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153話 善意 VS 正義! なんなんだ貴様は!?~大天使です☆彡

【パリ・アスモデウス視点】

 ※シテ島、ポン・ヌフ。回想からスタート。


 リューデスハイムで、ある”女”を探し1日遅れで華の都パリへ到着した俺は、魔女ヴィティと古い橋の上で待ち合わせをしていた。


 大天使ミカエル軍が同胞たちを虐殺するのを阻止するため、今夜俺たちは、天使どもの本拠地に総攻撃を仕掛ける。


 この作戦は、パリ市を縄張りとしている悪魔マモンに加勢する形で行われ、この地域近隣の上位の悪魔たちが招集された。


 忌々しい天使たちを相手に思い切り暴れられると奮起していたが……今はそんなことはもう、どうでもよくなっていた。


 パリに来てからもずっと、あの”女”の泣きはらした瞳を忘れることができなかった。


 ***


 待ち合わせの橋の上には、多くの恋人たちが戯れ抱き合い、愛の囁きがそこかしこで聞こえた。

 パリ観光を楽しんでいるのか、時間を過ぎてもヴィティは現れず、仕方なくマモンのところへ一人で向かおうとその場を立ち去ろうとした時だった。 


 リューデスハイムで目が合った、あの”女”が目の前を通り過ぎた。


 これは運命か!!! 


 女は赤いマフラーをなびかせ川沿いを歩き、川面に映る古い橋の情緒漂う風景を、魅惑的な黒い瞳でうっとりと眺めていた。


 一人で……。


 逸る気持ちを抑え俺は、人間に擬態することも忘れ”女”の前に飛び出した。だが、女の瞳は遠くを見つめたまま、表情ひとつ変えなかった。


 まさか、俺のことが、見えていないのか!? 

 あのとき俺に微笑んだように見えたのは()()()()だったのか!? 



 そんな……。



 だとしても、俺の気持ちはこの”女”から離れられなくなっていた。



 しばらく橋を見つめた”女”は、冷たい風に肩を少しすぼめた。魅惑的な瞳を見開き、小さく柔らかそうな唇から「はぁ~」と切なげで匂い立つような色っぽいため息を吐いた。そして、「クスッ」と花が咲いたように可憐に微笑んだ。


 心の芯から燃え立つような衝撃が身を貫いた。


 もう、この気持ちを抑えることなどできるはずがなかった。


 手を伸ばそうとした途端、”女”は不意に何かに突き動かされたように、声をあげ橋のほうへ走り出した。


「はあ!? なんだ!?」


 慌てて翼を広げ追いかけようとすると、上空に天使たちの群れが目に入った。


 くそっ、ここで奴らに囲まれ戦闘にでもなったらせっかく見つけたあの”女”を見失ってしまう。

 仕方なく、走って追いかけたが、不思議なことに角を曲がったところで見失ってしまった。


「あれっ……どこ行った!?」


 冷たい風が吹く川沿いの道は、薄暗く人間の姿はほとんど無い。


「まさか悪い奴に、連れ去られたんじゃねぇだろうな」


 姿を消し、音もなく連れ去る。


 こんなことができるのは俺と同等の上位の悪魔か、それとも力のある天使の仕業かもしれねぇ。上空を旋回する天使の集団を睨みつけた。


 あの、天使ども!!! 


 翼を広げ空へ飛び立ち、その(いきどおり)を天使にぶつけた。



「あの”女”をどこへやったーーーー!!!!」



 風は冷え徐々に嵐となり、雪が舞い出した。



「アスモデウス!」(マモン)

「遅れて済まない!」(ヴィティ)


 空を埋め尽くす黒い鎧のマモン軍と、白く輝く氷の騎士を引き連れたヴィティ軍が、天使たちと交戦しながら上空に現れた。


「この島に建つノートルダム大聖堂が、奴らの本拠地。一気に叩き潰すぞーーー!!!」(マモン)


 赤い瞳を(たぎ)らせ黒い鎧に身を固めたマモンが怒号を挙げると、悪魔軍は大聖堂前の広場になだれ込み戦闘がはじまった。


 その合間をぬって、天使たちに守られながら広場を駆け抜けていく、一人の”子ども”を見つけた。

 もしやこれが噂に聞く、古代の英雄の生まれ変わりで大天使クラスの実力を持つという、例の”子ども”!?


 ずいぶん、小せぇじゃねえか!?

 あれぐらいはまだ、ママンに甘えたい盛りだろうが。

 天使(あいつ)ら、こんな”子ども”までこの戦いに巻き込みやがってんのか!? 


 近い未来、俺たち(悪魔)の脅威となる存在かもしれねぇが、”天使(あいつ)らには気をつけろ”と忠告ぐらいしてやらねぇと……その子どもを追いかけ教会の中へ入ろうとすると、


 バリバリバリッ!!!


 強力な結界に弾き飛ばされ、石畳に叩きつけられた。


「痛ってぇ~~~」


 シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!……空から光る十字架の矢が地面に突き刺さった。


「おっ、来やがったか」


 ピカピカの黄金の鎧の大天使ミカエルが、軍を引き連れ上空に現れた。



「ゴミども! 残らず殲滅してやる! かかれーーーー!!!」


 鐘の音のように轟くミカエルの声。

 魔力全開で交戦しようと、吹雪で荒れる広場へ飛び出した。


 そのとき、ノートルダムから出てきた赤いマフラーを巻いた”女”が視界に入った。



 全ての音が掻き消え、俺は動きを止めた。



 ここにいたのか。



 でも、いまこの広場へ出てきたら戦いに巻き込まれる! 



「こんなところにいたら危ねぇ!!!」


 大声で叫んだ声は、戦闘の轟音にかき消された。


 踵を返し助けに行こうと翼を広げると、不意に”女”が声をあげ、見えない何かにかかえ上げられ、北の空へ連れ去られた。


 やはり、天使が……。


 さっき急に姿が見えなくなったのも、天使の仕業なら合点がいく。

 きっとあの”女”は、天使(あいつ)らに目を付けられ巻き込まれ、利用されているに違いねぇ。



 白い雪で視界が遮られる中、女を追った。


 川沿いを西に向って進み、大きなスタジアムの裏手で”女”は降ろされ、ある建物へ駆け込んでいった。拘束されている雰囲気はなかったが、その表情は恐怖で青ざめていた。


 そして、ここまで空を飛び女を運んだ”天使”の姿を確認することもできなかった。



 ”ホテル アンジェスタイル ベルシーヴィレッジ”


「ここに滞在してんのか?」


 気配を消し中へ入ろうとすると、


 バン!


「痛っ……」


 ここでも、結界に弾かれた。 

 だが、この結界は薄くて(もろ)そうだ。何度か攻撃すれば破れそうだな……魔力を込め思い切り拳を構えた。

 

 ザクッ!!!


「うっ……!」


 強烈な痛みが肩に走った。

 見ると、赤く燃える十字の矢が右肩に真上から垂直に突き刺さっていた。もう少しズレていたら、脳天を直撃していただろう。


「アスモデウス。そこで何をしている!」


 上方からの声に見上げると、白い鎧に身を包んだ真っ赤な翼の大天使ウリエルが、弓矢を構え俺に狙いを定めていた。

 


「ウリエル!? 貴様……!? さては、お前の仕業か!? この結界も」


「は!? この結界は人間が施したもの! 状況から察するに……あの黒髪の”娘”は、ミカエルが探していた”()()”か?」


 鋭い金色の瞳を輝かせ、ニヤリと口元を緩めた。


「ミカエル!? ミカエル(あいつ)絡みか!? ますます引くに引けねぇな。どんな理由があるか知らねぇが、あの”女”を泣かせる奴は、この俺が許さねぇ!」


 刺さった矢を引き抜くと、血が噴き出した。


「はぁ!? こっぴどく()()()()というのに執拗に付き纏うとは、なんとも下劣で醜い」


「まだフラれちゃいねぇよ、なんなんだ貴様!!!」


()()使()()()!」


 片目を閉じウィンクしながら、真っ赤に燃える十字の矢を放った。


「だから何だーーー!!!」 


 矢を魔力で跳ね除け、翼を広げ奴に飛びかかると、奴は弓を捨てそれをかわし、今度は腰に携えた剣を抜いた。剣は聖なる光を纏い、青白く輝いている。


()()()()()()? あっち (ノートルダム)の方でお仲間が苦戦しているようですが?」


 不敵な笑みを浮かべた。


 あの剣は、一太刀でも喰らうと下級悪魔は封印されたような状態になり、俺様クラスでもしばらく動けなくなるほど厄介な代物だ。しかも、いま俺は丸腰で負傷している。


 だが、天使どもの企みに巻き込まれているあの”女”を諦めることなどできない!


 どうする!?

 ここは一旦、手を引いたほうが賢明か……。



La défense(ラ デファンス)! lueur(ルュー) doreé(ドレー)!」


 ウリエルの声とともに、金色に輝く光に飲み込まれた。



「ぐわぁぁぁぁ!!!」


 光に弾かれ、通りの反対側の歩道まで飛ばされていた。



「ベルシー一帯に防御結界を張った。お前が、あの娘に近づくことはもう不可能だ! 立ち去るがよい! はーはっはっはっ!!!」


 ウリエルは、金色に輝く結界の中へと消えていった。

 



「クソっ……畜生!畜生!畜生!畜生!畜生!畜生!」

 

 悔しさで喚き散らすもどうにもならねぇ。



 雪が舞う中、アスファルトの歩道に寝転がり、”女”が入って行った宿を見上げた。

 窓灯りのどれかにあの”女”がいて、一人で不安に震える夜を過ごしている。


 想像しただけで胸の奥が苦しくなった。


 このままにしていたら、あの”女”は、天使どもにいいように利用されちまうだろう。

 天使から神のお告げを聞き、奴らのいいように踊らされた”ジャンヌ”のように……。


 この傷の痛みなんて、あの女の涙にくらべたら大したことねぇ!

 たとえこの身がウリエルの炎で燃え尽きようと、俺はあの”女”を天使どもから救い出す!



「待ってろ! こんな結界すぐに壊してやる!」 



 ***** *****


【パリ・ルーシー視点】

 ※旅行5日目。夜。パリフリータイム継続中。



 季節外れのパリの雪。



 ホテルの部屋に戻った私にべリアスは、ポン・ヌフと、ノートルダム寺院で()()()出来事を丁寧に説明してくれた。

  

 ”氷の魔女”がパリに来ていると知ったとき、この夢の世界と、現在私が生きている王国の出来事は何か繋がりのようなものがあると、考えずにはいられなかった。


 過去の私は、”季節外れの雪”による事故が原因で、命を落としたのだから。

 


「……だからルーシー。明日はこの部屋で()()、一日中()()()()()過ごすんだ」


 ベッドに寝転がったべリアスが、神妙な顔つきで言った。表情は真剣だが、なんだかエロく聞こえるのは気のせいだろうか。


「え!? ()()!」


「はあ!? あのミカエルに、()()()()()アスモデウスや氷の魔女がウロついてんだぞ!」


 寝転がっていたべリアスが飛び起き、ベッドサイドの小さなテーブルセットの椅子に座って聞いていた私を驚愕の目で見つめ返した。


「……この際だから、この世界でやりたかった事をしたいの」


「”この際”だと!? そんなのどうでもいい。とにかく私はお前のことが心配なんだ!」


「わかってる! でも、お願いべリアス! せっかく自由に動けるんだし、べリアスも一緒だから。だから…………ダメ?」


 懇願するようにべリアスの目を見つめた。そう、いわゆる上目遣いで。

 べリアスに、あからさまな色仕掛けみたいなことはしたくはなかったが、私にも引くには引けない理由がある。


「ぅっ……ぁ、ダメ?……って」


 べリアスは、目を赤く輝かせ嬉しそうにしたかと思えば、難しい表情に変わり、そしてまたニヤッと顔を崩し、かと思えばまた眉間に皺を寄せ、忙しなく葛藤しながら、


「ぅぅぅ………少しだけならかまわぬ」


 渋々承諾してくれた。


「やったー! べリアスありがとう! あーお腹空いた。じゃあ、お寿司食べに行こう!」


()()()? なんだそれは?」


「日本の郷土料理かな。ホテルの向かいに、ほら見えるでしょ。お寿司屋さん」


 ホテル3階の部屋の窓から、雪が舞う夜の街を見下ろした。

 ホテル前の道路を挟んだ向かい側に、”銀次の寿司”と書かれた青い文字の看板が光っている。夢ループ中、何度も行こうとしたが残念ながら叶わなかった。


「一度でいいから、あの店のお寿司を食べてみたかったんだ!」


「外!?」


「じゃあべリアス、行こう♪」


 べリアスの手を引き部屋から出てすぐ、あろうことか視界が暗くなり始めた。


「そんな!?」

「ルーシー! 暗転するぞ!」

「わかってる! べリアス、走って!」



 廊下を猛ダッシュするも、徐々に視界は真っ黒な闇に覆われた。



「いやぁぁぁぁぁ……



 (暗転)

 ***



 ……ぁぁぁ、()


 気づけば、翌朝。

 私は、ホテルの朝食会場 (レストラン)入り口に立っていた。


「お寿司食べたかった」


 でも、まだ今夜もある。

 諦めないぞ……と、再チャレンジを心に誓ったのだった。



「それにしても、どこにいるんだろう……べリアス」



 まさか、もう夢から目覚めちゃった?

 べリアスがいないと、この夢の中で自由に動き回れないのに。


 朝食を速攻食べ、心配しながら部屋に戻ると……。

 

 べリアスがベッドにうつぶせの状態で静かに眠っていた。

 窓から射し込む朝の光が眩しい。


 ひとまずホッとし、べリアスに毛布を掛け、その寝顔を覗きこんだ。


 相変わらず美しすぎる顔に、しばし見とれる。


「ほんと、彫刻みたい……」


 時間は7:30だから、まだ寝かせておいてあげようかな。

 その間に、今日の予定を一通り頭に入れた。



 ”やりたかった & 見たかった”を、()()()()()()詰め込んだ、


 『べリアスと巡る、パリ・スペシャルアートツアー!』 


 いよいよ、スタート!!!


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