第14話 続きは、異端審問の後で
恥ずかしくて、みっともなくて、かっこ悪くて、どうしようもなかった。
「落ち着いた?」
「泣いてねーから。可愛い女の子とくっついてたかっただけで、全然ちっとも泣いてねーから」
強がるが、しかし。
「大丈夫わかってるよ。あ、でもまだ眼あかいよ?」
「――うっ、るせ」
もう一度目をゴシゴシ擦る。
その姿を見て、シェイラがくすくす笑う。俺もつられて、笑ってしまう。
ひとしきり笑ってから、
「ありがとな」
聞こえるか聞こえないかの大きさで、小さくぼそっと囁いた。
シェイラは何も言わなかった。何も言わないでくれた。ただ彼女は、優しく微笑んでいた。
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「そう言えばさ。生きる目的がないって言ってたけど、後悔はないのレイルは?」
「後悔、ねぇ……」
後悔ならば腐るほどしてきた。それこそ後悔しかないと言っても過言ではないほどに、俺の人生は後悔の連続である。
その中で一番後悔したこととなると、やはり。
「家族を守れなかったこと、かな」
ハハハと力なく笑う。
「違う。そうじゃない。レイルがしてみたかったことだよ」
してみたかった、こと……?
「いろんな町を回って、色んな美味しいものを食べたかったとか。なんでもいいの。それこそ、子どもが欲しかったとかでも」
それって後悔じゃなくて未練って言うんじゃ……言葉を呑み込み、
つーか。
「子どもとか、やっぱマセガキだなお前」
ケラケラ笑う。
「うっさい!」
シェイラは唇を尖らせぷいっとそっぽを向く。その仕草が、とても可愛らしい。
つい見惚れてしまっていた自分に気づき、少し慌てる。
「あー、でもそうか。やってみたかったことかぁ」
考える、必要はなかった。考えるまでもなく、俺ならこう言うだろうという答えが思い浮かんだからだ。
「あえて言うなら、そうだな。童貞のまま死にたくはなかったな」
にやりと笑ってみせる。それを見てシェイラは、
「エロガキ」
いつもと立場が逆になっていて、お互いぷっと吹き出した。
幸せな時間だった。こんな時間が永遠に続けばいいなんて、不覚にも思ってしまう自分がいる。
そんなことは絶対ありえないと、わかっていても――。
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「そろそろわたし、帰るね」
かなり時間が経ってしまっていたと思う。外はすっかり宵闇に包まれているはずだ。
今日は地下牢生活最終日で、看守の声も衛兵の見回りもないから、長いさせすぎてしまった。
「おん。それじゃあな。今日でお別れだ」
「お別れじゃないよ。大丈夫。町の人、みんなレイルの味方だから」
「そうだと嬉しいけどな」
残念ながら、それは希望的観測にすぎない。
自らを悪魔だと名乗るような愚か者の味方など、一歩間違えば自殺行為である。
それを俺はよく知っている。手の平を返すように、人は簡単に裏切る生物であることを知っている。
だから俺は人を信じない。希望とか奇跡などといった聞こえのいいだけの言葉を、信じない。
そうやって、生きてきた。
立ち上がりかけたシェイラが、「あ、そうだ」と何かを思い出したふうに声を上げる。
しかしその仕草が致命的にぎこちなさすぎて、ひと目で嘘だと見抜ける。彼女らしいと言えば、彼女らしいのだけれど。
「そう言えば、お父さんから伝言があったの!」
「伝言?」笑みを浮かべて聞き返す。するとシェイラは軽く周囲を見回す仕草をして、
「うん。あんまり大っきな声では言えないから……」
膝をつき、檻に顔を近づける。口元に手を添えている格好を見るからに、耳を貸せということなのだろう。
彼女の鈴の音を聞けるのも、もしかしたらこれが最後になるかもしれない。
せめて死んでも忘れられないくらいの、脳が甘くとろける台詞を期待した。
耳を近づけ、身体の警戒を解く。
この子には、警戒をする必要はないと思ったから。
この子になら、鼓膜を破られようと殺されようと構わないと思えたから。
「――――へ?」
不意打ちだった。
頬に、柔らかい物が押し当てられた。
左手でその箇所に触れながら、見上げると、そこには耳まで真っ赤にした白金色をした髪の少女の姿があって――。
「続きは、異端審問の後で――。」
シェイラが地下牢からでていってから、俺はごろんと脱力して、再び頬に触れる。
身体が熱を持ち、心臓がドギマギする。
心がモヤモヤしていて気持ち悪いのに、なぜか不思議と心地いい。
気づいたときには既に、世界で一番厄介な病気に、俺は完全に感染していた。
「ったく。これじゃあ是が非でも死ねねぇじゃねぇか」
そうして地下牢生活最終日が終わりを告げた――。
会話とかなるたけ違和感ないよう気をつけてますって……え、お前女の子と会話したことあんのかよって? おいそこお黙りなさい笑




