チャプター3プロローグ 現代人と幻想世界
僕、モリ アキヒトはなんとか歯を食いしばって今でも生き残っている。
魔法こと暴風雨がどこもかしこも吹き荒れている。
しゃれこうべが風に舞い、水刃こそたおやかに多くの生命を貫き奪おうとし、炎爆によって僕の目と喉が焦がされる。
まるで紛争の真っ只中にいるかのようだ。
見るも地獄。進むも、戻るも地獄。まさに死屍累々。
いきなりこんな情景を見せられても、困惑するよな。
説明しようにも、……少し待ってくれ! 今忙しいんだ。
見るからにカオスで、無作法で、無作為に、殺意が満ち満ちている。
助けを呼んでも誰も助けてなんてくれない。そういうことは前々回に学んだ。
だけど言わせてくれ。
誰か。……もしこの景色を見ているのだとしたら、助けてくださぁあい!!
――しかしどうやったらこんな極限状態に陥るっていうんだ。現実逃避がてら過去を少し脳内が勝手に過去をさかのぼっていく。
事の発端は、そう確か――。
――――数か月前。
話をしよう。これは今から、2週間、いや1か月後の話だったか。
ついに待ちにまったアプデがくるらしい。前のアプデからもうすでに2か月経ってしまった。
そんなに期間を開けて大丈夫か? と思っていたが、ようやく最近になって告知がきた。
しかしいまだ詳細はプレイヤーたちには隠されたままだ。
ただバトルロワイヤル形式だということだけは知らされている――。
――のだが。
僕たち3人はその1か月後の期間限定イベントとやらの先行体験をさせてもらえるのだ!
そのために本日、また同じカルフォルニアの本社までやってきた。
いやぁまさか一ヶ月後のイベントの内容を僕たちだけに見せてくれるなんてね。嬉しみ深し。いとおかし。
イベントの内容的に少し気になる点はあるけど――。
やはり持つべきはコネだねコネ。
ありがとう親父。スタッフの皆さん。
そして目の前でパソコンに向き合いながら部屋で出迎えてくれたアデルバード所長にも慎み深く感謝を。
「――はいはい、ようこそようこそ。そんなに全力で感謝の意を伝えなくていいわよ! ……じゃあそこ座って。ちゃっちゃと始めちゃいましょう」
ちゃが多いね、なんて茶々はいれないでおこう。自動翻訳なので彼女の意思は介在していない。
そういえば親父は今回出迎えには来ていない。ドコダロナー。
「色々と説明はVR空間に入ってからのほうが手っ取り早いわ。早速、コレ、身に着けてくれる?」
アデルバード所長は手早く僕らにVR器具を渡してきた。
時間が引き延ばされるVR空間に早く来てほしいのだろうか。
先ほどから職員たちが部屋の開け放しのドアの隙間を足早に走り抜けていっているのが廊下から見える。
アデルバード所長もどこかと連絡を取っているのかブツブツと無線?でせわしなく指示を送っている。
前回と同様にスタッフたち全員が忙しい毎日を送っているようだ。
そう周囲を観察していたら無事電源が無事入った。目の前の視界に浮いている設定画面を入力していこう。
えーっと。名前はそのままで、その他の身体特徴設定等も現実準拠のまま、と。――うん。大丈夫だ、問題ない。
僕と同じく他の友人2人にとっても、この手の作業はもう慣れたものだ。
見やるとエミリが渋々と、そしてカケルが手早く指を空中で動かし設定を終えていっている。
「……前回来た時もいきなりだったけど、いつも余裕がないわねここは。ハァ」
前回と同じような、もしくはそれ以上のこの空間の忙しなさに辟易しているのか、それともいきなりVR空間に放りだされた前回のことを思い出しているのか、エミリの作業を進める手は遅い。
「いいじゃないか。展開が早くて。あれ、そういうのが好きって前言ってなかったっけ?」
もうすでに設定を終えたのか、座ったまま足をぶらぶらとしている。カケルの楽しげな表情は相変わらず眩しいものだ。
多分わざとズレたことを言ってエミリの気を紛らわせようとしているのかな。
「それは……漫画やアニメのことの話よ。……現実ではそこそこのスピード感でとどめてほしいわね」
「まあお金も出るって話だし。200ドルもだよ?」
「……お金。……。まあ生きるのには必要なモノよねえ」
「……なに、いらないの? じゃあ僕がもらおうかなあ、なんて」
「あのねえ。いらないなんて一言も言ってないわよ。……はい。設定終わり。ありがとうね」
「うぇーい」 「えぇ? なんのことぉ?」 「その反応は逆にうざいわ」
よかったよかった。エミリの表情が明るくなってくれて、僕たちもうれしいよ。
そうこうしてると視界の端で、アデルバード所長がこちらに向き直るのが見えた。
「設定し終わった? じゃあ早速出発するわよ。転移先指定は、と……夢想幻想世界、ね」
イベントの内容が気になるという一文を追加して、前後のまとまりがつくようにしました。




