殺意の行方6
▲ ▲ ▲
日はまた昇る。
それは希望の言葉ではない。
どうしようもない絶望から生まれる言葉だ。
こんなにも辛いのに、このまますべてが終わってほしいのに、太陽は無情にも、いつもと同じように昇っていく。
鈴音は強烈な息苦しさをおぼえ、その場にしゃがみこんだ。
手にしていたコップが床に落ち、水が派手にしぶきを上げる。
視界が歪むのは酸素を求める肺の痛みのせいか、涙のせいか。それとも……。
【何してるんだい? 早く来ないと置いて行くよ】
求めてやまない兄の懐かしい微笑みがすぐそばにあった。
──ああ、会いたかった。そんなところにいたのね。待ってよ、そんなに早く歩かないで。私を置いて行ったりしないで。
【急がないと。あまり待たせるとへそを曲げて、会わせてもらえなくなるかもしれない】
早くおいでと、兄が手を差し伸べてくる。
その兄の手をつかみ、彼女は首をかしげる。
──なにをそんなに急いでいるの? いったい誰に会いに行くの?
【まったくね、過保護なんだから。親友のぼくにも内緒にしていたなんてひどいよね】
──親友?
彼女は兄の手を掴む手に、ぎゅっと力を込めた。
【ほら、急いで】
兄が楽しげに笑いながら彼女を急かす。
そこで初めて彼女は違和感をおぼえた。
兄の手は、こんなにも滑らかだったろうか? と。
──いいえ、兄さんはもっと骨張った手をしていたわ。それに、背だって私より高くて、私はいつも見上げていたわ。双子とはいえ、幼いときは存在すら知らなかったし、出会ってからはこんなに目線が近いことなんて一度もなかった。
兄の顔をよく見ようとして目を凝らしたときだった。
急に兄の動きが止まった。
繋いだ手に、ぬるりとした生温かい液体が伝わる。
ハッと、思わず手を離した。
手が真っ赤だった。
それ以上に、兄の胸が、真っ赤だった。
そして、兄の胸を貫く一本の腕。
凍てつくような眼をした男が、兄の前に立っていた。
【……マーヤ、逃げろ】
──ちがう。
違う、違う、違う。
私はそんな名前ではない。
これは現実じゃない。これは私の兄じゃない。これは私じゃない。
【いいや。これはおまえだよ。おまえは、私なのだから。私の兄も、おまえが兄と呼んでいた者も、あの男に殺されたのだ。魔族の王たるシエルにな】
「やめて、やめて、やめて!」
少しでも現実の感覚を取り戻そうと、鈴音は自分の腕に爪を立てた。
寝ても覚めても同じ映像が繰り返し頭の中で無理矢理に再生される。
それはいつも血色で終わる。
毒々しいその色に染まるのは、自分の兄であったり、マーヤが兄と呼ぶ者であったりするが、手を下す者はいつだって同じ。冷たい目をしたシエルだった。
鈴音は、もう何日もまともに眠れていなかった。
腕に爪痕がくっきり残るほど痛みを与え、なんとか現実の自分を確かめる。
壁に手をつきながら、ゆっくりと立ち上がった。




