エピローグ
男前魔女と生真面目男子のお話です
読んでいってくださいませ
「あなたの使い魔にして欲しい」
大きな満月を背景に魔女は、驚いて腰を抜かしているタケルにそう告げた。
タケルと言う男は病に伏せっている両親に代わり幼い弟と妹の面倒をみる非常に穏やかな青年である。当然、争い事は好まない性格だ。にも関わらず家計を支える為に体格の良さを活かして国の護衛隊に所属し治安維持に日々勤しんでいる。
「顔もスタイルもまあまあだし、愛想も良いんだけど……付き合ってみたら何か物足りないのよ」
そんな理由で女性にフラれてしまう事もあった。とにかく目立つ事が嫌いなので何事にも控えめに自分を押さえて空気となるのを得意とする男がタケルである。
「え?」
タケルは間の抜けた声を出して魔女の美しい顔を見上げた。
「私の主になって欲しい」
魔女の細く長い指がタケルの頬に触れようとした。
「ちょっと待って!!何?!他の皆を何処にやった!!」
身をのけぞらせながら後退りをする。恐怖と驚きでまだ立ちあがる事が出来ない。
「理由なんて、お前が気に入ったからしかないだろう。ほら、契約しよう」
「い、い、嫌だ!!」
「怖くない、怖くない。ちゃんと忠誠を違うから」
小さい子供をあやすかの様に魔女はニッコリ微笑みながらタケルににじりよる。
「み、皆は?!まさか…」
不安と恐怖しかないタケルに魔女は若干の苛立ちを見せた。
「大丈夫だよ。元いた場所にまだ全員いるって。楽しい幻覚を見させて足止めしてるだけ。主との契約に邪魔でしょ?」
「だ、だから!何でボクと契約を!?あなた、あの孤高の魔女ですよね!?」
「そうそう、あの孤高の魔女様が契約しようと言ってるんだよ?ほら、こっちにおいで」
「ち、ちょっと!!!!え、チカラ強っ!」
魔女に腕を掴まれたタケルはその手を振り払ったが、魔女も負けじと彼の革の鎧を掴んで自分の元に引き寄せようと抵抗する。
「間抜けだな」
子供の声がしたかと思うと突風が吹きだした。思わず目を閉じたタケルが次に目を開くと、魔女の肩の後ろに小さな黒い猫のようなものが浮いていた。
「ひ?!魔獣!!」
「さっきからうるさい男だなー。こんな奴の何処がいいんだよ」
「こんなに可愛いじゃないか。クロイ、お前も手伝ってくれ」
「……!あの、ちょっと待って!待ってください!」
タケルは両手を前に伸ばして無邪気に近寄ってくる魔女を制した。
ホウジュ帝国には極少数の魔女が存在する。
魔女といっても不老不死という訳ではなく肉体は至って普通の人間と同じである。
かつて魔女の加護を受けた王がいた。彼の治める国の干からびた大地には作物が育つはずもなく、他国に売れるような資源が眠っている訳でもなかったので、国民達は貧しい暮らしを送っていた。
ところが王が魔女の加護を受けた途端、作物を収穫できるまでに大地は潤い人々の生活も豊かになり国は目まぐるしい発展を遂げた。
そして王は現在のホウジュ帝国の初代皇帝にまで登りつめた。
「ボク達はホウジュ帝国ヒスイ国の王命でアナタを探しにきました」
タケルは本来の目的を魔女に語りだす。
「一緒にヒスイへ来てくれませんか?」
タケルの願いを聞いた魔女はあからさまに不機嫌になった。
「イヤだ。あんな酷い罠で私を捕まえようとした王の元へなど行かぬ」
「それは…そうなのですが…」
「主はこの森に残ればいい。気に入らなければ主が満足する場所を探す」
「そういう訳には…」
「私と契約すれば何不自由ない暮らしを約束する」
先ほどから同じ押し問答の繰り返しで話が先に進まない。タケルは自分の胸の内を素直にぶつける事にした。
「契約は出来ません。国王様を差し置いてアナタとボクが契約など……そんな事をしたら反逆者とみなされてしまいます」
「では、帰らなければいい」
「国には家族がいます。体の弱い両親と幼い弟と妹がいます。どうかヒスイの国王の元にお越しください」
「家族……」
「それが叶わないのであれば、我々は今回このまま引きあげて国に戻ります」
「主……」
タケルは魔女の機嫌を損なわないよう慎重に言葉を選びながら落とし所を提示した。
「そうか、わかった 」
ヒスイに来るか来ないかの2択…タケルは跳ね上がる心臓の音に息苦しさを 感じながら魔女の選択を待った。
が、
「ヒスイの者たちには私が魔女だとバレないようにする。普通の人間として主のそばにいるから安心するがいい」
「え……」
魔女の答えはタケルが提示したどちらでもなかった。
「君、魔女の執着心はエゲツないんだからね」
静かに見守っていたクロイが同情の眼差しを向けながらタケルに声をかけた。
「逃げられないよ」
クロイの言葉にタケルの顔はみるみる青ざめていった。
ありがとうございました^ ^




