同居人7
「残念ながら、俺じゃないな。ここ最近で人間を殺した記憶はない」
キルクはあっさり否定した。
けれど、桜子が胸をなでおろしたのも束の間、彼はもうひとつの可能性のほうを示唆する。
「もしその兄貴とやらがミギリの〈血〉を持ってて、事故死とか病死じゃないっていうなら、たしかに魔族が殺した可能性は高い。魔族が人界にいるのはそんなにめずらしいことじゃないからな。正直、犯人を特定するのなんて容易じゃないぜ。だけど、もしもその兄貴とやらが殺されたのがこのあたりだって言うなら、殺ったのはシエルと思ってほぼ間違いないだろうな。人界でまで、わざわざシエルの行動範囲に入ってくる命知らずな魔族なんて、そうはいないからな」
やっぱり……と、桜子は息を詰めた。
同時に、疑問もおぼえる。
「……シエルって、同じ魔族の間でも、そんなに怖がられてるの?」
「そりゃもう、怖がられてるなんて可愛らしいもんじゃないぜ。なんせシエルは自分の配下たちを、ほとんど皆殺しにしちまったことがあるくらいだからな。今じゃ、誰もシエルには近寄らない」
人間である桜子には、もはや理解不能な話だった。リアルに想像すると吐き気をもよおしそうだったので、途中で思考回路を止めた。
「今さらだけど、あの二人、一緒にしてよかったのかしら……」
契約を交わしているし、シエルは鈴音を殺さないと宣言したと聞いていたので、一緒にいても大丈夫かと思ったのだが。鈴音が口にした兄の件は予想外だった。
彼女に兄がいて、しかも死んでいたなんて。
桜子は自分の思い過ごしであってほしいと願っていたが、キルクが言うなら間違いないだろうと、溜息をつくしかなかった。
自分が鈴音の兄を殺した張本人だと、昌輝が知ることはないだろうが……。
鈴音は、知ってしまう可能性がないとは言い切れない。兄を殺したのは、シエルだと。
そう思うと、桜子の気持ちは沈んだ。
「私、しくじったかも……」
自分の兄を殺したのがシエルだと知った場合、鈴音はどうするだろう。
もしも鈴音がシエル、あるいは昌輝に手を出したりしたら──。
桜子がそこまで考えたとき、まるで桜子の思考を読みでもしたかのように、キルクが不敵に笑って言った。
「心配するな。シエルに手を出すなんてことは、この俺がさせない。そのときは、俺が即座に始末する」
「バカね。私はそれを心配しているのよ」
このあたりの感覚は、人間の桜子と魔族のキルクでは、まったく違っていた。
「雪人ってほんと、どこまでもシエル大事のやつよねぇ」
桜子が呆れたように言うと、キルクは肩をすくめた。
「当たり前だろ。シエルは俺にとって特別なんだから」
「唯一無二の存在、だっけ?」
キルクは口もとをほころばせた。
そこにはただ、誇らしさだけがあった。




