143話 ロマンチックコース!
ここからトリップ編です!
【?????・べリアス視点】
※王暦1082年6月31日。(※この世界では6月が31日まである設定。)
バルベリスの頼みで、私はルーシーと”モルぺウスの化身”に飲み込まれた。
***
気が付くと、暗闇の中に立っていた。
ルーシーの”心の中”と言っていたが、なにも見えぬし、なにも聞こえぬ。
瀕死状態の”あの男”を目の当たりにしたルーシーの心中は、こんなにも暗く空虚だったとは……。
グシャッ、グシャッ、グシャッ、グシャッ、
ザッ、グシャッ、グシャッ、グシャッ、グシャッ、グシャッ、グシャッ、……
暗がりの中、ぬかるみを歩くような足音が次第に近づいてくるのと同時に、誰かの話し声が幽かに耳に届いた。
「ん!?」
その瞬間、目の前の視界が白く開けた。
目に映ったのは、薄っすら雪に覆われた森にそびえ立つ”白亜の城”だった。
天空を突く優美な二本の尖塔は貴婦人のように凛としていて、屋根の濃い青色はルーシーの深い青い瞳を想起させた。そして、どんよりとした曇の切れ間から幾筋も伸びた光が、降る雪にキラキラと反射し、城をいっそう壮麗に輝かせていた。
私はその絶景に、しばし言葉を失った。
アンフェール城とは比にならぬほど、美しい城だった。
ここは、どこだ?
アクアラグーン侵略の際に建てられた”氷の魔女の城”に若干似ているが、”氷”ではない。
だが、雪がある。
ここは……南の帝国”ジェダイド”なのか?
もしやルーシーは、過去にジェダイド帝国と何らかの関係があったのか!?
よくよく辺りを見渡すと、私が立っているのは小さな橋の上だった。
そこには顔に靄のかかった大勢の者たちが城を眺め、何か不思議な機械を構え覗き込む仕草をしている。不意に、私の近くにいた黒と赤と黄色の3色からなる旗を持った恰幅のいい女性が話し始めた。
「……このノイシュバンシュタイン城は、今から約150年前の西暦1869年にバイエルン王国第4代国王ルートヴィヒ2世の命で着工され……」
は!? 150年前? せいれき1869年? バイエルン王国って? ルートヴィヒ2世って誰?
現在のアレキサンドライト王国で通用している暦は、前フロライト王国で使用していた”王暦”をそのまま採用している。
約1000年前、悪魔を撃ち滅ぼし建国した人間(後の王族となる者)が作った暦だ。国政が不安定なノールやジェダイドでも、数百年前からこの年号が使われている。
今年は、王暦1082年。
せいれき1869年とは???
どこの地域のいつの時代なのだろうか?
***
混乱したまま場面は暗転し、次に目に飛び込んだのは城の内部”玉座の間”だった。
立ち並ぶ柱に見事な壁画、緻密な模様のモザイクの床が広がり、天上からは黄金をふんだんに使った煌びやかな装飾が施された大きなシャンデリアが吊るされていた。
絢爛豪華な造りだが、そこに玉座は無く、王の気配も無い。
ただガランとした何もない空間が広がっているだけだった。
他の部屋も同様、城で働く者たちなどの生活感など感じられない。
そして、どうやら先ほど橋の上にいた者達は、その内部を旗を持った女性の説明を聞きながら、ただ見て回っているようだった。
「おい。この国の王はどこにいるのだ?」
旗を持った女に尋ねたが、私の姿が見えないのか全く反応しない。表情も薄い靄のようなもので覆われよく見えない。
……そうか、ここはルーシーの心の中。
まずはルーシーを見つけなければ。
想定外の状況に当初の目的を忘れかけていた私は、辺りを注意深く観察し”赤い髪の女の子”を探しはじめた。
黒や茶色、金や白髪……赤い髪の女の子の姿はどこにもいない。
おかしい。
ルーシーがいない。
そうこうしているうちに、場面はまた暗転した。
***
今度は、大きな馬車のような乗り物の中にいた。
その乗り物には、既に20名以上が乗り込み出発を待っている様子だった。
私はその一番後ろの空いている座席に座った。先ほどの旗を持った女性がイライラした雰囲気で腕時計を見つめている。
「遅れてすみません!」
赤いマフラーに黒いコート姿の、短い黒髪の若い女が駆け込んで来た。
二十歳ぐらいだろうか……エキゾチックな大きな黒い瞳が印象的で、寒さで仄かに赤らんだ頬や唇からは、なんとも堪らないゾクゾクするような色気が零れていた。
他の者たちの顔は靄がかかったように見えていたが、この女の顔ははっきりと見える。
その若い女は旗を持った女性に謝罪し、申し訳なさそうに周囲に何度も頭を下げながらそそくさとこちらにやってきた。
不思議とその女から目が離すことができない。
ルーシーの心の中で遭遇した女に現を抜かすとは……我ながら邪で最低な悪魔だと考えるも、本能には逆らえなかった。
目で追い続けた結果、その若い女と目が合った。
だが目が合ったところで、ここはルーシーの心の中。私の存在に気付く者などいない。
「「あ」」
若い女と私はほぼ同時に声を発し、しばし見つめ合った。
よく見ると潤んだ瞳は赤く充血し、頬には涙の跡が残っている。
この女……泣いていたのか? 男にでも振られたのか?
ドクンと胸が高鳴り、湧き上がる喜びでゾクリと身震いした。
「……べリアス!?」
その女は黒い目を大きく見開き、突然私の名を口にした。
「え!?」
「なんで!? なんでべリアスがここにいるの!?」
その女は、肩よりも短い髪を揺らし、嬉しそうに微笑み私の左隣にサッと腰を下ろした。
女が座ると同時に乗り物は動き出し、雪が残る山道を走り始めた。
私を”べリアス”と呼ぶ口調は、ルーシーそのもの。そして、このゾクゾクする感覚。
「まさか……ルーシーなのか?」
「うん! ……あっ、そっか。ごめんなさい。べリアスはこの姿知らなくて当然だよね。で、そのかっこう、寒くないですか?」
そういえば、ここは雪が降るほど寒い地域。白いブラウスに黒のスラックス、その上から薄手のマントを羽織っているだけの私の服装を、どうやらルーシー(と名のる女性)が心配してくれているらしい。
「平気だ。私の本体はアンフェールある。全く寒くはない」
「それなら、よかった」
女は嬉しそうに屈託なく微笑んだ。
口調はルーシーそのままだが、妙に大人っぽい姿に戸惑うばかりだ。
「それで、その姿は何なのだ?」
「前世の私」
「前世!? ……で、この乗り物は?」
”前世”という言葉も信じられぬが、先ほどの城といい、この乗り物についても……聞きたいことが山ほどある。
「バス」
「バス? ここはどこだ? さっきの城は? どこに向っている? なぜ前世の姿なんだ?」
矢継ぎ早の質問に、ルーシー(と名のる女性)は困った様子で微笑み、私の手を取った。
「その前に答えて。どうして私の夢の中にべリアスがいるの?」
「夢!?」
急に周囲の音が歪み、握られた手の感触も消え、周囲は暗転した。
***
次に気が付いたときには、すっかり陽が落ち辺りは薄暗くなっていた。
私は先ほどと同様”バス”という乗り物に揺られ、隣にはルーシー(と名のる女性)が座り、窓の外の風景をぼんやりと見つめていた。
ルーシー(と名のる女性)の肩越しに外を見ると、王都カルカソに似た城壁で囲まれた町が見えてきた。
石でできた城門を潜り抜けると、町中は昼のように明るく、石造りの建物の他に、木枠に囲まれた美しいカラフルな家や店が立ち並んでいた。大勢の人々が行き交い、食事や酒を飲んだり談笑したり、皆思い思いに夜の街を楽しんでいる。
ここは歓楽街のような場所なのか?
「ここはどこだ?」
ルーシー(と名のる女性)に尋ねると、
「ローテンブルク。”宝石”のように美しい、って言われている街だよ」
「”宝石”……確かに、美しいな」
愛らしい時計台の隣に建てられた美しい切妻屋根の建物の前で、ルーシーたちは”バス”という乗り物から降り、その中へと入って行った。
ここはレストランか?
建物を見上げ、看板に描かれた文字に目を凝らした。
”ホテル・ロマンチック”
ホテル……ロマンチックだと!?
***
温かみのある木造りでこじんまりとしたホテルのロビーで、ルーシー(と名のる女性)は旗を持った女性からカードを受け取り、一人で荷物を引き壁に向って歩きだしていた。
その後をついて行くと、目の前の壁が不意に横にスライドして開き、小さな四角い部屋が現れた。ルーシーがその部屋へ躊躇なく足を踏み入れる。
まさか!? これ部屋じゃないよね?
ロマンチックって、ここじゃ”狭い”って意味なの!?
慌てて一緒にその部屋に入り込むと、ルーシー(と名のる女性)はフッと口元を緩めた。
「……で、どうして私の夢の中にべリアスがいるの?」
また、先ほどと同じ質問。
私はこの”狭い部屋”について聞きたいのだが……。
「……アクアラグーンの妖精王の第一王子の件だ。お前があれから5日も経つのに目覚めぬから、迎えに来た」
それを聞いたルーシー(と名のる女性)は、ハッと荷物を床に落とし、私に詰め寄った。
「サミュエル副隊長は!? サミュエル副隊長は無事なんですか!?」
真っ先にあの”男”の事を聞いてくるとは……実に、忌々しい。
そして確信した。
やはりこの女は”ルーシー”だ!
「安心しろピンピンしている。今は、ロドスの実家で療養中だ」
「本当に?」
私を見上げる潤んだ黒い瞳と艶やかな唇に、ゴクリとつばを飲み込んだ。
「私を信じろ。約束は絶対だ。あいつが死んだら、契約不履行で私も死ぬからな」
まあ、”死ぬ”といっても私の場合は100年ほど動けなくなるだけだが、これは黙っておこう。
「え、そうだったの!?」
チン!
小気味良い音がし、扉が開いた。
ルーシーはサッと私から離れ、荷物を持ち直し廊下へ向かってスタスタと歩き出した。
さっきのは、部屋じゃなかったのか。
ホッとしながらルーシーの後を追うと、カードと同じ番号の部屋へ入って行った。
不思議なことにそのカードは、部屋のキーになっているという。変わった世界だ。
部屋の中は思いのほか広く、蠟燭の炎のような柔らかなオレンジ色の灯りに包まれていた。
エレガントな白い寝具で統一された天蓋付きの大きなベッド。濃い茶色の小さなテーブルセットに書き物用のデスク。奥には白いタイル張りのバスルームが見えた。二人用の部屋に見えるが、ルーシーはここに一人で宿泊するのか?
まさか!?
部屋に着いたルーシーは、厚いコートを脱ぎハンガーにかけると、身体のラインが見える黒いニットのワンピース姿になり、ブーツも脱がずに両手を広げ枕が二つ並んだベッドへ仰向けに寝転がった。
「あーーーっ、疲れたーーー」
こっ、これは……ルーシーが私を誘っている!?
「ル、ルーーーシーーー!!!」
ロマンチックコース!!!
チャンスとばかりに襲いかかると、ルーシーはもの凄い速さで私の頬を引っ叩たいた。
パチン!
「何してんの!」
「うっ!? ……痛くない。が、心が痛い」
「それに、部屋まで入ってこないでよ!」
ルーシーは私の腕からすり抜け起き上がり、怒りで頬を膨らませた。
怒った表情も魅力的だ。
だが、夢の中とはいえ、ルーシーに嫌われるのだけは絶対に避けたい。
「ぅ……悪かった。だが、いろいろ聞きたいことがある。ルーシーここは何なんだ?」
「だったら約束して。変な事しないって」
「や、約束する。だから教えてくれ」
ベッドに座るルーシーの前に跪き、そっとその右手を取った。
あれ!?
指輪がない!?
私との”愛の証”の指輪は!?
「ルーシー指輪は?」
「あっ、これ前世の私だから」
「そうか……ならば、今ここでもう一度、私と契約をしよう。チュ……」
握った手の甲にキスをした……が、おかしい。
皮膚と皮膚の間に目に見えぬ薄い膜のようなものがある感じがする。
握った手の感触もどこか冷たい。
この違和感に首をかしげていると、ルーシーは溜息をつき深刻な表情で、先ほど叩いた私の頬を優しく撫でた。思わず声が出た。
「はぅ!」
「ウフフッ、べリアス。……ごめんね。契約はできない。それに私、この夢の中で死ぬの」
「死ぬ!?」
「この旅行の最終日、事故で」
「事故? 本当なのか?」
コクリと頷いたルーシーの顔は強張り、伏せられた瞳にかかる黒く長いまつ毛は小刻みに震えていた。
短い髪に、華奢な肩、胸から腰にかけての緩やかで艶めかしい線。
ルーシーのあまりにも色っぽい姿に、胸の奥から熱く燃えるような感情が沸き立った。
こらえきれずその頬に触れようと、手を伸ばし顔を近づけた。
「私を誰だと思っている。ルーシー……お前を助ける事ぐらい「助けなくていいの!」
ルーシーは、頬に触れようとした私の手をサッと払いのけた。
「は?」
「死なないと夢から覚めないから。だからべリアス、辛くても私を助けないで。約束して!」
「……なんで? どうして? さっぱり分からん?」
今度は肩に触れようとした手を、パシッと払った。
ルーシーは立ち上がり、私の手を取って椅子から立ち上がらせドアの方へ歩き出した。
「べリアスは、私を”この夢”から起こしに来たんでしょ? だったら助けないで。お願い。じゃあ、シャワー浴びるから出てって」
「え!? シャワー♪」
シャワーと聞き興奮し、嬉しさで頬が緩んだ。
とたん、場面は暗転した。
***
ピカッ
眩しい光に目を細める。
「あれっ、シャワーは!?」
気がつけば私は、ホテルの外に立っていた。
空は快晴。温かな陽ざしに石畳に積もった雪が解け湯気が上がっている。
「ルーシーは?」
辺りを見渡すと、ホテルから少し離れた場所に”バス”という乗り物が停まっていた。
昨日旗を持っていた女性が”バス”の乗車口の前に立ち、数名がバスに乗り込んでいく様子が見えた。
「あ! 待て!」
慌ててバスに乗り込むと、一番後ろの座席でルーシーが笑顔で私に小さく手を振った。
「おはよう、べリアス!」
大人の旅。
三日目スタート!
*****
※ざっくりとした旅行の日程。
☆ドイツロマンチック街道とパリ8日間☆
①日本→(パリ乗り継ぎ)ミュンヘン着。(ミュンヘン泊)
②ノイシュバンシュタイン城、リンダーホープ城観光(バス移動→ローテンブルグ泊)
③ローテンブルグ観光。フランクフルト観光。(バス移動→フランクフルト2連泊)
④ライン川クルーズ。
⑤ICE(ドイツ国鉄の新幹線)フランクフルト→パリ着。パリ市内観光。(パリ2連泊)
⑥パリフリー。
⑦パリ→直行便で日本へ。!☆この日に事故に遭う!
⑧→日本着。




