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4.書き換えられたシナリオ

「どうしたんですか?そんなに怪訝(けげん)そうな顔をして」

 下山の心配そうなその呼びかけに、浅原はふと我に返った。

「あ、いや、私の指示ミスで、危うく任務が失敗するところだったな…すまん」

 下山が浅原のその言葉に返答をしようとした時だ。

「いやたまには、そんなこともありますって。でもなきゃ、いつも浅原さんの指揮が神がかっているんで、私はある意味、崇拝しなきゃいけないお方なのかな?なんて思ってましたから、逆に安心しましたよ。しかし、冗談抜きでびっくりしました。まさか、私の居場所が最初からわかってたかのように奴が発砲してくるもんだから。危うく奴と目が合ったって思った瞬間には、ちびりそうでしたけどね」

 そう無線を使って上ずった声で話しかけてきたのは、その顔に引きつり笑いを浮かべながら、まだコンテナの上で仰向けになって寒々とした星を眺めていた片倉だった。いつも仕事時にはクールな彼も少し肝が冷えた様子だった。

「すまん」

 もう一度、やり直すか…あの場所…あの時間から…。

「いや、ご苦労さん。結果良しじゃないか。誰も怪我をすることもなく奴等を全員、検挙できたんだ。これ以上の収穫はないぞ。明日から忙しくなるんだ、至急に帰って来るんだ」

 中川本部部長のマイクを通したその言葉にそう(たしな)められ、浅原は思いとどまった。


 しかし…


「よし、そこまでだ」

 浅原が動いた。

 辺りに生存者がいないかどうかを確認していた大男達は一斉に浅原のほうへと銃口を向けた。だがすぐさま、中央にいたこの組織の頭らしい男が静かに右手を上空に挙げたかと思うと、大男達は緊張を解いて、銃口をゆっくりと降ろした。

「浅原さんですかね?」

 その声はキリッとした顔立ちには似つかわしくない、低音部に魅力のある声だった。

「ほう、私の名前を知っているのか?」

 浅原は右背後に下山を従えて、片倉と浅原、そしてその頭の男とが一直線に結ばれる線上の場所へと彼から視線を外すこともなく歩み寄って行った。

「おい、大丈夫なのか?」

 松島がいつでも突入できる姿勢を皆に指示しながら、無線を通して声をかけてくる。

「大丈夫だ。片倉、聞こえてるか?俺の左後頭部に照準を合わせていろ。先ほど言った俺の合図と共に撃てば、奴の銃を持った右肩を射抜くはずだ、いいか?気を抜くなよ」

「了解です。任せて下さい」

 片倉は暗視スコープを覗き、ゆっくりと引き金に人差し指を添え、乾ききった喉へと唾を飲み込んだ。

「私のことを知っているなら、そちらさんにも自己紹介をしていただけないかな?」

 浅原は指定のポジションに着いたかと思うと、落ち着き払った様子でそう彼に問いかけた。

「名乗るほどの者じゃないんですがね、確かにこちらが名前を知っているのに私の名前はお教えしていないというのも失礼ですよね、ならばMr.Xとでも言っておきましょうか…。しかし、浅原さんには今までにも多くの目障りな雑魚(ざこ)を片付けて頂けてるもんで、感謝してもしきれないんですよ。私達の仕事がやり易くなったというものです。敬服致しておりますよ、実際にはね」

 明らかにその物言いには、人を(さげす)むようなニュアンスを感じさせた。

「まあ君らに言わせればあいつらも雑魚だっていうことになるんだろうがな。しかし、今ここで君と出逢えたと言うのに、これからも捕まえた者達が雑魚だけってもんで俺は満足しないよ。それにこうして会いたくて仕方なかった君の事まで後々雑魚扱いしちゃ、腹立たしいだろうし、君も不愉快だろう?」

 浅原が小声で片倉に指示を出した。


「30秒後だ…」


「まあそんな風に言って頂けるなんて光栄ですがね、私達を買いかぶりすぎてるんじゃないですか?私どもの組織だって、たいしたことはやらかしちゃいないんですがね。必要としている人達に必要とするものを与える、慈善事業と言っても何ら変わりはないんじゃないですか?まあですが、そんな私達の仕事に、もしあなた方が意を唱えて邪魔をしようとでもする考えがおありのようでしたら、我々に敵対する覚悟は相当なものを持ち合わせていらっしゃらないとね、下手な取り掛かりはかえって小さな傷をも大きくしますよ。そんな風にでも忠告させておいて頂きましょうか…」

 いちいち気に触る話し方だ。やはり、世界にその名を轟かせているだけのことはある。この状況においてもMr.Xは落ち着き払っている様子だ。

「しかし、こんな状況で、私たちに覚悟も何も必要ないと思うんだがな、私たちの方に今はかなり分があると思えるんだが、どうだ?違うか?」

 片倉はカウントを続けていた。

「5、4、3…」

「さて、どうでしょうかね…どんな攻勢な立場に置かれても、一寸先は闇とも言いますからね」

 片倉が引き金に置いてある指に力を込めようとした時である。浅原は咄嗟(とっさ)に下山を右へと弾き出すように押し出したかと思うと、自身も共に右へとその体を倒していった。が、それとまさか…全く同時に奴もまた同じ方向へと体を倒していったのである。浅原にはそれは予期していない事であった。

「何?」


 Mr.Xと名乗るその男は、薄ら笑いを浮かべながら、いつの間にか手にしていたハンドガンから一発を瞬時に放ったのである。しかし、その笑みも、弾も、浅原に向けられたものではなかった。コンテナ上に身を潜めている片倉に対してである。

 片倉は、暗視スコープの先には奴の右肩があるとばかり認識していたので、少し面食らってしまった。そこに一発の銃声と共に奴の弾丸が飛んできたのである。…が、弾は片倉の右斜め前、コンテナのサイドを撃ち抜いただけで、片倉に怪我はなかった。片倉は一瞬の気の緩みから引き金を引く事さえも忘れてしまっていた。

「銃を捨てろ」

 松島も、遠くからの帯びただしい警察車両も動き出すそのタイミングは、浅原が必要とする瞬間にはどんぴしゃりだった。ここは当初の打ち合わせ通りであったのだが…。

 Mr.Xは、横ばいになってからも、その笑みを浮かべたままで、浅原を見つめ、気がつくと銃口は今度は浅原へと向けられていたのだが、間もなくスッと力を抜いたかと思うとハンドガンを冷たいコンクリートの上に置き、両手を挙げゆっくりと立ち上がった。

「おやおや、浅原さん。どうしたんです?何をそんなにびっくりなさっているんですか?実に楽しいじゃないですか?私は楽しいですよ。…だけど少し我々の挨拶とやらの度が過ぎましたかね?」

 周りの大男達も銃を降ろし、抵抗の素振りを見せることもしなかった。もしかするとそれは最初から、彼等がそう指示されていたかのようにだ。


 浅原は何度考えても、この書き換えられたシナリオに不可解なものを感じざるを得なかった。

「まだ、何かあるはずだ。何かがおかしい、もしかすると、奴らの何かというものがたった今、始まったばかりなのかもしれない…」

 その不安に駆られる浅原も、タバコのフィルター部分についた血の跡を気にしていた。今まで、ある体の痛みを顔色に出すこともなく、ずっと捜査を続けてきたのだが、今日はやけにその部分が(うず)く気がした。

「おい、浅原、こっち来て、これを見てみろよ」

 松島の見たあまりの光景に、気付くと彼の顔面は蒼白となっていた。


「何をこいつらは始める気だったんだ?」

 浅原がコンテナを覗きこむと、そこには携帯できると思われる、ありとあらゆる世界中で使用されている銃や、手榴弾、バズーカーまでもが所狭しと陳列されており、まるでそこは武器の博物館のような光景が広がっていた…。浅原に不安だとまで思わせた予測に現実味を認識させる瞬間でもあった。

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