ⅩⅩⅢ
その週は珍しく被害が少なかった。
だから、油断していた。
日曜日、ゆきちゃんの部屋に行くと彼女の部屋の前に赤い何かが広がっていた。
慌てて近づき触ってみるとそれは赤い絵の具だった。
僕はそのままゆきちゃんの部屋ではなく、廉士さんの部屋を訪ねた。
そこには僕の予想通りゆきちゃんと廉士さんがいた。
ゆきちゃんは風呂上がりなのか、髪が少し濡れていた。
「ゆきちゃん、廉士さん。何が、あったの?」
僕は自分の考えている最悪が外れていることを願いながら恐る恐る尋ねた。
ゆきちゃんは大丈夫、と僕に視線を合わせずに言ったが顔は強張っていた。
廉士さんに視線を向けると、一度目を伏せ静かに話し始めた。
「そろそろお前が来る頃だと思って外に出たら、知らない男に赤の絵の具をかけられたんだ。そのとき男が"詩晴に近づいた罰だ"とか言っていたが、あれはお前の知り合いか?」
僕は全身の力が抜け、その場に崩れた。
「ごめんなさい、2人に迷惑をかけるつもりはなかった。
その人は僕の先輩で、その、告白を断ったらストーキングされるようになって。最近全然見ないからもう止めてくれたと思ってたの。
まさか、2人のところに行くなんて、本当にごめんなさい。」
僕は申し訳なさから泣きたくなっが、ここで僕が泣いてしまうのは卑怯だと思い唇を噛み締めた。
僕はゆきちゃんに迷惑ばかりかけている。
もう嫌だ、離れたくない、傍にいたいのに。
どうしてこんな邪魔をされるんだ。
僕からのゆきちゃんを引き離すやつは、いらない。
「2人とも、ごめん。用事ができたから今日は帰ります。
しばらく来れないけど、ご飯はちゃんと食べてね。」
僕はゆきちゃんと一度も視線を合わせることなく部屋を出た。