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異端者ですが、ナニか?  作者: 星時 雨黒
14/24

第14話 続きは、異端審問の後で

 恥ずかしくて、みっともなくて、かっこ悪くて、どうしようもなかった。


「落ち着いた?」


「泣いてねーから。可愛い女の子とくっついてたかっただけで、全然ちっとも泣いてねーから」


 強がるが、しかし。


「大丈夫わかってるよ。あ、でもまだ眼あかいよ?」


「――うっ、るせ」


 もう一度目をゴシゴシ擦る。

 その姿を見て、シェイラがくすくす笑う。俺もつられて、笑ってしまう。

 ひとしきり笑ってから、


「ありがとな」


 聞こえるか聞こえないかの大きさで、小さくぼそっと囁いた。

 シェイラは何も言わなかった。何も言わないでくれた。ただ彼女は、優しく微笑んでいた。





「そう言えばさ。生きる目的がないって言ってたけど、後悔はないのレイルは?」


「後悔、ねぇ……」


 後悔ならば腐るほどしてきた。それこそ後悔しかないと言っても過言ではないほどに、俺の人生は後悔の連続である。

 その中で一番後悔したこととなると、やはり。


「家族を守れなかったこと、かな」


 ハハハと力なく笑う。


「違う。そうじゃない。レイルがしてみたかったことだよ」


 してみたかった、こと……?


「いろんな町を回って、色んな美味しいものを食べたかったとか。なんでもいいの。それこそ、子どもが欲しかったとかでも」


 それって後悔じゃなくて未練って言うんじゃ……言葉を呑み込み、


 つーか。


「子どもとか、やっぱマセガキだなお前」


 ケラケラ笑う。


「うっさい!」


 シェイラは唇を尖らせぷいっとそっぽを向く。その仕草が、とても可愛らしい。

 つい見惚れてしまっていた自分に気づき、少し慌てる。


「あー、でもそうか。やってみたかったことかぁ」


 考える、必要はなかった。考えるまでもなく、俺ならこう言うだろうという答えが思い浮かんだからだ。


「あえて言うなら、そうだな。童貞のまま死にたくはなかったな」


 にやりと笑ってみせる。それを見てシェイラは、


「エロガキ」


 いつもと立場が逆になっていて、お互いぷっと吹き出した。

 幸せな時間だった。こんな時間が永遠に続けばいいなんて、不覚にも思ってしまう自分がいる。

 そんなことは絶対ありえないと、わかっていても――。





「そろそろわたし、帰るね」


 かなり時間が経ってしまっていたと思う。外はすっかり宵闇に包まれているはずだ。

 今日は地下牢生活最終日で、看守の声も衛兵の見回りもないから、長いさせすぎてしまった。


「おん。それじゃあな。今日でお別れだ」


「お別れじゃないよ。大丈夫。町の人、みんなレイルの味方だから」


「そうだと嬉しいけどな」


 残念ながら、それは希望的観測にすぎない。

 自らを悪魔だと名乗るような愚か者の味方など、一歩間違えば自殺行為である。

 それを俺はよく知っている。手の平を返すように、人は簡単に裏切る生物であることを知っている。

 だから俺は人を信じない。希望とか奇跡などといった聞こえのいいだけの言葉を、信じない。

 そうやって、生きてきた。


 立ち上がりかけたシェイラが、「あ、そうだ」と何かを思い出したふうに声を上げる。

 しかしその仕草が致命的にぎこちなさすぎて、ひと目で嘘だと見抜ける。彼女らしいと言えば、彼女らしいのだけれど。


「そう言えば、お父さんから伝言があったの!」


「伝言?」笑みを浮かべて聞き返す。するとシェイラは軽く周囲を見回す仕草をして、


「うん。あんまり大っきな声では言えないから……」


 膝をつき、檻に顔を近づける。口元に手を添えている格好を見るからに、耳を貸せということなのだろう。

 彼女の鈴の音を聞けるのも、もしかしたらこれが最後になるかもしれない。

 せめて死んでも忘れられないくらいの、脳が甘くとろける台詞を期待した。

 耳を近づけ、身体の警戒を解く。

 この子には、警戒をする必要はないと思ったから。

 この子になら、鼓膜を破られようと殺されようと構わないと思えたから。



「――――へ?」



 不意打ちだった。


 頬に、柔らかい物が押し当てられた。


 左手でその箇所に触れながら、見上げると、そこには耳まで真っ赤にした白金色をした髪の少女の姿があって――。


「続きは、異端審問の後で――。」



 シェイラが地下牢からでていってから、俺はごろんと脱力して、再び頬に触れる。

 身体が熱を持ち、心臓がドギマギする。

 心がモヤモヤしていて気持ち悪いのに、なぜか不思議と心地いい。

 気づいたときには既に、世界で一番厄介な病気(ウイルス)に、俺は完全に感染していた。


「ったく。これじゃあ是が非でも死ねねぇじゃねぇか」


 そうして地下牢生活最終日が終わりを告げた――。

 会話とかなるたけ違和感ないよう気をつけてますって……え、お前女の子と会話したことあんのかよって? おいそこお黙りなさい笑

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