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最終話 第二幕

これにて終了です。

「狼狽えるな! 敵は少数じゃ!」

 突然の乱入軍に対する我が軍の動揺を声を張り上げて抑える。

「通常通り敵を包んで圧殺しろ! それで勝てる! いつものパターンじゃ!」

 非常時の場合、通常通りの言動を行うのが最も平静を取り戻させる。

 呆けていた我が軍は忽ちの内に元の勇敢なる軍団へと戻った。

 このまま行けるかと思っていたのじゃが。

「へ、陛下! ケイミス軍が特攻を仕掛けてきました!」

 これを好機と見たケイミス軍が猛然と反撃を始める。

 しかもこの後など考えていない勇猛果敢ぶり。

 間違いない、これこそがケイミスの乾坤一擲の大勝負。

 これに打ち勝てばわしの勝ちじゃ。

「恐れるな! これが最後の戦じゃ! こちらも最後の力を振り絞れ! 動きの弱った兵は殺しても構わん!」

 勝ってみせる。

 勝って愛する我が息子の手向けの花として見せる。

 お前を殺した憎き怨敵の敗北をすぐに見せてやるぞ。

 わし自身剣を取って前線に躍り出て範を示してやった。


「ようやく会えたな、ギランバールさんよ」

 俺の勘が訴えていた。

 全てはここにいると。

 俺の栄光の歴史を刻む贄はこの先にいる。

 そして望み通り、俺は会えた。

「貴様……ガスタークか?」

「その通りだギランバール。お前のおかげで俺はさらなる高みへと登れる」

「ふん、何を言うておろうか。そもそも国を手に入れたのもわしの援助があったからじゃろう」

「否定はせん」

「さらにケイミスの領土と兵があったから。他人の物で威張ってみても滑稽なだけよ」

「クツクツクツ、確かに今までの俺はその通りだ。しかし、ここからが違う。俺はお前を殺し、世界全土を手に入れる足掛かりとする」

「わっはっは、生意気な小僧が何を言いよるか。世界を制するのはこのわし――ギランバールを置いて他になし」

「耄碌したな。お前ではないこの俺――ガスタークだ」

 その言葉と同時に俺はギランバールに斬りかかる。

 なるほど、確かに武王と謳われるだけある。

 しかし、俺はその上を行く。

 軍団の統率力には一歩譲るが、個々の武は俺に軍配が上がったようだな。

「じゃあな、ギランバール。安心して死ね」

 何も言わせない。

 変に余裕ぶって肝心の奴を逃したら目も当てられんからな。

 ギランバールの瞳が見開かれると同時に奴の首は胴体と別れた。



「ケイミス=アクエリアスをフォン地方とララリア地方、そしてその間の領地の総領事として任命する」

「ありがたくお受けする」

 ガスタークのもったいぶった言い方に僕は平身低頭に接する。

 この場ではガスタークが上。

 カザノハ王国の支配権はギランバールからガスタークへと移った。

 ならばガスタークに従わざるを得ないのが僕達の立場である。

 さて、と。

 僕としては早く辞去して帰りたかった。

 フォン地方がどうなったのか知りたい。

 一刻も早くこの目で確かめたいんだ。

 けど。

「ケイミス、今日はゆっくりとこの城で休め」

 そう言われたら留まらざるしかない。

 しかも留まるのは僕にあてがわれた部屋じゃない。

 ガスタークの私室であった。

「ケイミス、久しぶりだな」

 開口一番、ガスタークは傲岸不遜に言い放つ。

「久しぶりも何もつい先ほど会ったばかりじゃないか」

「クハハ、あれは皇帝と領主との謁見だ。俺とケイミスとの邂逅ではない」

「言うようになったねガスターク」

そんな知恵を何処で身に付けたのか。

「まあ、俺も一時領主だったからな。民衆を宥め、かつ臣下の機嫌を取り続けるのはしんどかった」

「ガスターク、それは自分を中心に置いているからだ。自分の代わりなどどこにでもいる、若しくはこれから作ってみせる、といった意気込みがあればしんどいはずはないけど」

「政治談議はまたにしよう。それよりもケイミス、お前は今の地位に満足しているのか?」

 ガスタークは一転、真剣な様子で僕に問いかける。

「お前の強い希望でフォン地方とララリア地方、そしてその間の領土を贈ったが、もし望むならそれ以上の地位――宰相をくれてやろうか?」

「その言葉は大変嬉しいがガスターク、宰相はアンナフィリアにすべきだろう」

 僕はにこやかな笑みを浮かべながらも断る。

「世界中においてガスタークを最も理解しているのはアンナフィリアだ、彼女の智謀があれば君を更なる高みへと導くだろう」

 ガスタークはカサノバ王国とその周辺を支配下に置いただけでは満足していない。

 もっと上、それこそ世界全てをその手中に収める壮大な野望を抱いている。

 そう考えると、ギランバールを打倒したのは終着点でなく出発点。

 ようやくガスタークは世界の舞台へと上がることが出来たのだ。

「何言ってんだか、確かにアンナフィリアがいなければ俺はここまで来るのにもっと時を要した。が、ケイミス、お前がいなければ俺は始まってすらいなかったな。お前の領土があったからこそ俺は建国が果たせ、お前が決起してくれたからこそ俺はギランバールを討てた」

「そう、だからこそ僕でなくアンナフィリアなんだ。すでに際は投げられている――始まってしまっている、ならば必要なのは全ての始まりの僕じゃない、時を加速するアンナフィリアこそ君の右腕に相応しい」

「……」

 僕の言い分が伝わったのかガスタークは唇を固く結ぶ。

 どうやら半白する材料を探しているようだけど、見つかっていないね。

 賢いガスタークだ。

 心の奥底では僕の意見に賛成しているんだろう。

「…………分かった、宰相の地位は諦めよう――しかし」

 ガスタークは獲物を狙う獣のように瞳を光らせて。

「皇帝補佐の地位を新たに創出する。この地位は皇帝に万が一があった場合、皇帝としての権力を振るえる代物だ。そしてその初代皇帝補佐をケイミス=アクエリアスに任命する」

「ガスターク、それはちょっと」

「もう決定だ、何人たりとも逆らえん――ケイミス、確かに始まってしまった今はお前はさほど重要でない。しかし、何かの拍子で終わってしまった場合、再起するにはお前が必要だ、そう新たに始める鍵を持つお前がな」

「保険を残しておくのか。少し慎重すぎないかな?」

「何の保険も掛けずに大勝負に挑むほど俺は馬鹿でない。執念が足りないと批判するかもしれんが、そんな大博打を毎回やるのは俺の神経が持たん」

「やれやれ、その様子じゃ撤回する気は毛頭ないんだね?」

「当然」

「分かったよ、ガスタークの決意に免じてその地位を受けようか」

「すまないケイミス。恩にきる」

 高慢ちきなガスタークが珍しく机に頭をこすりつけるようにして感謝の印を取った。


最後までお読み頂き誠にありがとうございました。

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