Ch3.09 はたして傍観者は
傍観者には、他人の気持ちなどわかりやしない。
他人と一定以上深くかかわることをしてこなかった僕だ。
なんであの子は僕の告白を断ったのだろう。考えても、彼女の言った理由が本当か嘘かなど僕にはわからない。
だから本当の意味で人が分かり合うなんて、できっこない。どうせもし付き合えたとしても、長くは続かなかったのかもしれない。
人間、みんな見える景色が違うのだ。
……でも多分、それは普通のことなんだろう。
人間、近いようで近くない。
皆それぞれがどこか異質で興味を向ける対象は違う。
それが普通なのだ。
そんなことを再三なく悶々と考えていたら、告白から1か月も経っていた。
今日も今日とてベッドの上で怠惰をむさぼる毎日が続く。
『見てください、この幻想世界の美しさを! またプレイヤーたちもまるで現実に存在しているかのようなリアリティーです』
『いやー、きれいですねぇ。 魔法が花火のように舞う様子も幻想的で素敵ですねぇ』
『今回はバトルロワイヤル形式なので、やはり暴虐的でもありますがね。 奥さんには見せられないような映像かもしれませんね』
アハハハ!、と実況者のやけにうるさく品の無い笑い方が気になるが、暇なので適当におやつでも食べながらこのネット系列のテレビ番組でも見ようか。
今や全世界で話題沸騰中であるゲームの期間限定イベントの様子が映しだされている。
『――引き続きイマジン・ファンタジーワールドの期間限定バトルロワイヤルの様子を中継していきます! なんとも予想外なハプニングや波乱万丈な展開が続きましたが、依然首位独走中なのは、……モリ アキヒト選手です!』
……へえ僕と名前が似ている。
僕の名前はモリタ ハルアキ。両親がよくハイキングに出かけることが趣味だったから、好きな季節にちなんでそう名付けられたらしい。
とても勝手で、適当な理由だと最初は感じたが、今では気に入ってはいる。
僕も勝手で適当に生きてきたからだ。僕の名前としては似合っていると思う。
そんな僕の名前とそっくりな彼が、現在首位独走中らしい。
……しかし見るからに普通に奴だ。
能力的にも、そう僕と変わらないように見える。走ってもそこまで早くないし、ケンカも強くなさそうだし、知恵もそこまで早くは回らない。
しかしどこか異質な存在に見えるのは何故だろうか。
なんとなく分かるのは、この人と僕では、見えている世界が近いようで近くない。
それがこのプレイヤーを現状攻略トップまで引き上げた理由なのだろうか。
疲労で身体は震え、動きも鈍い。限界が近いのは目に見えている。
それなのに。
「……楽しそう、だなあ」
人は社会的な生物だ。
その異質さを隠しきれなくなった時、この世界は途端に住みにくくなってしまう。
少なくとも僕はそんな恐怖にたびたび襲われる。
だから僕は、その自らの異質さをいつしか捨ててしまった。
周りの人に合わせるため、1つ1つそぎ落としてきてしまった。
……この人はどうやって、その異質さを保ったままでいられるのだろうか。
なにかそういったズレた存在が近くにいるのだろうか。
ミヤキャットもそうだが、このゲーム攻略組のトップ層はやはりどこか異質な存在のやつらが多い。
そんな彼らを見物するのは嫌いじゃない。
僕には持つ続けられなかったその異質さを持った奴らを見るのは好きだからだ。
どこかあこがれてしまうのだろう。現実世界を踏み外してしまいそうな、その危うさに。
「……あ」
極度の疲労からか、生傷の絶えない全身がついに崩れ落ちる。
流石に、これで終いか。
――四方から、黒い斬撃が、爆発が、エネルギー波が――魔法は彼に雨あられのように降り注ぐ。
「……閃光!」
画面が光で埋め尽くされる。先ほどから何度も彼の命を救ってきた魔法だが、この状況ではもう焼け石に水だろう。
あの崩れ落ちた態勢では、すでに放たれた魔法を避けられない。
画面に色彩が取り戻されていく。そこには塵となったモリ アキヒトの姿が――。
――え。マジか。
「――フハハァッ! 水鏡!」
五体満足で仁王立ちしている彼が、四方からの魔法をはじき返して他のプレイヤーを殲滅している様子が画面に映し出されている。
……うわーお。まるでなろうの無双系主人公のようだ。
まるで人格が変わったのかのように、殲滅を続けていくアキヒト選手。さっきまで防戦一方だったのに、どういうカラクリだ?
しかし見ていて清々しい。まるで僕にこうあれと告げているかのようだ。
僕とあまり変わらないと思えた彼が、こんなに他を圧倒する力を手に入れることができるのか。
なればこそ。
行動を続けろ。世界が色あせていくようなスピードで走り抜けていくんだ。……なんて彼は全身で示しているのかもしれない。
そうすれば。そうすれば。
僕も彼らみたいに、世界ってうやつを好きになれるかもしれない。




