Ch3.02 ケース#91 鬼人想華
ずっと私はサムライというものに憧れていた。
その価値観である武士道という精神と、多くを語らずとも成すべきことをなす姿に感銘を受けたのだろうか。
その価値観を貫き通す強い意志と、雄々しく戦うさまに私は大いに惹かれたのかもしれない。
星の大戦争という映画を観ても、嫌いではないが、どこか私が求めるものとは違っているように思えた。
……なぜだろうか。
あの白銀の日本刀が肉を切り裂く様が、血しぶきと共に舞いながら多くの敵を打ち倒していく姿こそ美しいと感じたからか。
ゆえにカナダの出身ながら、叶うなら日本の戦国時代に生まれ変わりたいと常々願ってはいた。
「――御免」
この光の刃には血脂など付きやしないが、ついつい切り払ってしまう。
辺りには、死骸。それも数え切れないほどのゴブリンたちのもの。
この黒の刀も使い勝手は悪くないことがわかった。
「……ハハ、ハ」
この顔に張り付いてる表情は、おおかた現実世界では身に着けたことのないものだろう。
――楽しい。嬉しい。狂おしい。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
「――フム。キサマ、何者じゃ?」
――突然飲み込まれるは力の奔流。
地表にいるこの身が、どこから発生したのか、怒涛の勢いの水流に流される……?
やすりが混ざってるかのような水流に全身が切り刻まれ、からめとられる。痛いが、……まずい。
身動きが、取れない……!
「まあ、だれでもよいわ。……苦しんで死ね」
流れは止まらない。……だれだか知らないがすぐには殺してくれないようだ。ハハハ。
全身はすでにずたずたで傷だらけ。しかしまだまだ私を苦しめたい様子。
――ハハ、ハ。
何を言っているかわからないが――。
――油断を、しているな?
流されるままに回転する体の利用して、腕に力を込め――。
……刀を斬り――放つ。
ぐん、と伸びに伸びた黒刃が視界に収めた敵へと迫っていく。
防御不可の一撃。
その一撃は、しかと、相手の胴体へと直撃した。
――水流が止まる。
「ゲハ、ゲホ。……また、つまらぬものを切ってしまった、というやつだな。……ハハ、ハハハハ!」
また1つ我が刃に勝利を。この凶刃を――狂人を、止められるものなどもういない――。
「――アホめ。蜃気楼の分身じゃ。……まったく。こんな奴に負けたのか長老よ。……つまらぬなあ」
両の目の視界が横に広がりながら倒れていく。
……それはそうだろう。いきなり一本足になってしまってはバランスもままならない。
……意識が、遠くなっていく。
はたと感じた。
斬り裂かれるのも、悪くない。
……思っていた斬られ方とは違うがな。まるで割けるチーズのようではないか。
ハハ、ハ。




