ⅩⅩⅤ
「父さん、突然訪ねて来てすみません。
あなたにお願いがあってきました。僕の話を聞いてもらえませんか?」
彼はこちらに全く視線を向けない。
この人はあの頃から僕を愛してはいなかったんだ。
でも、さっきの涙は?
訳がわからず戸惑う。
しかし、これは彼の助けがどうしても必要である。
「僕は今ストーカー被害にあっています。
そのストーカーが僕の大切な人たちにまで迷惑をかけ始めたんです。
このままだと怪我をしてしまう可能性があります。
僕一人の力では到底守りきれないのです。
しかし、あまり大事にもしたくない僕の我が儘なのですが、どうか彼女を助けてくれませんか?」
僕は必死に頭を下げた。
中々返事が返って来ず不安になったが、僕は頭を下げ続けた。
目の前に水滴が落ちた。
1つ、また1つとどんどん落ちてくるものの正体は、彼の涙だった。
この人はこんなに泣く人だったのか。
「詩晴、詩晴、詩晴」
涙を流しながら、僕を抱き締めた。
思わず肩をビクつかせてしまった。
僕の名前を呼びながら泣き続けるこの人がとても小さく見えた。
あの頃はあんなに怖かった人がこんなにも弱くなるなんて。
だけど、僕は母とののことを忘れたわけではない。
僕が父を許すことはないだろう。
それでも、嫌いだけどこの人は僕の父親なんだ。
殺したいほどに憎んでいても、死んでくれとは思わない。
やっぱりどこかに情があるのだ。




