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狩り2

 よみがえる生々しい感触を振り払うように、シエルは足元のコンクリートを蹴り、もう一段高い貯水タンクの上に着地した。

 そうして、地上に意識を集中させる。


「なあ。おまえ、さっきから何を探してるんだ? というか、おまえ最近なにやってんの? すごい血の匂いがするから気になってたんだけど」


「ああ、ちょっとした狩りをしているからな」


「なんだよ、それ」


 シエルは胸の隠しから小指の爪ほどの大きさの黒い物体を取り出すと、無造作に放り投げた。


「おまえはそれが何か分かるか?」


 キルクはその黒いものを受けとると、手のひらに乗せ、まじまじと眺めた。そうして、ハッと息をのむ。


「おい、これ……。カシュインの種子じゃないのか?」


「そうだ」


「なんでおまえがこんなもの持ってるんだよ? いくらおまえが王だからって……、カシュインに手を出すなんて無茶が過ぎるだろ。まさかこんなもので、この辺一帯の人間を皆殺しにでもする気か?」


 シエルを追うようにして貯水タンクの上に降り立ったキルクは、あからさまに非難の目を向ける。

 シエルは鼻で笑った。


「馬鹿を言うな。この俺がそんなくだらんことのために、わざわざそんなものを使うわけがなかろう。使ってるのは俺じゃない。誰かは知らんが、人間にこの種子を植え付けてるヤツがいるのさ。俺はカシュインに寄生された人間を狩っているだけだ」


 カシュインとは他の生物に寄生し、少しずつ命を吸い上げていく魔界に生育している特殊な植物だ。

 宿主はその過程で神経を侵され、やがて他の命も吸い上げていくようになる。要するにカシュインに操られたゾンビ状態になるのだ。

 放っておけば、あっという間にそこらの命を食い尽くしてしまうため、魔界でも危険なものとして、カシュインの生育地にはきっちりと境界線が引かれ、結界が張られていた。


「ちょっと待てよ。寄生された人間がそんなにたくさんいるのか?」


「今のところ、俺が見つけたのは五人だな。おまえが気づかないということは、おまえの縄張りには寄生された者がいないということか」


 嫌そうに指先でつまむキルクから種子を受けとり、シエルはふたたび隠しに仕舞った。


「……たぶんな。うちは桜がいるから、魔界のものが入ってきたらすぐ分かるようにしてるけど、べつに何も反応ないし」


「やはり捜し物は近くにあるということか」


「どういうことだ?」


「最近、メルクリーズの結界に何者かが接触した形跡があると言ったろう」


 その名を口にするだけで、針を飲み込んだかのように喉が痛む。

 およそ後悔するということを知らない闇の王に、唯一後悔の念をもたらした者。

 シエルが終生契約を結んだ者の名前は、口にするたび、心に思うたび、今もシエルの肺にたしかな掻き傷を残していく。


「ああ、おぼえてるよ。そのせいで、俺はミギリの面倒なんて見る羽目になったんだからな。その接触があった結界って、どっちの結界なんだよ」


「ラディスの滝壺にあるほうだ」


 うーんと、キルクは口もとにこぶしをあて、考え込むように唸った。


「あの結界はシエルの張ったものだって、誰だって分かるはずだろ。分かっていて接触するバカなんているか? そもそもあんなところ何もないし、ふつうは誰も行かないだろ」


「ああ。だから、最初から何か目的があったと考えるべきだろうな。俺の結界も気にしないほどの」


「もしかしてリーズが狙いか? わざわざあんなところに行って、シエルの結界であることも気にせず接触するってさ……」


「たぶんな。その手の輩は、あのとき皆殺しにしたつもりだったのだがな」


 地上に目標物を見つけ、シエルはその体躯たいくをしなやかに宙に躍らせた。


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