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125話 ありったけの幸せを…

【ホテルロイヤルラグーン・ルーシー視点】

 ※合宿終了まであと14日。


 ロイヤルラグーン最上階、ラグジュアリースウィートルームのダイニングには席が4つ用意されていた。


 すでに上座にはイフリート殿下、殿下の斜め左には妖精王様が着席していて。その向かい側に残る2席が用意されている。


 「ルーシー様、こちらへ」


 私はスチュワート様に案内されイフリート殿下の斜め右側、妖精王様の向かい側の席に着いた。

 隣の席は陛下? スチュワート様? と考える間もなく、


「オスカー様、こちらへどうぞ」


「「ええっ!?」」(ルーシー&オスカー)


 私の隣に困惑した表情のオスカー兄さんがガタガタと座った。

 大丈夫かな……。兄さんは膝の上で拳を握りしめ深く息をし、気持ちをどうにかして落ち着けているように見えた。



「ルーシー、お前に嬉しい報告がある」


 イフリート殿下の言葉に、前菜を運んできたスチュワート様がピクリと表情を変えた。


「どうした? スチュワートに何か言われたのか?」


 殿下が私の表情の変化に気付き優しく聞いてきた。


「いえ」


「そうか、ならいい。クックックック…ルーシー、聞いて驚くなよ」


 殿下めちゃくちゃ勿体ぶってる。

 それになんか凄く楽しそう、まさかもう”結婚”の話じゃないよね。


「イフリート! 俺から言おうか?」


 妖精王様が食前酒をグッと飲み干し、ニヤッと笑い私にねっとりとした視線を浴びせる。金色の瞳がギラギラ輝いている。

 


「いや我が発表する! ルーシー、()()()()()()()()()()()!」



 やっぱり”結婚”だったーーー!

 心の底から嬉しそうな殿下と、妖精王様はニヤニヤとなにか裏がありそうな含み笑いをしている。


 本当だったら私も”城主になれる!”と手放しで喜びたいところだけど、王国の未来のため、”結婚”だけは()()()()()しなければならない。



「あのっ、そのことなんですが。……(大声)()()()()()()!」


 カシャン!

 思いっきり頭を下げると、テーブルの上の前菜”エビとトマトのジュレ添え”のお皿に頭がついた。


「おお! どうした? ルーシー、顔をあげよ」


 殿下が驚きの声を発し、私の肩に優しく触れた。


()()()()()()!」


 とにかく、もう一度大声で謝った。



「”ごめん”ではわからぬ。ルーシー説明しろ」


 妖精王様が太い声で仰った。

 

 私は考えていた。

 この二人に、どのように説明をすれば理解してもらえるのだろうかと……。


 ゆっくりと顔を上げ、妖精王様とそして殿下に顔を向けた。



「あのっ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


 もう一度深く頭を下げた。


「「()()!?」」(イフリート&妖精王)


 怒号とともにその場がしんと静まり返った。

 目を閉じ下を向き彼らの返答を待つ私に、イフリート殿下と妖精王様の荒い息遣いだけが耳に届いた。



「……なにか、あったのか?」


 しばらくして、低く太いが優しい声でイフリート殿下が私に尋ねた。


 父親として娘の結婚話を進めたい殿下の気持ちもわかる。妖精王様の気持ち(子孫繁栄とか)もなんとなくだがわかる。


 だけど、ここで私が”結婚”を選んだらとんでもない事態につながる……。


 それに”お父様の娘でいたい”とか”愛を育みたい”とか生っちょろい説得なんかじゃ、この二人は納得なんてしてくれそうもないことも薄々感じていた。


 ここで私は、現在王国が置かれている状況と、”王国の勇者”としての自分の考えをきちんと伝えなければならない!


 大きく深呼吸し腹に力を入れ、声を張り上げた。


()()! ()()()()()()()! ()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


「前置きなどいらん、さっさと申せ!」


 明らかに憤慨した妖精王様がいぶかし気な顔で私に言った。

 イフリート殿下は驚きの表情で私を見つめ、黙って頷いた。


「はい。では、申し上げます。(深呼吸)私は”()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ルーシー……お前」隣にいたオスカー兄さんの呟きが聞こえた。


「王国の勇者である私が、あの魔女を倒さぬまま結婚したならば王国内の反発はもとより、同盟を結んだノール帝国との関係にひびが入るのは必至です。それに……」


「王国内の反発など俺とイフリートですぐに鎮圧してやる」


 妖精王様が金色の瞳をギラつかせながら私に微笑んだ。

 だからそれがヤバいんだって!と突っ込みたい。


 イフリート殿下は真顔で燃えるような瞳を更に輝かせ、私の目を凝視している。


 息が詰まりそうなほど怖い。けど、本当のことを言わないと理解してもらえない。

 大きく深呼吸した。


「……ですが……今、()()()()()()()()()()()()()()()()()()! 氷の魔女は王国内の不和に乗じて()()()()()()()()()()()()()()! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 息苦しさで胸に手を当て、肩で息をしながらどうにか顔を上げ殿下を見据えた。



「……15年前の悲劇をお忘れですか?」



 殿下と妖精王様はビクリと身体を震わせ、その瞳に悲しみの色を浮かべた。



「私はあの”()()”を()()()()()()()()()()()()()()()


 (深呼吸し、殿下とべリアスから聞いた戦争の話を思い浮かべた)


 …豊かで美しい王国を氷で覆い、国の未来を担う赤子や多くの大切な人命が理不尽に奪われ、15年経った今でも心に傷を負い立ち上がれぬ者もいると聞きます。


 私はあらゆる種族が平等で平和に暮らせる国”アレキサンドライト王国の勇者”として、この王国を絶望の淵に追い込んだ”氷の魔女”を撃ち滅ぼすまでは自身の幸せなど、ましてや”結婚”などありえないと考えております。


 ……”氷の魔女”を倒した暁には、結婚は()()いたします。父上の跡を継ぎ()()にもなります。子どもも産めるだけ産みます。ですので、どうか、どうか、()()()()()待ってもらえないでしょうか?」



 言った。

 怖かったけど、泣かずに言えた。 



 ダイニングは静まり返り、それから低い嗚咽が響いた。


「ズッ……ルイーズ」


 イフリート殿下が泣き崩れた。


「ティターニア……ア…リエル……ジュリエッ…ト……」


 エメラルドグリーンの髪から青い花をポロポロとこぼしながら妖精王様は、さめざめと頬を濡らし、給仕をしていたアリンさんは「うわぁぁぁぁ!!!」と大声を上げ部屋から出て行った。スチュワート様は、悲しげではあったが少しホッとしたような面持ちでこちらを見つめ深く頷いてくれた。


 隣に座る兄さんは震えていた私の手を力強く握り、優しいグレーの瞳で小さく微笑んだ。

 その笑顔と汗ばんだ手の温かさに堪えていた気持ちが緩み、鼻の奥がツンとした。


 

「ズッ……ルーシー、お前は本当に……ルイーズのようだ……ルイーズ、ルイーズ……ううっ……」


 何度も(産みの)母の名前を呼び涙を流す殿下は、沈痛な面持ちで私を見つめ問いかけた。

 

「打倒”氷の魔女”。ルーシー、それがお前の望みか?」


「はい。父上!」


 頷いた拍子に涙が零れたが、構わず胸に拳を当て敬礼した。

 

「っ…その仕草もルイーズ…にっ…そこまで似るとはな……。お前が………この王国を想い、そのような覚悟をしていたとは……。すまなかった」



 涙で身を震わせていた妖精王がナフキンで顔を拭き、長い髪から濃いピンクの薔薇を次々に咲き散らせゆっくりと立ち上がった。

 妖精王様は髪から咲かせた大輪の濃いピンクの薔薇を一輪、私にそっと差し出した。

 それを受け取ると、穏やかな眼差しで微笑んだ。


「結婚は先になるが、これからは愛し合うお前たちを俺様が全面的にサポートしてやる。安心しろ、なあイフリート」


 サポートとは? 

 聞き返すのが怖い……深く考えないでおこう。 


「ああ、フィン。ルーシーと王子の結婚はあの魔女を倒してから盛大に催そうじゃないか!!!」


「そうだな、イフリート!ワハハハハハハハハハ!!!」

「「クッハハハハハハハハハハハハハ!!!」」(イフリート&妖精王)



 殿下と妖精王様がバリトンボイスで高らかに笑う姿に、兄さんとスチュワート様は顔を見合わせホッとした表情で頷き合っていた。




 +++

 (ルーシー妄想中)


 無事に結婚は回避できた。


 だが私の心は大いにざわついていた。


 《”氷の魔女”を倒したら結婚(=戦争が終わったら結婚)。

 ……これはゲームやアニメだけではない、ドラマや映画、舞台、小説、ポエム、コント……ありとあらゆる分野における共通の”結婚フラグ”》


 主人公が”最初は不遇”であるならば、ハッピーエンドの確立も高い。

 そうでない場合は、十中八九ドカーーーン!と()られる。バッサリと切り捨てられる。もはや作者の悪意すら感じるくらい。笑いのネタにさえなっている。



 私ってどっちなんだろうか。そんなに不幸だと思ったことはなかったし、体力も容姿もそこそこ恵まれていて、友達もいるし生活環境も悪くない。


 で、王子と結婚。

 

 ズドーーーーン!


 +城。


 !!!ドッカーーーーン!!!


 (ルーシー妄想終わり)

 +++


 イヤな思考を振り払い夢中でランチを食べ終えた。

 美味しいものを食べていると不思議と不安は小さくなり、漠然とだが”王国の勇者”としてのやる気が漲るのを感じた。



 その後、予定には含まれていなかったが、スチュワート様を交えお茶を飲みながら式典の次第や余興の話し合いが行われた。


 そこで妖精王様が第一王子の話を始めた。


「イフリート、頼みがある。その式典でうちの第一王子を”我が跡継ぎ”として紹介したい」


「おお、……あの氷の魔女から皆を守っていた勇敢な少年王子だな」


 勇敢!? ”気狂い王子”じゃないの!?

 噂とは違う王子の話に興味津々で耳を傾けた。


「勇敢、だったが……あの戦いで少し心を痛めてしまってな、しばらく引きこもっていたんだが。今朝、スチュワートから連絡を受けて顔を出してみたら、見違えるほど元気になっておって”式典に参加する”と言ってきた」


 嬉しそうな表情の妖精王様の髪から白い星型の花がポンポン咲き落ちた。

 わ! 感情で花を咲かせるレグルスちゃんみたい!


「そうか、それは良かった」


「ああ、”勇者ルーシーに会うのを楽しみにしている”と笑っておったぞ!」


「えっ!? そうなんですか! あの今朝の赤い花は、その第一王子の……」


 ”妖精王の第一王子が私に会うのを楽しみにしている”と聞いた私は驚き、話を振られついでにあの赤い花畑の事を尋ねてみた。


「ああそうだ、魔力を使い過ぎて疲れたと愚痴っておった。スチュワート、案ずるなあいつは”アークトゥルスに少し悪戯しただけだ”と言っていたぞ」


「さようでございますか」


 妖精王様の隣の席でスチュワート様が、眼鏡の奥の瞳をキッと光らせた。

 

「ああ。フッ、あいつは誰に似たのか愛情表現が下手で……。イフリート、どこでも構わん。跡継ぎ発表の件プログラムに入れておいてくれないか」



 あの花畑は”悪戯しただけ”。それに”愛情表現が下手”……妖精王の第一王子は噂で聞くほど危険な人物ではないのかもしれないと思った。



「よし。それも大事な発表だから、婚約発表の後に入れておこう」


 大まかな式典の次第が書かれた紙に、楽しそうに殿下がペンを走らせていた。

 もしかしてこれは、殿()()()()()()()()()()()()()なのだと、私はここで初めて知った。



 スチュワート様が”娘になるのを辞める”のを猛反対した理由がようやく分かった。


 +++


 式次第の話し合いは順調に進んでいくかに思われた。


 乾杯後の来賓挨拶の欄に書かれた名前に、私とオスカー兄さんは目を疑った。


 来賓挨拶

 ・ノール帝国第一王子アレクセイ殿

 ・天使族長ミカエル・キング殿

 ・イナリ国タキムネ殿

 ・勇者ルーシー養父・()()殿



 父さん(テオドール)来るの!?



「イフリート、”テオ”ではない。”テオドール”だ間違えるな」


 妖精王様がまさかの”父の本名”を口走った。

 私と兄さんは息が止まった。



「そうなのかオスカー?」


「え、……はっ、はい」焦って答えるオスカー兄さん。


「イフリート、テオドールはもっと上の方だこいつは「()()()()()()()()()()()!!!」


 妖精王様の言葉を遮るように、オスカー兄さんが大きく咳き込んだ。


「どうしたオスカー!? 大丈夫か?」


 イフリート殿下が突然咳き込んだ兄さんを心配し尋ねると。


「その申し訳にくいのですが、只今父は仕事で腰を痛めておりまして式典には参加できないかもしれないと……」

  

 あの丈夫な父さんが!? 

 兄さんの顔を見てみると下唇を噛み、目が泳いでいた。


「そうなのか!? 会うのを楽しみにしておったのに!」


 妖精王様が至極残念そうな表情で仰った。


「どうにかならぬのかオスカー? ルーシーを立派に育てていただいた恩もある。直接礼を述べたいと考えておるのだが……」殿下が穏やかな声で問いかけた。

 

「その父は、腰の調子があまり良くなくて……申し訳ございません」

 

 オスカー兄さんが頭を下げた。

 兄さんの様子からして父さん(テオドール)が腰を痛めたのは()だろう。でも、ここは駆け落ちした夫婦の子どもとして育てられた運命共同体、私は迷わず兄さんの味方をする。


「私からもお詫び申し上げます」


「そうか…なら仕方あるまい。あとで個人的に訪ねるとしよう。オスカー、父上には”お会いして礼を言いたかった。とにかく今は大事に療養なされよ”と伝えてくれ」


「はっ!」椅子から飛び上がるように立ち、ビシッと胸に手を当て敬礼した。


「クックックッ、オスカー、そのような堅苦しい返事はせずともよい」


 殿下の笑顔に私たちはホッと胸を撫でおろした。 





「それで、リラは来ぬのか?」



 妖精王様の言葉に私と兄さんは再度凍り付いた。


 なんで、妖精王様は母さん(リラ)の事も知っているの!?


 も、もしかして、……世間を賑わすほどの絶世の美女の母 (リラ)と駆け落ちした件って、()()は、超有名な事件だった!? 父 (テオドール)は、妖精族の間では、美しいリラをたぶらかし略奪した大犯罪者”A級戦犯”として扱われていたのかもしれない!

 かもじゃない、()()()()()()()()()

 だから、コソコソ山奥で隠れるように暮らしていたのか……。


「は、はい、母も父の看病で……」兄さんは必死に平静を装いながら返答した。


「そうか……残念だな。前に会ったときに、アークトゥルスの事をいろいろ聞かれて」


「「前に会った!?」」(オスカー&ルーシー)ハモった…。


「ああ、相変わらず美しくて口説きかけた」


 妖精王様は、髪から今度は薄紫色の花を咲かせ、その一つを手に取りうっとりとした表情で香りを愉しみフフフと笑った。


 状況が全くつかめない。顔を見合わせた兄さんも困惑の表情を浮かべ首をかしげるばかり。

 ああっ、とにかくここは話題を変えないと身が持たない。


「あ……あれー、アレクセイ王子もいらっしゃるのですね」


 とりあえずリストにあった王子の名前を見つけ殿下に尋ねると、


「ああ、先日我が城へ立ち寄った際に、是非招待してくれと頼まれてな。そうだ、喜べ。ルイーズの出身地や、お前の……実の父親について調査していると聞いたぞ」

 

 ”実の父”という言葉に、殿下は瞳に憂いを漂わせた。


 母 (ルイーズ)の元夫をよく思えない気持ちもわかる。だが”実の父親”の名前やどんな人物だったのか知りたいという想いもあった。


 でも、母 (ルイーズ)をとても愛していた殿下の手前、まだ心にしまっておこう。


「そうですか」


 素っ気なく返事をした。

 そんな私に殿下はムッとした顔で仰った。


「ルーシー、素直に喜べ。我に遠慮する必要はない。

 王子は調査が済み次第、国王へ文書を送ると言っていたぞ。

 ルイーズが愛しておったのが、どのような男か楽しみだな。クックックッ……」


 その満面の笑みに、一気に力が抜けた。


 器が違う!


 母 (ルイーズ)の、その元夫のことまで受け入れるイフリート殿下の愛に溢れる寛大さに、胸に熱いものが込み上げた。


「ズッ…………ゔん」


「…おお、どうしよう、ルーシー泣くでない……ああっ……」 




 母ルイーズがイフリート殿下と再婚を決意した気持ちが、いまなら理解できる。


 結婚も、城主も、私からべリアスを引き離すことも、一見暴虐武人に思える行動も、全て私の幸福な未来を考えての行動と捉えると納得がいく。15年ぶりに再会できた娘に、とにかく殿下は父親としてありったけの幸せを与えたいだけなのだ。

 ……娘になるの辞めるとか、説得なんて面倒くさいとか、封印するとか言っていた自分が嫌になる。





 だから思う。

 勇者になんてならなければ、どれだけ幸せだったろうかと……。



+++++

お付き合いいただきありがとうございますm(__)m


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これからもお付き合いいただけましたら嬉しいです!


※ブクマ★いただけましたら励みになります!応援よろしくお願いしますm(__)m

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※2021/11/11 訂正しました。


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