1話 ふざけんじゃねーぞ19世紀ロシアアァ!?
セレブ大学に幼稚園からエスカレーターで進学した大学1年生の龍宝寺影虎は、アメフトの試合中の肩の負傷により、夏休みに病室で暇を持て余していた。
(ひ、暇すぎる……。寝てるだけじゃ足の筋肉まで落ちちまうし、病院の図書館に行ってみるか)
図書館で本棚をぼーっと眺めていると、ふと気になって取り出したのが罪と罰だった。
(なんか有名らしいし、そういえば一般教養の教授がドストエフスキーファンで熱く語ってたな。読んでみるか)
影虎は興味無い箇所は読み飛ばしつつ、パラパラとページをめくって読み進めていた。
(は?なにこの尊い子。幼い弟妹と働かねえ両親のために自分を犠牲にしすぎだろ。しかもアル中ドM親父としか血が繋がってねーし。まじかよ……)
小学生の頃に初恋の女子との話題作りのために姉から名作童話を読まされたことのある彼は、完全にキャラ萌え目線で読んでいた。
(どうしてこんな心綺麗な子の相手が、厨二病寄生虫インキャ殺人犯なんだよおおおお!?主人公補正で楽してんじゃねーぞ!シベリアの土地にいる方が精神的にはマシかもしれねーけど、なんで彼女の貴重な18からの8年間を他人のお世話に浪費されなきゃならねーんだ!ラズミーヒン、分裂して彼女を嫁にして救ってくれよおお!!)
影虎は、推しの不遇ルートを強制的に読まされている気持ちになっていた。
「ふざけんじゃねーぞ、19世紀ロシアアァ!?」
バギィ!
思わず握力で本を破壊した影虎へ、前世の記憶が流れ込んでくる。
(待って!?俺、前世はロゴージンって名前の激臭ストーカー殺人犯じゃねーか!?惚れたメンヘラ美女に10万ルーブリ渡して燃やされてるし!)
「な、なんですか今の音は!?」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった影虎と看護師さんの目が合った。
「……すみません。俺のクソデカ感情のせいで、本を破壊してしまいました。弁償します。このバイブルを、お買い上げさせてくださいっ!」
(この子、肩より情緒の方が重傷ね……)
「とりあえず顔を拭きなよ」
看護師さんは、手に持っていた清拭用のおしぼりを差し出した。
「ありがとうございます……ぐすっ」
影虎は顔を拭き終えてティッシュで鼻をかんだ後、ネットで同じ本を検索し、配送先を入院中の病院に入っているコンビニに指定すると、保存用と弁償用にポチった。
「後日届いたら、病室に回ってきてくれる看護師さんに手渡したら良いですか?それとも図書館に置いてきたらいいですか?」
「勝手に置いたら不法投棄になるから職員に言ってくださいね」
「うっす」
影虎は、暇つぶしに脳内で『もしも前世の俺がペテルブルクの街でソーニャに出会っていたら』シミュレーションに勤しんでいた。
(でもやっぱり札束で殴って全てを解決する作戦になってそうだな、過去の俺)
(ちなみに10万ルーブリって今の価値の何円くらいなんだ?)
影虎はAIに質問をしてみた。
(白痴に出てくる10万ルーブリって、現在の何円くらいの価値になりますか?…っと)
AIさん:当時の人々の感覚を基準にすると、現代だと1億円前後くらいだよ。宝くじみたいな感じだねっ⭐︎
(何してんだ過去の俺ええぇ!?こんなにあったらソーニャみたいに苦しんでる子を何人も助けられたじゃねーか!?何燃やされてんだよ、バカじゃねーの、俺!!)
「ああああぁ!?」
肩を固定されている影虎は、ベットの上で足を激しくジタバタさせていた。
「…ちょっと大丈夫なの?何してるの?」
先程の看護師さんより少し年配の看護師さんが様子を見に来た。
「すみません、うるさくして。ちょっと昔の黒歴史を思い出してしまいました」
「そんなにストレス溜まってるなら、外出依頼の書類持ってこようか?先生に許可もらえたら散歩してくれば?」
「お願いしまっす!」
「はーい」
こうして影虎は、ソーニャ限界オタクとなった。




