過去拍手 6 (三章 一学期~「どういう風の吹きまわし?」以降推奨です)
とんとんとん……って、ホームの階段を登ったらその先に見慣れた横顔が目に入った。
乱れ一つ無くピシリと整えられた髪に、柔らかそうな生地のジャケットと同系色のパンツ。
ちょっと前まではその中学生らしくない整いすぎたような格好が気に入らなくて、絶賛する皐ちゃんにも、七五三なんて言っていたけど、見慣れた今となっては大人びたセレクトだとは思うけど、しっかり似合って居るのに、我ながらフェアな態度じゃ無かったなって反省する。
遠目で見ても判るその端正な姿を気にする人は結構居て、チラチラと彼を見ている視線は有るけれど、もう慣れているのか気にした風も無くホームを見つめて居る冷静な表情。
……その姿にもぞりと悪戯心が騒いだ。
まっすぐに前を見る彼の視界に入らないように少し遠回りしながら彼の背中を見ると、耳元からコードが伸びているのに気がついた。
うーん、後ろから声を掛けたら、ちょっと吃驚するかな? って思ったけれどそれじゃ聞こえないかも?
なら……、と、そっと忍び寄り、耳元で
「一条」
声を掛けると
「…っ! 藤堂?」
驚いたように振り向きながら、勢い良くイヤホンを耳から引っ張るようにして外すのに、あっ……って思う。
一条にしては珍しいその乱暴な仕草は、案の定皮膚を強く擦ってしまったらしく、痛そうに耳に手を当てている。
流石に申し訳なく思って大丈夫? って耳を見ようとしたら警戒するように距離を開けるのに慌てて両手を広げて見せた。
「もう何もしないって、ごめんね、怪我してない?」
「大丈夫だが、まったくおまえは……」
『お待たせしました一番線に電車が参ります、危険ですので……』
「来るみたいだな」
こんな時いつもそのまま、何を考えているとか、落ち着きがないとか言葉が続くけれどタイミング良くアナウンスが流れて来るのに思わずほっとしてしまった。
そんな事を言えば、そう思うならやらなければ良いと言われそうだけと、一条の反応はたまに私が思うより少し大きくて、やってしまってから、あれ? って思うんだ。
だって、いつもの一条ならイヤホンをあんな風に引っ張ったりしない。
……そんな風には見えないんだけど、以外と肝が小さいとか?
心の声が聞こえたら更に怒られそうな事を考えて居たら、ホームに電車が入って来て目の前の扉が開いた。
「珍しいな?雨でも無いのに」
電車はガラガラで乗ったら入口すぐそばのワンシートが丸々空いて居たのに並んで座ると、不思議そうに一条は私を見た
「自転車パンクしちゃったんだよ、見たら道にガラスの破片が散らばってた」
「走る前に気がつかなかったのか?」
曲がり角とかは気をつけるけど道路は普段そんなに見るものでも無いしって言ったら、いつもみたいに眉間にシワを寄せた
「……もう少し周りをよく見ろ」
大体、不注意なんだなんて言いながら、さっき声かけた時に外したイヤホンを巻いて居る
「音楽聞いてたの?」
「まぁな、行き帰りは結構聞いてる」
「へえー! ね、どんなの聞くの?」
私が不注意かどうかというと言う話をする位なら、どんな音楽が好きかとか言う話の方が余程平和だ。
それに、正直私とは趣味趣向が明らかに違う一条だけに興味も有った。
「聞いて見るか?」
すると、そう言ってしまおうとしたイヤホンを渡してくれたから、そのまま耳につければ、柔らかに流れ出す綺麗な女の人の声、でも聞いた事がない歌だし……
「これ、洋楽?」
「あぁ、叔父が好きでよくくれるんだ、最初は慣れなかったんだが耳慣れて来ると悪くない」
確かに耳触りは良いけれど全然知らない曲だから、親しみがないのが少し寂しいかも? そう言うと、一条はそうかもな、なんて言って、じゃこっちはどうだ? なんて中味を変えた。
次に流れ出したのもやっぱり英語なんだけど、でも、これはどっかで聞いた事がある様な……
「あっ……、これCMの?」
「あぁ、これはCMとかドラマで使われた物を集めたものなんだ、聞き覚え有るだろ?」
「うんうん、わぁ~、でもこれなんのCMだっけ……」
「一曲めか? 確か……」
幾つかの曲名をブツブツと言いながら最近聞いてなかったから……、なんて言ってるのに
「はい」
左耳だけ外して差し出した
「なんだ?」
「片方返すから、そしたらなんの曲か分かるでしよ?」
「お、まえ……」
呆れた様に私を見るけど
「終わっちゃうよ~!」
急かすと、全く……、なんて呟きつつもイヤホンをはめた。
「これか、確かコーヒーのCMじゃ無かったか」
「あっ、そうそう! 楽しい~、ん? ねね、これってこの前やってたドラマ?」
「そうだな……」
「これ、懐かしいな、昔の映画だよね? 前にTVで見た……一条?」
そうやって流れる曲の話なんかをしてたのに、いつの間にか一条の声がしなくなったのに気がついた。
不思議に思って横を見たら何故か一条はじっとこちらを見ていて、目が合うと一条はハッとしたようにイヤホンを外し
「次だ、降りるぞ」
なんて言うのに、慌てて私も外してありがとうって返したんだけど、今度はさっきとは違って適当に鞄に放り込むようにして、慌てたように席を立つ。
けれど、まだ電車は一つ前の駅を出たばかり
「そんなに急がなくても、まだ大丈夫だよ?」
座っていた席の向かいの扉の前に立つ一条に近づいて声を掛けると
「いいんだ……」
なんて言いながら、思い出したように鞄からイヤホンを取り出して巻き直している。
そんな姿を見ていると、やっぱり丁寧だよなぁ、なんてしみじみおかしくなるけれど、でもそれならば丁寧にしまってから席を立てば良いのに、……今日の一条は何だか少しらしくないなとなと目の前の彼を思わず見つめていると。
私の視線に気がついたのかちらりと目を上げた一条と目が合った。
……だけど、彼はその瞳をすっと横に逸らすと、ふうって……何故だか深くため息を一つ付く。
そのため息が、なんだかとても疲れているように見えて、これから授業なのに大丈夫なのかなぁ?
「寝不足か何か?」
「は?」
「や……なんか疲れてるみたいに見えたから」
そう言うと、一条は
「だっ……」
って、何か言いかけたけれど何故かその言葉を飲み込み
「もう、それで良いから、そういう事にしておけ」
なんて、俯いたせいではらりと零れた髪を掻き上げる手で顔に影が出来たせいか、何処か切なげに見える笑顔を私に向けると
「そういう事にって……」
明らかに違うってことでしょう? と説明を求めその瞳を覗き込もうとするも、けれど彼はそれを拒絶するかの様にくるりと背中を向けてしまった。
お久しぶりです、過去拍手お礼六本目になります。
何故か一条はいつもこんなテイストです、甘酸っぱいと言うよりも甘しょっぱい……。
でも、そんな味がしみじみ好きなんです。
愛はあるのですが、もし彼と話す機会があればいい加減にしろと眉間に皺を寄せられそうですね。