Ch2.8 魔族の正体(4)
「……ほお、一族を裏切るか」
唐突な状況にも関わらず、感情をあらわにせず冷静な表情で問いかける女神。
「は。私も、我が家族も罪深き者たちなれば。しかし麗しき女神よ、どうか我が士族にはご容赦を」 声が、震えている。
「……ふむ。そなた、年はいくつじゃ」
「……。16、です」
「あいわかった。そなたと、他の一族に関しては不問としよう。……その定住の場所の情報と引き換えには」
……マロンちゃんと年が一緒だった。驚きの事実だ。ナンダッテー!
――いやもっと色んな情報が飛び交ったのは分かってる。情報のせいりがまだぜんぜんおわってないよ!
こちとらまだ情緒が不安定なんだ、勘弁してくれ。
女神の言葉を聞いたマロンが顔を上げる。困惑した顔をしている。ワカルゾーその気持ち。
女神、イメージと違うよな。
「……いえ。私にこそ罰をお与えください。その分を、ぜひ他の我が士族へのより一層のご配慮に――」
「――くどい。……ガキめ。そなたはまだ物事の判別がついておらん。……あまりそう、自分を殺すでない。よいな?
――時に、そなたの家名を聞いておこうか」
有無を言わせぬ勢いでどんどん話を進めていく女神。マロンもてんやわんやな顔で目をぱちぱちしながら口を開く。
「……は、はい。僭越ながらお答えします。――我らの忌まわしき家名は、……ディオドランテ。大盗賊アロン・ディオドランテの直系の子孫にして、悪しき風習をなにより愛す盗人風情らの家名です」
「……だれじゃそい――」 「うおっ、マジかよ。大陸をまたにかけて暗躍してるって噂の超有名な大物秘密結社じゃねえか」 「……ほほうなるほどあのかの有名なディオドランチョか。うんうん知ってる知ってる」
おい知ったかしてるよこの女神。底が知れるからやめてほしい。
……ていうか有名な秘密結社ってなんだよ。もうそれ本末転倒だろ。
「アコンじゃかウコンじゃったか、まあそこそこ名の知れた盗賊が百年前いたようないていないような……。まあよい。どうせ大したやつらじゃないじゃろ。それで人数は?」
「20名程度です」 「……少なくね?」 「脱獄してからはるばる海をさまよいようやくたどり着いたのがこの大陸なので、何人かその、旅の途中で……。それになにぶん、分家なものでして……」
おーい、コロン姫たち分家かよ。なのにあんなに直系だとかぬかして偉そうにしてやがったのか。コンプレックスかぁ?
「ほーん。……そうじゃな。そのくらいの人数なら……ブゥ、おぬし一人でも危険はないじゃろ。蹴散らしてやれい。……そこの旅人も終わったら適当にどっか帰ってよいぞ」
「あいよ女神ちゃん。じゃあちゃっちゃか蹴散らしたるか。……捕縛して引き渡すのもいい交渉材料になりそうだな」
ブゥさんが頼もしいことを言ってのけている。
「で、場所は?」 「ここから西へ――」 「……ほーん」
なんかとんとん拍子に話が進んでいく。僕が立ち止まっている間に世界がどんどん進んでいくかのようだ。
このまま流れに身を任せても良いのだろうか。
――僕よ、今一度聞こう。
僕は、僕の目標を達成できたのか。
「――ほいっとな。ほれブゥとキサマら。ここに飛び込め。2時間後くらいにまた同じポータルを作っといたるから、終わったらそこにまた入れ。出血大サービスじゃ」
女神が手をかざすと、空間が割れたようにひびが入り、人ひとり入れるような黒い隙間が空中に現れた。
……ワープに見せかけてのミキサーではないだろうか。――ブゥさんも入るし、さすがにそれはうがった見方をしすぎか。このうがった、の使い方が誤用であるのを祈ろう。
……これはもうこの流れには逆らえそうにない。頭をがりがりとかき、感情の整理にけりをつける。
それじゃあ最後に、いまだに感情の整理が完全にできていない僕から、1つ彼女に尋ねてみようか。
「――女神、さん。……なんでそんなに変わったの?」
単純だが、端的な質問……なんだろうか? なにぶん頭が整理されていないのだ。勘弁してくれ。
しかしまっすぐと、ブゥさんを見習って女神をしっかりこの目に収めよう。
「ああ? ……なんじゃその質問は。……ふむ。単に聞いているのはオマエを殺さない理由か。――別に気分じゃ、気分。オマエはブゥに気に入られているらしいからの。オマエを惨殺したら、きゃつが悲しむじゃろう。……多分スゥも怒るだろうし」
――きゃつらに感謝せえ。でももっかい殴ったらぶち殺すぞオマエと念を押される僕。
「……っはは」 気づけば口から変な笑い声が出ていた。
――おおっと?
「なにわらっとんじゃキサマころすぞ」
「あすません」
さて、いま僕が浮かべた笑いには、どんな感情が込められているのだろうか。
先ほどと違い作り笑いではない。少し苦くもあったが、それは不思議と自然なものだった。
なんだこの自問は。国語の設問かよ。作者の感情を読み取れってか? ふはは。
……くしくも、僕と女神の行動理念の1つは似たようなものだったらしい。
なんか悔しいが、それはどこか……そう、面白い事実であった。