魔女の提案
「兄ちゃん、おかえりなさーい!」
「おかえりなさい、主」
ここ数日、魔女は食事を毎日作りに来ている。最初は戸惑ったもののマシロの作る食事は味が良いのはもとより珍しい香草が使われていて体にも良いらしく両親の顔色が日に日に良くなっている。
アオイとベニコも良く懐いている。
「マシロさん、いつもありがとう。気になっていたのだけど…食事の材料費はどうしてるの?恥ずかしい話しなんだが親が2人ともこんな状態でろくに働けず、今はタケルに家計を支えてもらってる。ちゃんとタケルからお金は受け取ってるかい?」
食後の薬をもらうと父が申し訳なさそうにマシロのに訪ねた。
「もらってます」
「もらってないでしょ!食事と薬の材料費、今日こそ受け取ってもらいますよ」
タケルはお金を包んだ布袋をマシロに差し出す。
「要らない。香草や草は森に生えているから無料だ」
「収穫する手間があるでしょう。それに肉や魚は流石に狩猟で手に入れた訳ではないでしょ?」
「薬草を売ったお金がある。でも、使わないから持て余してたんだ」
「くっ…なんて羨ましい悩みだ。でも!ボク達にもプライドはあります。受け取ってくれないと美味しい食事も心から楽しめません」
「……」
何やら思案しているマシロの返事を静かに待つタケルの膝にクロイが飛び乗ってきた。甘えるように後ろ足で立ち上がりタケルの耳元に擦り寄ってささやいた。
「真面目なヤツだなー。アイツ、ホントに金が有り余ってるし暇なんだから好きにやらしときゃいいんだよ」
「そう言う問題じゃなくて…」
「よし!じゃあ、提案があるんだが、聞いてもらえるかい?」
晴れやかな表情でマシロが口を開いた。
「この家は以前、家畜を飼育していたのかな?離れに長く使っていない小屋があるだろう?賃貸料を払うからあそこを貸して欲しい」
「ええ?確かに今は使ってないですけど、何に使うんですか?」
なかなか食費を受け取らないマシロにタケルは少し苛立って思わず冷めた口調になってしまった。それを察してマシロも真面目に説明をはじめた。
「あそこで商売をさせて欲しい。店を開く」
「店ですか?」
「うむ、私には薬と占いの知識がある。あそこで店を構えてタケル様に賃貸料を払う。それで食費はプラマイゼロ、いや、むしろ私にはプラスになる」
我ながら良いアイデアだと言わんばかりのドヤ顔のマシロに、タケルはため息をつきながら残念なお知らせを告げた。
「この国で薬を販売するには許可証が必要なんです」
「知ってる!これだろう?」
少しムキになったマシロは空間から1枚のカードを取り出した。
「あっ!」
「え?!今のナニ?!」
「手品?!すごーい!」
突如現れたカードに、魔法を使った事が分かったタケルは焦ったが、アオイとベニコは不思議な光景に興奮していた。
「マシロさん!」
「う、すまない。でも、許可証ならちゃんとある。本物だよ」
「何故、そんな物を持ってるんですか?ボクも詳しい訳じゃないけど試験を合格しないと貰えないんですよね?」
「1人、私達のコミュニティと交流のある人間がいて、薬の調合を依頼されたんだ。その時に出来た薬を売るにはコレが必要だと言われて、ちゃんと試験を受けた」
「それって…」
魔女の薬は入手不可能だと言われているにもかかわらず稀に市場に出回る事がある。自分には縁のない話だったので真偽の程は深く考えず御伽話のように聞いていたが、彼女の話を聞いて腑に落ちた。
魔女の薬を扱う人間が1人だけいる。王宮御用達の薬屋の主人だ。
「ちゃんと儲けを出す自身はある」
「あの、あまり目立つ事は避けて欲しいのですが」
「タケル様、私を誰だと思ってる?」
マシロはタケルの側に寄ると皆には聞こえない小声で告げた。
「過去に人間に売ったような魔力を込めた薬は作らない。だから私の正体がバレるような事にはならないよ」
「でも、その人はアナタの事を知ってるんでしょう?」
「直接、顔を合わせた事はないから会ったところで気づかないだろう」
「でも…」
コソコソ話す2人に父親が痺れをきらして口を開いた。
「いい話じゃないか。どうせ使ってない小屋だ。あのまま朽ち果てるぐらいなら利用してもらった方が良い。ただし、食費は受け取ってもらうよ」
「分かりました。では一旦受け取ります。それで店の賃貸料は1ヶ月50ゼンで良いですか?」
マシロの提示額に両親もタケルも驚いた。マシロが提案した金額は平民の平均的な年収に当たるものだった。
「いやいや!多すぎるよ!あんなボロ小屋タダも同然なんだから。分かった!とりあえず食費は受け取らないで良いから代わりにあの小屋を使ってくれ。これからの事は開店してから様子をみよう。それまでは申し訳ないが君の食事を賃貸料とするよ」
父親は根負けして食費を渡す事を諦めた。
が、事情を知っているタケルは引くわけにいかなかった。
「ダメですって!正体がバレない保証はないんです。リスクがあり過ぎです」
コソコソと抗議するタケルにマシロはキッパリと告げた。
「だから!わたしを誰だと思ってる?バレたら魔法でちょちょっとやっちゃったら良いんだよ」
魔女は美しい顔で不敵な笑みを浮かべた。
それを言われてしまっては無力な人間タケルは黙るしかなかった。
「そうと決まれば明日から早速準備にとりかかりますか♪じゃあ、今日はもう帰る」
マシロは上機嫌でクロイを従えて颯爽とタケル宅を後にした。




