表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

126/300

126話 黄昏アンバランス勇者

【ロイヤルラグーンプライベートアイランド・べリアス視点】


 午前中の公務を終え、アクアラグーンへ戻りすぐにでもルーシーに会いに行こうとしたところ、スチュワートに止められた。


「陛下。ここはどうか堪えてください。これ以上余計な波風を立たせないためです!」


「は!? 結婚を断って。ルーシーと愛を語り合いながらのランチタイムだぞ! 国王が”王国の勇者”に会って何が悪い!?」


「最悪です」

「え!? そこまで言う!?」


「はい。とにかくイフリート殿下は、陛下がルーシー様の傍に居らっしゃることが気に入らないと仰っております。ここはひとまず、私とルーシー様でなんとかいたしますので、陛下はこちらでお待ちください」


 スチュワートに説得され、ルーシーを待つ間プライベートアイランドコテージのリビングルームにあるダークブラウンの3人掛けの皮張りのソファーに寝ころんだ。


 ルーシーは大丈夫だろうか……。


 あの王子と”正式に婚約を発表する”と話をしたとき、僅かにだったが頬を赤らめ嬉しそうな顔をしていた。しかも、結婚の日取りまで決まったと言ったらどんな反応をするのか……恐ろしくて口に出すことも憚られた。私との関係を築く前に結婚など……。 


 スチュワートはルーシーに事情を話し、結婚は絶対回避の方向で協議すると言っていたが、不安しかない!

 

 あのイフリートと妖精王が相手だぞ! 

 

 あの愛しいルーシーが、汚れた大人たちにいいように言いくるめられ、結局結婚を承諾してしまわないか。結婚のためアンフェール城の騎士を辞めカース城へ行ってしまわないか。妖精王に裸で迫られセクハラされたりしていないか。正式に婚約したのを機にあの王子が可愛いルーシーに手を付けるのではないか……。様々な不吉な考えが次々と脳裏を過っていった。


 不安で押しつぶされそうになっていると、扉口に立ち控えていたノエルが目に入った。ルーシーはノエルを母のように慕っている。ノエルならルーシーが私の事をどのように見ているのか知っているのかもしれない!? 恋愛には、近しい第三者の意見も重要だ!


「ノエル。ちょっと、質問がある」


 起き上がりノエルに手招きした。


「はい」


 音もなくスッと私のところまでやってきたノエルは小さく一礼した。一つにまとめた黒髪に、緑の瞳。一見悪魔族に見えるが、妖精族のアラフォーの美魔女。しかも、仕事が丁寧で迅速。いわゆる”できるメイド”だ! 



「お前の意見を聞きたい。……ルーシーは、私の事をどう思っているのだろうか?」


「え!?……と、国王としてですか? それとも……」


 問いかけに驚き、返答に迷っているかのように首を傾げた。


「どっちもだ。お前から見たままでいい、正直に答えろ」


「そうですね……視線や声のトーン、表情から判断いたしますと、ルーシー様は初めの頃に比べましたら、だいぶ陛下を信頼なさっているように見受けられます」


 確かノエルは元宮廷画家の娘。観察眼は一般人より優れている筈なのだが、説明がいまいち大雑把過ぎる。もしや、広範的な意味での印象なのかもしれぬ。さすができるメイド、当たり障りのない言い方をするのが上手いな。


「信頼とは?」

「信じたり、頼ったりすることです」


 簡潔過ぎる。これはもっと限定的に質問しなければ。


「そんなんじゃなくて、もっとこう、()()()な感じはないのかなーって」


「恋愛……あ、陛下の美しさに見とれているのを何度か目撃したことはございます」


「そーだろ、そーだろっ! で、ルーシーは、私をだな、あっ…”愛してる”とか言ってなかったか?」


「フフッ陛下、ご冗談を。ルーシー様はまだ15歳です。聞けば恋愛経験もあまりないと仰っておりました。”王国の勇者”としてやることが多くてそれどころじゃない、と笑っておられました」


 ”冗談”とか、このメイド……。

 それもこれもルーシーが”勇者”になってしまったのが間違いだったんだ!


「”勇者”か……よりによって勇者なんかに………」


「フフフフッ」ノエルが口に手を当て目を細めた。


「なにがおかしい?」


 もしや、思い悩むこの私を()()()()()いるのか!? 王宮から締め出してやろうか!



「ルーシー様も、同じようなことを仰られておりましたので、おかしくてつい」


「え…」

 

 ルーシーも、私と同じことを言っていた?!

 荒んでいた心に火が灯り温かい光が私を包み込んでいく感覚を覚えた。


「これが相思相愛か……」


「フフフっ、本当に陛下は楽しいかたですね」


 コンコン……ノックする音にノエルは扉へ向かった。

 扉口でイケメン近衛騎士クリスがなにかゴショゴショ話をしドアを閉めた。

 戻ってきたノエルに要件を聞くと。



「先ほどスチュワート様からご連絡があり、こちらへいらっしゃるのが少々遅れますとのことです。ルーシー様はランチの後、式典の次第についてのお話し合いにも参加されており、どうかご了承下さいと…」

「えええっ!」

「ですが陛下。例の件は、問題なく解決いたしましたと報告がございました」

「例の件?」

「はい。ご安心下さいとのことです」


「安心?」


 結婚は回避できたのか?


「はい」


 ノエルは私の心の呟きが聞こえているかのように言葉を返し、瞳の奥を探るように微笑んだ。


 アンフェール城のメイド長”ノエル”は前王国時代から城にいた優秀なメイド、とスチュワートから聞いている。このメイド、私やルーシー、そしてこの王国の状況についてどこまで理解しているのだろうか?


 だが、あの目つき……も、もしかして、私の事を密かに慕って!?

 ああっ、だが私にはルーシーが!!! モテる男はつらいなー! 美しいって罪ーーっ!


 下手に期待をさせてしまっては酷というものだ、距離を取らねば。

 


「そうか…もう下がってもよいぞ。あ、少し寝るからルーシーが来たら起こしてくれ」


「畏まりました」


 ”ルーシーの結婚回避”

 直近の懸念事項の()()()()の決着に、私は安堵した。


 そういえば、昨夜から心配で一睡もできなかった。

 張りつめていた気持ちが一気に緩み、身体をソファーに横たえると瞼が重くなりそのまま意識は深い眠りへ誘われていった。


 +++++

(※4時間後)


 ほどなくして目が覚めると、コテージの大きなガラス張りの窓が黄昏色に染まっていた。

 身体には肌触りのいいダークブラウンのブランケットが掛けられ、口からは涎が垂れていた。


 「はれ(あれ)?…」


 何時間も、私は寝ていたのか!? 

 ルーシーは???


 徐々に鮮明になっていく視界の先に……。


 夕刻の光の中、斜め向かいの一人掛けのソファーに座るルーシーの赤い髪が見えた。

 大きめに作られたソファーに沈み込むルーシーは、目を閉じ上を向いた状態で静かに呼吸していた。スー……スー……と寝息よのうな息遣いが幽かに聞こえる。


 もしや、眠っている!?


 こ、これはチャンスでは!?


 横になりながら周囲に意識を集中させた。

 部屋の中にはスチュワートと、オスカーの気配はない。

 ノエルは……。あいつは気配を消すのが上手いからな……。

 静かに起き上がりキョロキョロと辺りを見渡した。姿は見えない。


 よしっ! 

 そーっとだぞ。

 立ち上がり、水色の隊服を着たルーシーが眠るソファーに近づき顔を覗き込んだ。



「(小声)おおっ!!!」



 思わず感嘆の声が漏れた。

 僅かに赤みを帯び閉じられた瞼にきらめく長いまつ毛。幼さが残る頬から顎の曲線美。白い肌は夕焼けでほんのりとオレンジ色に染まり、柔らかそうなその唇は私に奪ってくれと言わんばかりに赤く艶めいていた。


 キスできそう!!!

 

 

 爆発しそうなほどに高鳴る感情を押し殺し、そーっと顔を近づけた。


 もう少しだ……、


 パサリ…と肩から落ちた自分の髪がルーシーの頬に当たり、ルーシーの瞼がゆっくりと開いた。



「あ…」(べリアス)



 深い青い瞳に見つめられ、捕らわれたように私はその眼差しの美しい深淵に息を飲んだ。


 たぶん数秒。

 でも体感的にはもっと長い時間に思えた。



「べリアス、どうしたの?」


 ルーシーの声にハッと我に返り、説明のつかない胸のざわつきでチャンスをものにできなかった自身の不可解さに戸惑った。


 なんなのだ、いまの感じは!!?

 目をぱちくりさせその原因たるものを探るべく、再びルーシー瞳を覗き込もうとしたそのとき。



()()!!! ()()()()()()!!!」


 部屋に戻ってきたスチュワートが血相を変えて、ルーシーのソファーに屈みこんだ私を引き離した。


「なにもしていない」

「スチュワート様本当です。陛下は、なにもされていません!」


 ルーシーが私を庇うも、スチュワートは苛烈な光を湛えた金色の瞳で突き刺すように私を睨みつけた。


「例え誤解だとしても、()()()()()()()()()()()()()()

 ……陛下がルーシー様を想う気持ちは十分承知しておりますが。今、このタイミングで()()が起きてしまうと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「そんなことわかっている! 大袈裟だな……」


 怒りで戦慄くスチュワートは、その鋭い視線をルーシーへ向けた。


「ルーシー様も、ご婚約が内定されたばかりです。陛下とは極力()()をお控えください!」


「は、はい」

 スチュワートに威圧されたルーシーは下を向き小さく返事をした。

 

「陛下に対し忖度なさらず、手の甲への口付けも拒否なさっても宜しいのですよ!」


「は!? ()()()! ”婚約”だけでもムカついてるのに、”手にキス”すらもダメだと!? 散々我慢を強いてきて、結果がこれか……。もう……イヤだ! 国王なんて辞めてやる!」


 スチュワートの行き過ぎた言動に泣きたくなるほど腹が立った。


「陛下!?」 (スチュワート)


 微塵もやりたくもなかった国王の仕事を毎日こなす中、やっと見つけた私の天使。

 私の元でじっくり育ててゆくゆくは側近でも王妃でも騎士でもなんでも望む地位も財産も全て与え、死後もその魂を手元に置き何万年だって二人で過ごしたいと考えていたのに。勇者の剣といい、妖精王、イフリート、大天使ミカエル……次から次と、私の大事なルーシーを奪い取ろうとしやがって! できる事ならそいつらすべてを闇に葬りたい、地獄の底へ突き落してやりたい……。


 抑えきれない怒りの感情が沸々と湧き黒い魔力が部屋全体を覆いつくした。


(いた)っ」


 ルーシーが発した声に一瞬で我に返った。


「どうした!?」

「どうされましたか?」


「指輪が……熱く」


 すぐに駆け寄りその手を取った。

 ルーシーの右手に嵌めた契約の指輪が、私の怒りの感情によって赤黒く変色しその周囲の肌が赤く腫れていた。暴走した感情で……ルーシーに怪我を負わせてしまった。


「ああっ、ルーシー。悪かった。私のせいで…済まない…」


 指輪を外し治癒すれば腫れは消せるが、()()()()()()()()()()

 この”契約の指輪”の繋がりまで無くしてしまったら私は……おそらく全てがどうでもよくなってしまうだろう。王国の政治も、戦争回避も、そんなこともうどうでもいい。ただルーシーを……


 その指に額をつけ、謝ることしかできなかった。


「私が悪かった……済まない…許してくれ……


 その小さな手にひたすら謝罪する私の頬に、不意に温かい感触がした。

 顔を上げると、小さく柔らかいルーシーの左手が私の右の頬に触れていた。

 

 …ぁーーーーーーーっ!(声にならない)


「べリアス、大丈夫。心配しないで。手にキスしてもいいし、それに、私はずっと傍にいるから」

 


 いつの間にか涙が伝っていた私の頬を、手で拭いルーシーが潤んだ瞳で困ったように見つめ微笑んだ。


 その瞳のひれ伏したくなるほど青く美しい深淵は、昂っていた私の心を静め、このままずっと私だけを見ていてほしいと願わずにはいられなかった。


「ルーシー……」


「べリアス…」


 私の名を口にしたルーシーは、照れたように微笑んだ。

 もはや身体は本能のままに動き、私を見上げるルーシーの頬にそっと手を当て顔を近づけた。


 えっ!?

 ん!?  

 なぜかルーシーは、下の歯を上唇につけ白目を剝いた滑稽な表情をした。


「!?っ……プッ…フフッ…なんだそれは…フッハハハハハ」


 思わず笑ってしまった私にルーシーは「フフッ、変顔! 良かった、笑ってくれて」と無邪気に微笑んだ。涙する私を心配し、笑わそうとしてくれていたのか……。


 ノエルが言った”まだ15歳……”という言葉を思い出し(なるほど…そういうことなのか、まだ少し早かったのかもしれない)と心に言い聞かせキスは諦めルーシーの頭をそっと撫でた。



 気が付くと部屋にはオスカー、クリス、ノエルも戻り、怒り狂っていたスチュワートも表情を緩め、申し訳なさそうに私に視線を送り小さく頷いた。



 +++


 それから……

 スチュワートから大まかな報告を受けた後。


 コテージの外のテラスにセッティングされたテーブルセットに移動した。

 宝石をちりばめたような星空と南西の空には控えめな5日目の月が姿を現し、揺れるキャンドルの炎が灯されたテーブルでロマンティックなディナーを愉しんだ。


 ルーシーと二人っきりで!


 私を見つめるルーシーは相変わらず美しく愛らしいが、時折見せる愁いを帯びたその表情は心なしか以前より大人びていた。


 王国の勇者として”氷の魔女”を倒したらあの王子と結婚するというルーシーに「本当にそれでいいのか?」と問いただすと「わかりません。でもこれが王国のためだから」とあきらめたように笑った。


 その覚悟とも取れる悲しい笑顔に胸が締め付けられた。

 そして王であるのに、それをどうすることもできない自分の無力さに腹が立った。



 愛だ恋だの声高に叫ぶ奴に限って(←妖精王)それとは真逆の行為を平然と行い、しかも他人にまでその曖昧な価値観を押し付け、自己満足のためだけに愛もへったくれもない結婚を強引に進めやがる。

 イフリートもだ、ルーシーの本心も聞かずアスモデウスと張り合いたいがために妖精王(あいつ)に協力しやがって……。



 何か良い方法はないのだろうか。



 ルーシーが帰った後も、私は星空を見上げ思いを巡らせた。



 魔女を倒した後、律儀なルーシーは約束通り結婚する。

 あの妖精王の第三王子を消し去っても、復活した第一王子もいる。もしくは妖精王自ら結婚すると言い兼ねない。あのノールの若い王子をうまいこと唆して、ルーシーを連れて王国からノール帝国へ愛の逃避行も悪くないフフフ……。あっ、でも勇者の剣(あいつ)がいる! その前にあいつを何とかしなければ……。大天使ミカエルなんかに絶対会いたくない! でも、ルーシーを……勇者の剣(あいつ)から解放しないと。解放したらしたで、勇者としての使命がなくなり即結婚してしまう。ノール帝国も、勇者無き王国との軍事協定も見直され協力も仰げなくなるかもしれぬ……。結局、堂々巡り。



「ああっ……!」


 残された時間は恐らく僅か数年。

 その間にルーシーとの信頼関係を築き上げ、恋愛に発展させ、私を”愛していると”あいつら(イフリート・妖精王)の前で言わしめて……王子との婚約を破棄させないと。

 


 キスぐらい……しておけばよかった。



 +++++

お付き合いいただきありがとうございます。

ブクマ★感謝!感激!


次回、木曜日更新予定です。

引き続きお付き合いいただけましたら幸いですm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ