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江戸戦場  作者: かわむら
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江戸は異星人に侵略された

江戸にUFOが出現した。

エイリアン達が侵略を開始する。

江戸の運命はいかに。

時は天下太平の江戸時代。

舞台は四代将軍家綱が統治する江戸。

この江戸目指し、宇宙から侵略者が訪れようとしていた。

その侵略者とは、別の銀河系からきたスモイダ星人である。

スモイダ星人は子孫繁殖と、食料確保のために地球を目指していた。

侵略開始となる最初の都市は、当時人口最大の江戸である。

乗っている宇宙船である円盤は、キチガイじみた大きさである。

巨大な円盤は今まさに、地球の衛星である月を横切ろうとしていた。

月のクレーターは巨大円盤が太陽の光を遮り、真っ暗になった。

これから日本最大の都市・江戸はかつてない試練に遭遇する事になる。

その動乱は、間近に迫りつつあった。


    ― ― ― ― ― ― ― ― ―

江戸・両国。

この界隈には手習い塾が多く、多くの女性が三味線、小唄、生け花、浄瑠璃などの稽古に足しげく通っていた。

名取お喜乃が経営する老舗の琴の稽古場もその一つである。

琴の師匠は名門名取家の娘・名取お喜乃。

旦那は婿養子である、浪人・名取新右衛門。

稽古場の隣にある控え室では、三人の女性が次の稽古の順番を待っていた。

控え室は暑く、三人の女性は扇子で扇いでいる。

「暑いねえ~」 

「ほんにねえ~」

「ところで師匠の旦那さん、この前酒場で見たよ」

「え、いつ?」

「おとといの馬の刻だよ。昼間から酔いつぶれてたんだよ」

「いいご身分だねえ」

「旦那さんは今、浪人の身だろ?士官の口を探してるって噂だけど、どうなってるんだい?」

「酔っぱらってるようじゃ、士官の口は見つかってないだね」

「あんなロクデナシを養子にもらったんじゃ、師匠も可哀想だねえ」

「一生苦労するよ」

「死ぬまで、うだつの上がらない人生送るよ」

その時、フスマが開き、師匠のお喜乃が出てきた。

「あんたたち、いい加減にしなよ。文句があるなら、出てっておくれよ」

三人の女性は失言した事に気づき、口をつぐんだ。

「さあ、早く出ろ!売女ども!唐変木!ウドの大木が!」

完全に切れてしまった師匠から逃げようと、三人の女性は帰り支度を始めた。

師匠の大声に気づき、庭仕事をしていた名取家の手代である

直助が、血相を変えて飛んできた。

「いけやせん、奥様!どうか、お気を静め下さい!」

直助は膝をついて、お喜乃にすがった。

名取家の財政は悪化の一途を辿っているというのに、これ以上生徒が減っては食っていけないからだ。

養子の新右衛門の職でもあれば別だが、今名取家の財政は妻のお喜乃の手だけにかかっているのだ。

その危機は、手代の直助が重々、承知している。

「放せ、直助!」

お喜乃は体にしつこくまとわりついている直助を蹴飛ばした。

「奥様、後生ですから・・・・・」

起き上がろうとする直助の顔を、お喜乃は回し蹴りで蹴飛ばした。

床に倒れて気絶した直助を見て、生徒の女性たちはお喜乃の恐ろしさに震えた。

これでは琴の師匠よりも、格闘技の師匠になった方が儲かるだろう。

女性たちはそそくさと、稽古場から退場して行った。

生意気な女性たちが帰った後で、興奮していたお喜乃は我に返った。

床には奉公人の直助が倒れているではないか。

「直助!しっかりして!」

    ― ― ― ― ― ― ― ―

本所。ここでは水路が多く、魚がよく釣れる場所である。

浪人である名取新右衛門は座って、掘に釣り糸を垂らしていた。

魚が釣れまくるとの噂通り、三つある魚籠(びく)はすぐに一杯になってしまった。

キセルに火をつけた新右衛門は、煙を吸いながら釣りを楽しんだ。

掛かってきた魚を魚籠に入れた新右衛門は、隣に同じ浪人が腰を下ろしたのを見た。

浪人は針に餌を刺し、釣りの準備を始めている。

新右衛門はその浪人を相手にするつもりは無かったが、浪人の方から話しを切り出してきた。

「ほほう、釣れましたな」

相手の浪人は、新右衛門のあふれんばかりの魚籠を見て言った。

「さよう。勘弁してくれといわんばかりによく釣れる。 

拙者の魚籠はご覧の通り一杯になってしまったので、これで失礼」

新右衛門は、帰り支度を始めた。

辺りが薄暗くなってきたので、退き時だ。

帰る支度を整えている最中に、浪人が話しかけてきた。

「そこもとは『置いてけ堀』というのを、ご存じかな?」

「聞いた事はあるが・・・。

ここで釣りをした者が、帰り道に“置いてけ~”という妙な声を聞き、魚籠を置いて逃げ出したという事らしいが」

「妖怪の仕業、と考えられておる」

浪人が言うと、新右衛門はゲラゲラと笑った。

「妖怪の仕業、がそんなにおかしいのかな?」

「これが笑わずにいられるか。

貴公は妖怪など、本気で信じておるのか?」

「妖怪の存在を証明した者はおらぬ。

だが逆に存在しないと証明した者もおらぬ。」

「拙者はそんなモノノケの類いは一切信じぬ。

家宅では妻が待っておるので、ご免」

帰る新右衛門の背中を見て、浪人が一声添えた。

「くれぐれも、“置いてけ~”にご注意されよ!」

新右衛門は無視して、遠ざかった。

妖怪話に付き合ってられる程、暇ではないからだ。

   ― ― ― ― ― ― ―

おかしいな。

いつもは帰り道、人とすれ違うのに今日は誰一人として、すれ違わない。

霧が出てきて視界が悪く、本当に妖怪が出そうな雰囲気になってきた。

誰もいない通りの奥から、女の声で“置いてけ~”という声が響いてきた。

無視して歩く新右衛門。

“置いてけ~”という声は大きくなり、近づいているのが分かる。

しかし新右衛門はいささかにも、妖怪の仕業だとは思っていなかった。

一計を案ずると、魚籠を置き、慌てふためいたように逃げ出した。

実際には逃げておらず、通りに隠れて様子を伺っていたのだ。

隠れたまま、新右衛門は腰の刀を抜いた。

あの声は妖怪ではなく、生身の人間の声だ。

しばらくすると、若い女がやって来て魚籠を取った。

あの女が、奇怪な声の主に違いない。

新右衛門はサッと路上に飛び出すと、若い女の喉元に刃を突き出した。

「このアマ、拙者を愚弄してくれた罪は重いぞ」

女は震えている。

「誰の差し金じゃ?貴様だけではあるまい。

裏で糸を引いていた人物は誰じゃ?」

「そんな事・・・。あんたには関係ないよ」

「大いに関係あるぞ。貴様の名は?」

「あたいは椿。大道芸人でかつ、女泥棒さ」

「では椿殿。仲間の所へ案内してもらおうか」

   ― ― ― ― ― ― ―

その頃、堀で釣りをしていた浪人は、仲間の椿が帰ってきた足音を聞いた。

椿の奴だな。

浪人は座ったまま、振り向いた。

「椿か。首尾よくいったか?」

霧のせいで、椿の後方に新右衛門がピッタリとくっついているのが見えなかったのが不運だった。

浪人の目と鼻の先まで近づくと、新右衛門は椿の背中を押した。

よろけた椿の背後から現れた新右衛門に、ギョッとする浪人。

すぐさま立ち上がると、刀の鞘に手をかけた。

「貴様が狼藉の首謀者か。今時妖怪の仕業に見せかけて物をかすめとるとは、浅ましき悪知恵よのう。

抜くがいい。コケにしてくれた礼をいたそう」

新右衛門は刀を抜いた。

椿は浪人の背中に隠れ、身を守っている。

浪人も、震える手で鞘から刀を抜いた。

「あんた、ブッた斬っちまいなよ!」

けしかける椿。

しかし浪人には、新右衛門の方が剣の腕では一にも二にも、勝っている事に気がついていた。

「来ぬのなら、拙者から参ろう」

踏み込んできた新右衛門に背中を見せ、浪人は一目散に逃げ出した。

「覚えていろ!」

逃げ足だけは浪人の方が速い。

着物の裾をまくって逃げる椿が振り返って、新右衛門に「バ~カ!」と罵声を浴びせた。

「妖怪などおるものか、たわけどもめ!」

新右衛門は椿と浪人に聞こえるよう、大声で怒鳴った。

やれやれ、散々な一日だった。

新右衛門は刀をしまうと、さっきまで浪人が釣っていた魚籠を手にした。

仕方がない。

奴の魚を代わりにもらって帰ろう。

収穫なしで帰る訳にはいかない。

霧の中、暗くなった夜道を新右衛門はトボトボと帰った。

   ― ― ― ― ― ― ― ―

暮れ六つ。

夫である名取新右衛門が帰ってきた。

「お帰りなさいませ」

玄関先で手をつき、お喜乃は主人を温かく出迎えた。

「うむ」

何事も無かったように、新右衛門はお喜乃に太刀を渡した。

お喜乃は太刀を大事そうに持ち、所定の場所にしまった。

   ― ― ― ― ― ― ―

名取新右衛門と妻のお喜乃は一緒に蚊帳張りの部屋で寝ていた。

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