Ⅶ
次の日、僕の喉からはまだ音は聞こえない。
また次の日、昨日とあまり変わっていない。
また次の日と、訓練は重ねているが何ら変化は見られない。
本当に治るのだろうか、そもそも方法が間違っているのだろうか。
変化のない僕の体にイラつき、精神が不安定になる。
そんな時は決まってゆきちゃんが傍にいてくれた。
なにも言わずただ隣にいてくれた。
このことに僕がどれだけ救われたことか君は知っているかな。
訓練を始めて、1週間と3日が経った日の夜。
この日はゆきちゃんとお昼寝をした。
ゆきちゃんが隣にいた為、全くと言っていいほど眠れはしなかったが、
彼女の寝顔を見ることができ、僕は上機嫌だった。
声を出そうと息を吸ったとき、いつもと何かが違った。
喉に違和感を感じたのだ。
まさかとは思いながら、僕は小さく呟いた。
「松浦、、瑞幸」
始めて呼ぶ、彼女の名前だった。
掠れながらも声を出せるようになったのだ。
僕の喉から彼女の名前が音となって紡がれる。
そのことに僕は歓喜した。
涙が止まらなかった。
いつもは声を出そうとすると、あの男が脳裏にちらついた。
しかし、最近は不思議とあの男のことを忘れて純粋にゆきちゃんだけを想っていた。
僕は乗り越えたのだ。
あの忌々しい日の出来事を。
まだ完全に乗り越えたわけでないとしても、一歩、確実に一歩前に進むことができた。
ゆきちゃんのおかげだ。
ゆきちゃんがいたから僕は、乗り越えようと思えたのだ。