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巨大ロボ





 ひょんなことから巨大ロボをもらうことになった。


 僕の知り合いのマッドサイエンティスト、M博士が巨大ロボの開発に成功したのだが、巨大過ぎて置き場所に困り、僕に譲りたいと言ってきたのだ。


 その巨大ロボは身の丈30mぐらいはあり、そんなものを置く場所は僕の家にもない。

 でも僕はもらうことにした。



 僕には考えがあった。この巨大ロボを使って大儲けしてやろう、と。






「いやー、助かったよ。君がもらってくれることになって」


「いえいえ、こちらこそ。こんなすごいロボットを無料でいただけるなんてラッキーです。

 ……でも、これだけの巨大ロボだと、操作するのはやっぱり難しいんでしょうね?」


「いやいやいや。簡単簡単」


「本当ですか?」


「操作は簡単だよ。…ただ、使いこなすのは難しいと思うけどね、性格的に」


「は?」


「まあ、使ってみればわかるよ。この説明書に詳しいことは全部書いてあるから。それじゃ後はよろしく」






 僕はとりあえず巨大ロボを家からそう遠くない場所にある廃工場に隠すことにした。ここならしばらくは人目に付くこともないだろう。


「しかしこの巨大ロボ、本当にすごいな。声で命令するだけで、その通りに動いちゃうんだもんなぁ」


 そうなのだ。

 この巨大ロボには人工知能が搭載されており、声で命令するだけで自動的に動いてくれるのだ。


 歩けと言えば歩くし、止まれと言えば止まる。空を飛べと言えば本当に空を飛ぶのだ。


 説明書を見ると、巨大ロボには他にも色んな機能が搭載されているようだった。


 僕はむさぼるように説明書を読んだ。

 早くこの巨大ロボを使ったビジネスを始めたい。

 そのためには巨大ロボに搭載されているすべての機能をきちんと把握しておく必要がある。


「ふむふむ。ジェット機能を使えば東京・大阪間を10分で移動できるのか。早いなあ。

 へー。動力は単三電池なんだ。単三電池2本で50時間も動くの?エコだなぁ。

 えっ?ミサイルも搭載されてるの?うわーすごいな!」


 説明書のページをめくるごとに僕の胸はときめいた。

 あんなこともできる、こんなこともできる。

 僕の頭の中でお金の山がドンドン積み上がっていった。


 しかし、説明書の最後のページに書いてある注意書きを見て、僕は少し首をひねった。




注意!


この巨大ロボはとても穏やかな性格です。それは搭載している人工知能の設定によるもので、安全面を考慮して、そのように設定しています。ただ、穏やかな反面、ナイーブで傷つき易く、落ち込み易いです。もし、巨大ロボが何か失敗をして落ち込んでいる時は、優しい言葉で励ましてあげて下さい。




「なんか…大きな体に似合わず、繊細な感じなんだなぁ…」


 でも、僕はそれほど気にはしなかった。

 ロボットの性格なんて別にどうでもいい。

 これだけ優れた機能を搭載したロボットなら、必ず多くの人の役に立つ。

 イコール金になる。それで万事OKだ。そう思っていた。


 少なくとも、この時点では。






 僕はチラシを街中に配った。

 いよいよ巨大ロボによるビジネスをスタートさせる時がきたのだ。


 そのビジネスとは「なんでも屋」だ。

 一見ありきたりな感じだが、この巨大ロボなら本当になんでもできると思う。


 なんでもできるロボットによるなんでも屋。

 単なる便利屋とはワケが違う。

 今までのなんでも屋に対するイメージをぶち壊し、多くの人に物凄いインパクトを与えるだろう。

 そしてお客が次から次へと殺到する。イコール金になる。


 どんな依頼が舞い込むかはわからないが、不安は一切無い。


 僕の人生はバラ色だ!






 巨大ロボのなんでも屋に、最初に来た依頼は出前のバイトだった。


 近所の蕎麦屋で、いつも出前を担当しているバイトの子が風邪でダウンしてしまったので、そのピンチヒッターとして来て欲しいということだった。


 正直、初仕事としてはショボ過ぎると思った。


 断ることも考えたが、今のところ他に仕事の依頼は来ていない。

 ここはひとつ、小さな仕事でも無難にこなし、信頼性を高めるのが良いだろう。


 きっと、巨大ロボのなんでも屋というビジネス自体が今までになかったものだから、客も何を依頼したら良いのかわからないのだと思う。


 そうであれば、出前のバイトみたいなショボい依頼を引き受けることで、他の客も親しみを感じ、気軽に仕事を依頼しに来るようになるのではないか。

 そうなれば次から次へと仕事の依頼が来て、いずれビッグビジネスだって舞い込んで来る。

 イコール大金になる。


 よーし。巨大ロボの初仕事は出前のバイトに決定だ。


 巨大ロボ発進!






 …結果から言うと、初仕事は大失敗だった。


 何と言うか……、いかに我が巨大ロボが優れた機能を搭載しているといっても、やっぱり得手不得手というのはあるんだな、ということを痛感させられた。


 一つハッキリわかったのは、巨大ロボは細々した作業は苦手ということだ。


 出前先の客が金額通りピッタリ払ってくれればいいのだが、やっぱり大概はおつりが発生する。

 そのおつりを渡すのに、とんでもなく手間取るのだ。


 巨大ロボの大きな手で小銭をつまみ出すのは至難の業なので、しょうがないと言えばしょうがない。が、おつりを渡すのに四、五十分かかっていては苦情が来るのもやむを得まい。


 何より、蕎麦を入れて運ぶための道具である岡持ちを持つことすらままならないというのは致命的だ。


 巨大ロボ的には優しく持ってるつもりなのだろうが、出前先に着く頃にはたいてい岡持ちを握りつぶしてしまっている。

 また、無事に運べたとしても、今度は岡持ちから蕎麦を出すのに四苦八苦。

 さらに、うまく出せたとしても、巨大ロボの大きな手のせいで、せっかくの大盛りが小さく見えるという運のなさ。


 で、最終的におつりでこれでもかというほどモタモタしてしまっては、初日でクビになっても致し方ない。


 むしろ、壊した岡持ちを弁償しろ、と言われなかったので、ホッとしてるぐらいだ。


 というわけで、初仕事は散々だったわけだが、僕はすでに気持ちを切り替えていた。

 要するに、何でもできると思っていた巨大ロボにも苦手なことはあるということがわかったのだ。

 それなら仕事を択べばいい。簡単なことだ。


 とにかく一度や二度の失敗でへこたれてはいられない。

 今度こそビッグビジネスをものにするのだ。


 幸い、次の依頼はもうすでに来ている。

 生徒の数が減り、廃校となった校舎の解体作業だ。

 今度の仕事は蕎麦屋のバイトなんかよりもずっと金の匂いがする。


 さあ、巨大ロボ発進だ!





 ……と、あれ?

 巨大ロボが全然動かない?


 故障かな、と思ったが、電源はちゃんと入ってるみたいだし、エネルギーも満タンだ。

 他にも色々調べてみたが、おかしい所はない。


 んー? どうしたんだ一体?


 困ったなぁ…。これはもう開発者であるM博士に修理に出すしかないか?


 そう思った瞬間、僕は説明書の注意書きを思い出した。


 このロボットは穏やかな反面、ナイーブで傷つき易く、落ち込み易いです。

 …とかいうようなことを書いてあったアレだ。


 もしかしてこいつ、故障じゃなくて、初仕事を失敗して落ち込んでるだけなのか?


 そう思いながら見ると、どことなくションボリしているように見える。

 ま、ロボットに表情はないから、あくまでも僕の個人的な感じ方なのだが、少なくとも動かないことは確かだ。


「ええと…。落ち込んで動かない場合はどうしたらいいんだったけ……」



 僕は説明書を取り出し、注意書きのページを開いた。


「ああ、そうだ。励ましてあげればいいんだった」


 しかし、ロボットを励ますといっても、どういう言葉をかけてあげればいいのやら。



「まぁ…あれこれ考えるより、とにかくやってみよう」


 僕は巨大ロボに近づいて優しく声をかけた。


「…おまえ、蕎麦屋の仕事がうまくできなかったことを気にしてるのか?」


 巨大ロボが微かにうなずく。

 やっぱり故障ではなく、ただ落ち込んでいただけだったようだ。


「いや…まぁ、確かにな、うまくはいかなかったよ。うん。それは確かにそうだった。

 …ただ、それでもおまえはがんばったと思うよ。いや、嘘じゃなくて。本当に。

 まあな。人間……って、おまえはロボットだけど、誰だってな、苦手なことはあるさ。それはしょうがないよ。うん。しょうがない。


 だからさ、今度はおまえの得意なことをやればいいんだよ。つまり、その巨大な体を使った力仕事だな。おまえ、パワーはあるだろ? うん。だからそれをやればいいわけさ。


 それで、だ。実はもう次の依頼がきてるんだよ。使われなくなった学校の校舎を解体する仕事だ。そう。ぶっ壊しちゃうの。


 これだったら、おまえに向いてると思うんだけどな。どうだ? やってみるか? え、なに? やる? よーし、そうこなくっちゃ!」


 巨大ロボは再び立ち上がった。僕の励ましが功を奏し、元気を取り戻したのだ。


 さあ、改めて巨大ロボ発進だ!






 ……まさか、…まさか、今回の仕事も失敗しようとは……。


 と、言っても今回は我が巨大ロボが悪かったわけではない。

 巨大ロボには校舎を破壊する力は十分にあった。


 だが、その校舎が問題だった。その学校の校舎は地元の人達にすごく愛着を持たれていて、ぜひ保存して欲しい、という意見が多数寄せられていたのだ。


 それを業者が無視して、強引に解体作業を進めようとしたが、それに反発するように住民の反対運動も活発化し、膠着状態が続いていた。

 その膠着状態を打破すべく白羽の矢が立てられたのが、我が巨大ロボだったのだ。


 そうとも知らず我が巨大ロボは、やっと自分の力を活かせるという思いで、喜々として校舎を破壊し始めた。


 この時、僕が現場を離れてしまったのもまずかった。

 そんな反対運動があるということは僕も知らなかったし、巨大ロボが解体作業に取りかかったその時は反対住民も現場に集まっていなかった。

 それで、校舎の解体作業が終わるまで時間を潰そうと、近くの喫茶店に行ってしまったのだ。

 僕が事の一部始終を聞いたのは、すべてが終わった後だった。


 巨大ロボが校舎を破壊し始めると、その音を聞きつけ、地元住民が一人また一人と集まって来て、いつしか校舎を取り囲むほどの大群衆となったらしい。


 しかし、悲しいかな、僕の命令を受けた巨大ロボはそんなことは気にも留めない。

 解体に反対する住民の泣き叫ぶ声や怒号が飛び交う中、巨大ロボは校舎を破壊し続けた。


 そして、跡形も無く校舎を破壊し尽くした巨大ロボは意気揚々と引き返そうとした。


 だが、その巨大ロボに向かって住民達は罵声を浴びせ、石を投げつけた。


 巨大ロボには事態が理解できない。

 ちゃんと命令された通りのことをしただけなのに、こんなに大勢の人間が自分に向かって怒りをぶつけている。

 搭載している人工知能が、いくらフル回転しても答えは出ない。

 混乱するばかりだ。


 僕が戻って来たのは、ちょうどその頃だった。


 大勢の人間に取り囲まれ、罵声を浴びせられたり、物をなげつけられたりしている我が巨大ロボを見て、僕はパニックになった。

 どうしてそんなことになってるのか、ワケがわからない。


 しかし、どう見ても我が巨大ロボがピンチに陥っているのは一目瞭然だ。


 僕は慌てて巨大ロボにしがみつき、空を飛んで逃げるように指示した。


 まさかこんなことのためにジェット機能を使う事になろうとは……。


 僕は悲しくてしょうがなかった。

 しかし、もっと悲しかったのは我が巨大ロボの方だろう。


 案の定、巨大ロボは動かなくなった。

 それも、頭を抱えてうずくまるという、今度は僕だけではなく誰がどう見ても落ち込んでいるようにしか見えないスタイルで動かなくなった。


 ああ…、また励ましてやんなきゃいけないのか……。






「……いや、だからさ、何度も言うように今回はおまえが悪いんじゃないんだって。事情を知らなかったんだからさ。しょうがなかったんだよ。うん。


 悪いのは業者だよ。事情をまったく知らせずに仕事だけ丸投げしたんだからさ。要するに僕らは利用されたんだよ。そう。騙されたみたいなもんだよ。


 だからさぁ、そろそろ立ち直ってくれないかな。だって悔しいじゃんか。そうだろ?このままだと、おまえ悪者だよ。新聞とか週刊誌とか見てみろよ。ひどいぞ。扱いが。「凶悪ロボ現る!」とか、「殺戮マシーン大暴れ!」とかさ。


 世界征服を企んでるらしい、みたいな噂まで流されてるんだぜ? この汚名をなんとしても晴らしたいじゃんか。

 そのためにはさ、依頼をどんどんこなして信頼を得るしかないと思うんだよ。


 こんな逆風の状況だけどさ、一応次の依頼が来てるんだ。

 だから、な? 立ち直ってくれよ。世間を見返してやろうぜ。おまえなら絶対できるって!」



 巨大ロボは再び立ち上がった。


 僕は信じている。今までは運が悪かっただけだと。

 そして、我が巨大ロボなら、いつか必ず大きな仕事をやってくれると。


 そのためには、今は目の前の仕事をコツコツやっていくこと。

 この逆風の中じゃ、もう仕事を択んでなんていられない。

 ただガムシャラにやるだけだ。


 次の依頼は浮気調査。正直、うまくできるか不安だが、やるしかない!


 巨大ロボ発進!






「やっぱりさ…、いくら仕事を択べないっていっても、さすがに浮気調査は無理があったんだよ。


 いや、おまえはがんばったと思うよ。うん。すごいがんばったと思う。


 ただ…なんていうかさ、浮気調査の基本である尾行がさ、うまくできないっていうのがさ、まあ…、つらかったよな。


 ちょっと動くたびに、ガシャーンガシャーンって音がするんじゃ、そりゃ気付かれちゃうよ。


 張込みとかしてる時もさ、見つからないように必死で身を隠そうとしてたけど、ビルの陰からチラッと見えちゃってたしさ。


 まあ…そんな調子じゃ、いくら調査しても浮気の現場なんて押えられないよな…。


 あ、いや、でも、僕はおまえを責めてるんじゃないんだよ。努力が報われなくて残念だ、っていう話でさ。うん。


 でも…、まあ、ね。過ぎたことをいつまでもクヨクヨしててもしょうがないよ。よく言うだろ? 諦めなければ夢はいつか叶う、って。前だけ見て、ドンドン突き進んで行こうぜ! な?」



 巨大ロボは再び立ち上がった。


 何と言うか…、落ち込み易いことは落ち込み易いが、意外と立ち直りも早いタイプなのかもしれない。それとも、僕が巨大ロボの扱いに慣れてきたということなのか…。


 まあ、何にせよ、すぐ立ち直ってくれるに越したことはない。


 次の依頼は殺人事件の調査。

 なんと、警察も解決の糸口すらつかめなかった密室殺人の調査だ。


 え~? なんでこんなややこしい事件がうちに来るの? って感じだが、贅沢は言っていられない。


 巨大ロボ発進!






「…いや、でもね、僕は今回は割と満足してるんだよ。いやいや本当に。


 そりゃ確かに結果は失敗だったよ。犯人つかまえられなかったんだからさ。


 でも、おまえはさ、犯行現場である密室の部屋に、サイズ的な問題で、入れなかったわけじゃない?


 しかも、その部屋には窓もないから覗くことすらできなかったわけだし。


 そんな状態でだよ? 一切、現場に足を踏み入れることなく、依頼人から事件のあらましを聞いただけという状態で、この事件の犯人が左利きの人間であるということを見抜いただけでも、僕はスゴイことだと思うんだよ。


 いや、僕も横でおまえの推理を聞いてて鳥肌立ったよ! マジで!


 警察の人間だってビックリしてただろ? 今まで犯人の利き手には誰も注目してなかったんだから。


 お陰で、容疑者が15人から14人に絞られたんだぜ?


 …いや、…まあ、もともと容疑者として名前があがってた15人中14人が、偶然にも左利きだったから、一人分しか絞れなかったわけだけどさ…。


 …それは、…まあ、アレだけどさ。


 でも、少しかもしれないけど、役には立ったわけだよ。間違いなく。自信持っていいと思うよ。


 だからさ、そろそろさ、また立ち直って……。え? 何? ダメ? あまりにも失敗続きで立ち直れない?


 いやいや、そこをなんとか…。ええ~? どうしてもムリ?」




 困った。


 こういうパターンは初めてだ。


 M博士に電話で聞いてみても、落ち込むのは故障じゃないから直しようがない、との返事が返ってくるだけ。


 う~ん。本格的に困った。


 しばらく考えたが、良いアイデアは出そうにない。

 僕は仕方なく、気分転換でもしようと、街へ遊びに行くことにした。


 すると、そんな僕を巨大ロボが物欲しげな目で見つめる。


「?」


 どうしたんだ、一体?


「……何? もしかしておまえも一緒に行きたいの?」


 巨大ロボがこくりと頷く。



 と、いうわけで、僕らは連れだって渋谷に出かけた。


 思えば巨大ロボも、落ち込んでいる時以外は休みなしで働いてきた。

 たまにはこうやって気分転換をするのも良いだろう。

 ま、人工知能だから、気分はそんなに関係ないかもしれないが。


 しかし、巨大ロボを連れて、あんまり渋谷をウロウロするわけにもいかない。

 適当に買い物でもして帰るか、と思っていたら、そこへ思いがけない依頼が舞い込んできた!



「カットモデルやりませんか?」



 そう声をかけられて、振り返ると美容師風の男が立っていた。


 最初、僕に対して言ってるのかと思ったが、その美容師風の男はまっすぐ巨大ロボの方を見て言っていた。


 え? マジで? 本当に巨大ロボにやらせるの?


 と思ったが、美容師風の男はやる気満々な感じだ。


 しかし、当の巨大ロボはやる気ないだろうな…と思いつつ巨大ロボの方を見てみたら、なんとまんざらでもない様子。


 そんじゃあ、しょうがない。どうなっても知らないよ。


 巨大ロボ発進!






「…だからさ、根本的な問題としてさ、毛がないんだからさ、無理に決まってるだろ?


 そんなの最初からわかってたことじゃんか。


 だいたい、言ってくる方もおかしいんだよ。見たらわかるだろ、って話だよ。


 それを、毛がないもんだから、配線コードを切ろうとしやがって…。配線コードをクシでとかし出した時はゾッとしたよ。僕が慌てて止めたから良かったものの、気付いてなかったら、今頃おまえスクラップだぞ。


 …いや、別におまえを責めてるわけじゃないんだよ。おまえが悪い、っていうわけじゃなくてさ…。


 …何て言うのかな、…まあ、要するに、気を付けようぜ、っていうことだよ。


 僕の推測だけど、今回のことはさ、おまえはおまえで思うところがあって引き受けたんじゃない?


 例えば……、ずっと失敗続きで、なんとか今の状況を変えたい。その為には自分が変わらなければ。ヘアスタイルを変えれば新たな自分が発見できるかも! とか思ってたんじゃないの?


 うん、うん。やっぱりそうか。


 そういう向上心というか、志みたいなもんはさ、僕もすごく良いことだなと思ってるんだよ。


 …ただ、肝心なヘアがないんだからさ…、しょうがないよ。


 本来ならさ、僕が判断して止めなきゃいけなかったんだよな。この依頼を。


 でも、僕もさ、ひょっとしたらおまえの写真がヘアカタログとかに載るかも、とか思ってさ。そうなったらちょっとおもしろいなとか思っちゃってさ、ついつい許しちゃったんだよ。


 いや、ま、それは、僕も悪かったと思ってるよ。ちょっと不謹慎だった。ごめん。


 だからこれからはさ、お互い気を付ける所は気を付けてさ、がんばっていこうぜ。な?」



 巨大ロボは再び立ち上がった。


 次の依頼は、データ入力の派遣の仕事。


 パソコンを使う仕事だから、機械同士ということで相性は良いかも。


 巨大ロボ発進!






「まさか、社内での人間関係で悩むとはな……。


 派遣だから、どうしても社員の人達に気を遣うっていうのはわかるけどさ…。


 でも、社員の人達がおまえのことを名前じゃなくて、「派遣さん」って呼ぶのが気に入らないっていうのは、それは、おまえ…ワガママっていうもんだよ。よそよそしい感じがして壁を作られてる感じがする、って言ったってさあ…。それはしょうがないよ。


 だいたいおまえ、名前って言っても、「巨大ロボ」じゃないか。


 それは、まあ、僕がちゃんと名前を付けなかったのがいけなかったんだけどさ。


 でも、社内で巨大ロボって呼ばれるくらいなら、派遣さんの方が良くない?


 え? 巨大ロボの方がいい?


 ん、まあ、本名で呼んでもらった方が気持ちいいのはわかるけど…。


 で、あれだろ? タイムカードの氏名欄に「巨大ロボ」じゃなくて「ロボ」としか書かれてなかったのが、最大のショックだったんだろ?


 …まあ、それは…あっちが失礼だとは思うよ。そこはちゃんと書かないといけないと思う。それは、そうだよな。


 でも「巨大」は、別に名字ってワケじゃないし…。そこまでショック受けなくてもいいんじゃない?


 まあ、おまえが、巨大であるということにプライドを持ってるのはわかるけどさ…。だけど、おまえが巨大なのは一目瞭然だし、みんなわかりきってることだから、あっちもワザワザ書かなかったんじゃない?


 うん。そうだよ。きっと。たぶん。


 だから、そんなに落ち込まないでさ、そろそろ立ち直ってくれよ。今回は仕事自体は割とできたんだからさ。


 実際、そんなデカイ手でパソコン入力がよくできたな、と思うよ。社員の人達もそこはスゴイって認めてただろ?


 蕎麦屋のバイトの時は、おつり渡すのにも四苦八苦だったのに。


 ……おまえも成長してるんだな。


 だからやっぱり、やり続けるっていうのは大事なことなんだよな。


 さあ、いつまでも落ち込んでないで、次の依頼に取り組もうぜ。前を向いて走り続けていれば、いつかきっと成功するさ! な?」



 巨大ロボは再び立ち上がった。



 その後も、僕らの元には様々な依頼が舞い込んできた。


 新商品のモニターなんかもやったし、お見合いの代役なんてこともやった。参議院選挙に出馬を要請されたりなんてこともあったっけ。


 しかし、僕らはことごとく失敗した。


 新商品のモニターをやった時は、その商品というのが「美肌ケア用品」だったため、もともと超合金製で表面がツルツルの巨大ロボが使用しても意味がなかった。


 お見合いの代役は、某有名企業の社長の御曹司が義理で見合いをすることになったが、行くのが面倒くさいので、代わりに行って、うまくことわっておいてくれ、という依頼だった。

 さすがに巨大ロボが行ったら、本人じゃないってバレるだろ、と思い、引き受けるのをためらったが、報酬額が良かったので引き受けた。

 焼け石に水かな、と思いつつも、一応巨大ロボを御曹司風に変装させて行ったら、意外にもお相手の女性の方にはバレずに滞りなくお見合いを終えた。

 これは初めて依頼を成功させられるか!? と思ったら、我が巨大ロボがお相手の方に一目惚れしてしまい、冷たい態度をとることができず、うまくことわりきれなかった。


 参議院選挙の時は、某政党から出馬を要請されて引き受けた。

 おそらく、政治家としての資質を期待されてというよりも、話題作りのための出馬要請だと思うが、巨大ロボは張り切って選挙に臨んだ。

 巨大ロボ目線のマニュフェストを打ち出して選挙活動に励み、声を枯らして支持を訴えた。

 そしてなんと、まさかの当選!

 涙を流して当選を喜び、万歳三唱。

 巨大だるまに目も入れた。

 …が、最終的には、人間じゃないからという理由で議員になることはできなかった。



 他にも多くの依頼を引き受けたが、結局は失敗した。



「あーあ。要するに、僕の、巨大ロボを使って大儲けする、という目論見自体が失敗に終わったって事か……」


 僕はため息交じりに、そう呟いた。


 しかし、そうは言っても、巨大ロボは無料で譲り受けたわけだから、元手は全然かかっていないわけで、そういう意味でのダメージはまったく無い。



 問題は、巨大ロボ自体をどうするか、だ。



 今さら開発者であるM博士に返そうとしても拒否されるだろう。

 と言って、我が家にはあんなものを置いておくスペースはないし、廃工場にいつまでも隠しておくわけにもいかない。いくら廃工場と言っても、そのうち見つかってしまうだろう。



 僕は仕方なく、巨大ロボに最後の指令を出した。



「なるべく人目を避けながら、日本全国を放浪してきて」



 巨大ロボは発進した。


 自慢のジェット機能を使い、あっという間に僕の見えない所へ飛んで行った。


 今現在、巨大ロボがどこでどうしているか、僕は知らない。




 もし、あなたが街を歩いている時、ビルやマンションの陰から、チラッとロボットらしき姿が見えたなら、きっとそれは我が巨大ロボである。たぶん。







       -終わり-

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