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しばらくしてゆきちゃんが部屋に戻って来た。
両手に重そうな袋を下げていて少しふらついていた。
僕と廉士さんは慌てて袋を受け取った。
中には野菜にお肉、インスタントコーヒーが入っていた。
コーヒーは僕が好きなメーカーだった。
まだ覚えていてくれたんだ。
僕が袋を持って台所に向かおうとすると、ゆきちゃんは空いた両手で僕の背中を掴んだ。
「ねぇ、詩晴。もう私の前からいなくならないよね。」
背中越しに伝わる両手の震え。
あぁ、あのとき僕はまた選択を誤ったのか。
ゆきちゃんを傷つけたくないだなんて言っておきながら、僕は何度も君を傷つけている。
いつまでも臆病な僕ではいられない。
今度こそ君を傷つけないよ。
僕は彼女に向き合う。
「ゆきちゃん、大丈夫。僕はここにいるよ、君の傍にちゃんといるよ。」
大丈夫、大丈夫と彼女の頭を肩口に引き寄せ、抱き締める。
嗚咽を漏らさないように唇を噛み締め震えていた彼女は次第に声が漏れ始めた。
ふと、視線を落とすと彼女の耳元にあるピアスが目に入った。
元はペンダントだったが綺麗なピアスになっている。
先程廉士さんが言っていた。
ペンダントの金具が壊れたからピアスにしたって。
そこまでして身に付けようとしてくれたんだ。
僕は彼女が愛おしくなり、ハラハラと涙を流す目元にキスをした。
驚いてこちらを見上げる彼女に僕は優しく微笑んだ。
「泣かないで?ゆきちゃんには笑っていて欲しいな。」
彼女の頬にそっと手を添える。
自然と口元に視線が行き、顔を近づけようとしたところで我に返った。
視線を感じて顔をあげるとニヤニヤしながらこちらを見る廉士さんと目があった。
僕は廉士さんを一睨みするとゆきちゃんを離した。
先程から俯いて何も言わない彼女が気になり、顔を覗き込んだ。
真っ赤になっていた。
茹で蛸、という表現がピッタリなほど赤くなっていて、見ている僕も恥ずかしくなってしまった。
「えっと、今日はもう帰るね。」
未だ放心状態の彼女をを廉士さんに任せて僕は部屋を出た。