テレビへと向かうのだった。


「どういうことですか?局長。これって私達…いえ、私のスクープなんですよ。何で警察なんかにテープを取り上げられなきゃいけないですか?」

 吉澤茜は、局長のデスクに詰め寄っていた。

「いえ、だからですね」

 下山はたじたじになっていた。やっぱり、女子アナってスクリーンと違うわ。そんな事を内心感じながらも。

「悪いね、お嬢さん、時間がないんだ。テープ持って帰れなくてもいい、ここで、視聴させて貰う事は出来ますか?」

 浅原は下山の受け答えに我慢ができなくなって、局長に向かって口を開いた。

「お嬢さん?お嬢さんってね」

「まあまあまあ、刑事さん、こちらにどうぞ」

 局長は、怒りの治らない茜を捨て置きながら、別室の編集モニターのある場所へと浅原を案内した。

「あなたは何よ」

「僕は今、何もしてないでしょ」

 下山は茜の尻にしかれるように、局長、浅原の後に続いた。


 別室のモニターが先ほどの学生の救出劇を再生し始めると、浅原はしきりに利き手にダラー硬貨を弄(もてあそ)び始めた。

「いったい何が映ってるのよ?そもそも警察はテロ事件で忙しいんじゃないの?こんなとこで、こんな油売ってる場合じゃないでしょ?」

 茜のその言葉を遮るかのように浅原は下山へと話しかけた。

「下山、彼を大至急に探すんだ」

「えぇどういうことですか?この大変な時に」

「彼がこの事件を解決する鍵になるかもしれない」

「でも、どうやって?どこの誰だかもわからないんですよ」

 下山は何とも理解しがたい浅原のその命令に困惑していた。

「ねぇ、私が協力するって言ったら、私を連れて行く?」

 茜は何かを知っているかのように思わせぶりな発言をした。

「何か、知っているのか?」

「時間ないんでしょ?またまたスクープの匂いがするのよねぇ」

 茜の自信たっぷりな様子に、背に腹はかえられないと浅原はその茜の言葉にやれやれと思いながらも頷くしかなかった…


 そして三人は連れ立ってテレビ局をあとにした。

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