第1話 紅目の魔法使い 14
七都は、ぼんやりとした意識の中で、その光景を眺めていた。
シャルディンが、少し落ち着いてから改めて七都に送ってきてくれた映像なのか、彼を通してリアルタイムで起こっていることを七都が見ているのかは、わからなかった。
だが、彼が家族と会えたことは確かなようだ。
よかったね、シャルディン。間に合ったね。
これからずっと、家族のそばにいるんだよ。
今までいられなかった分、ずっとね……。
七都は、目を開けた。
見知らぬ人々の顔が輪になって並んでいるのが、フードの間から見えた。
全員、七都を見下ろしている。
七都は、飛び起きた。
「なんだ、生きてるじゃないか」
「行き倒れじゃなかったのか?」
「誰だ、女の子が殺されてるなんて言ったやつは」
人々が驚き、あきれて口々に言う。
「な、なんなんですかっ?」
七都は、あたりを見回した。
さっき、たまたま見つけて寝転んだ、ピアナの花畑。
誰もいなかったはずなのに、旅人とおぼしき十数人の人々が七都を囲んでいた。
「お嬢さん、ここで何をしてたの?」
中の一人が、七都に訊ねる。
「何って。うたた寝というか……言わば、すっかり昼寝……ですけど?」
七都が答えると人々は、そろって合唱するように溜め息をついた。
「あのねえ、アヌヴィムの魔女さん。いくら昼間だからといって、人間にも悪いやつはたくさんいるんだよ」
「そうだよ。こんなところに寝ていたら、危ないったらありゃしない」
「もっと気をつけなくちゃ」
「ご、ごめんなさい。心配をおかけしました」
七都はあせって、人々に頭を下げる。
旅の人々は、「まったく」とか「人騒がせな」とかいう言葉を口にしながら、ぞろぞろとピアナの花畑から街道に向かって移動し始める。
あっという間に人々の群れは消えてしまった。
そこに寝転んだときと同じように、風景の中にあるのは、空とピアナの花畑だけになる。
「ここなら道からかなりはずれてるし、目立たない所だから、誰も来ないと思ったのに。甘かったな。何で昼寝しただけで、見知らぬ旅人たちに謝らなきゃなんないんだか。心配してくれたのはわかるけど」
七都は、立ち上がる。
「やっぱり寝るときは、きちんと宿を探して泊まったほうがいいってことか」
七都は、腕を伸ばして伸びをした。
少し眠ったので、気分がいい。また当分歩けそうだ。
七都はピアナの花を何本か摘んで、空になったカトゥースの容器の中に差し込んだ。
今夜はこの花をベッドの枕元に置いて寝よう。そう決める。
そういえばユードは、当然この花のことを知ってて、この花をメーベルルとわたしに持ってきたのよね?
これは、結婚式のときに花嫁が持つ花。
花束の中に入れると幸せになれるという伝説のある花。
未婚のまま死んでいく魔神族の二人の女性のために、あなたはこの花を摘んだんだね。
せつなすぎるよ、ユード。
七都は、摘み取ったピアナの花の匂いをかいだ。
心が落ち着くような、でも、どこかきりっと引き締まるような、不思議な香り。
シャルディン。また、いつか会えるかな。
取りあえず、わたしのファーストキスはシャルディンってことにしておこう。
自分から望んで、彼にキスをしたという点においても。
シャルディンが相手なら、不満も不足もないかもしれない。
彼、素敵だものね。美しさにおいては、ナイジェルにだってひけを取らない。性格はともかく。
「でも、やっぱり、残念ながら、恋愛感情はないんだよねー」
七都は溜め息混じりに呟き、再び歩き始める。
「ところで、わたし、舞踏会のダンスの練習しなきゃいけないのかなあ」
七都が立ち去ったあと、誰もいなくなったピアナの白い花畑の間に、風がやさしく吹き渡った。
<第1話 紅目の魔法使い 完>




