表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/50

第39話「地下牢行き断られる」

ーー翌朝


昨日は夜な夜なローデリヒの眠りを妨げてしまった挙げ句に添い寝までしてもらい、リーゼラはまたしても朝から猛省していたのだが…

一度心に巣食った恐怖というのはなかなか消えないもので、その翌日もその翌々日もリーゼラに悪夢を見せ続け、ローデリヒにも同様に眠れない夜をもたらした。


いずれも決まって我慢の限界を迎えたローデリヒが深夜にリーゼラの部屋を訪れ、何とか鎮まらせようと試行錯誤の結果、添い寝をするという形になったのだが…

三日目の朝には遂にローデリヒが、しばらくは夫婦の寝室で一緒に眠ることを提案した。




「ーいや!」


「いやいやいや!」


「ご心配には及びません!!私は一人で寝られますから!!」


自室のベッドの上で、リーゼラは青い顔で必死に首を横に振った。


「心配なんぞしていない。」


このところ寝不足でいつも以上に不機嫌なローデリヒが、すぐ隣で上半身を起こし、高圧的な目で凄んでくる。


「お前の悪夢に俺をどれだけ付き合わせる気だ。お前は俺と一緒に寝れば悪夢を見なくて済むのだろう。何が問題なのだ。」



気付けば壁際まで後ずさっていた。

恐ろしいローデリヒの表情にビクビクしながらも勇気を振り絞って言った。

「そ、それは、ローデリヒ閣下があまりにもお美しいので…」



「……はぁ?」


地を這うような低い声でこちらを容赦なく睨みつけてくる。


その表情からは、「この期に及んでなにふざけた冗談かましてやがるんだ貴様は」という苛立ちの声が聞こえる…気がする。



ふざけるどころか、それ以上の本音はないのだが…



「なんだ、俺が相手では不満だということか?」

と煩わしそうに首を傾げて眉を寄せる。


リーゼラは高速で首を振って慌てて否定した。


違いますー!!

あなたが相手だと心臓がもたないんですよーー!!いろんな意味で!

毎朝起きると着崩れた絶世の美男子が目の前にいるのが本当に心臓に悪いんですよー!!

わがままって言われるかもしれないけど!

私はもうあなたの美しさに耐えられないんです〜〜!!



実際それで熟睡できているのも事実なのだが…。



「はぁ…じゃあ誰ならいいんだ?」

片手で髪をかき上げながら、面倒臭そうにこちらを見る。



「あ…え…、私…私は……」


睨まれながらもどんどん距離を詰められ、物理的にも心理的にも追い詰められるリーゼラ…



「……できたらまた地下牢にでも戻していただけたら…いいなあ…なんて…」


ドンッ


リーゼラの顔の脇の壁に右腕を叩きつけられる。


「いつまで冗談を言うつもりだ。」



だから冗談じゃありませんってばーー!!

リーゼラは心の中で訴えた。



「仮に本気だとしても、今は地下牢に入れるわけにはいかない。」


「へ…?」


〝今は”…?


「地下牢じゃ俺の目が行き届かないからな。」



……つまり、監視ができないからと……



やっぱりこの部屋に移されたのは、監視が目的だったのですね!!



どおりで、と納得した。


だから、以前私が地下牢を希望した際も突然この部屋を勧めてきたわけだ。



でも、理由が分かった後は背筋の凍る絶望しかなかった…


結局ローデリヒが自らが解放してくれる日までは、どうあっても彼の元からは逃れられないということだ。




しんと急におとなしくなったリーゼラを見たローデリヒは少し身体を離して



「分かった…。では、今夜から添い寝はディルクにお願いするとし」

「是非ローデリヒ閣下がいいです!!ローデリヒ閣下でお願いします!」


ローデリヒが不穏なことを言い出そうとしていたので、言い終わらぬうちに全力で却下した。



ディルク様には悪いが、

ディルク様と添い寝なんてとんでもない!!

危険な予感しかしない!

フォルカー様も言わずもがなだ。


そういった意味では、女性に一切関心のないローデリヒが一番安心安全と言える。

消去法でローデリヒだった。



「……。」

ローデリヒがおもいきり顔を顰めてこちらを見ている。


どうやら本気でリーゼラがローデリヒのことを嫌がっていると思っていたようだ。それを突然宗旨替えしたから不審がられている。


「あは…あははは…」


リーゼラは無理矢理笑って誤魔化すことにした。


ローデリヒは訝しげにしばらくリーゼラの顔を鋭く見据えていた。




ーーー




「…それはともかく、今日またカストランドへ行く。準備をしておけ。」


「えっ!?」

リーゼラはあからさまに嫌そうな顔をしてしまった。


先日暗殺者と盗賊に狙われたばかりなのだ。

そのせいで夜中にうなされて困っているというのに…


「今度はお前にとっても悪い用事ではないはずだ。たぶんな。」



〝今度は”ねぇ…


確かに、先日の襲撃事件をすべて予測していた彼が今回は大丈夫と言うのなら、きっと大丈夫なのかもしれない。



リーゼラの不安げな表情を読み取ったローデリヒは

「安心しろ、お前のことは俺が必ず守る。」

と何のことはなく言ってのけると、すぐさまベッドを降りて廊下側のドアへ歩いて行った。


いつもは夫婦の寝室を通って自室へ戻るのに、どうしてだろうと思っていたら、勢いよく開けた扉の先に、フォルカーとディルクが聞き耳を立てていた。



「………。」






ーーー





数時間後、また私達は馬車に揺られてカストランド公爵領へ向かっていた。

あの時と違うのは、馬車がいつもと同じ窓付きの馬車に戻っていて、私の隣に最初からディルクが乗っており、前後に護衛騎士と使用人を乗せた馬車二台が走っているということだろうか。


この前よりも随分と仰々しいではないか…

この対応の違いは一体何なのだろう…


まあ、これが本来の公爵様の姿ではあるのか。

この前がおかしかったのだ、この前が。


護衛も付けずに出歩いて、自ら刺客に自分と婚約者を襲わせる大公爵がどこにいるというのだ…。



今回の外出の理由も、どうせ聞いても教えてくれないのだろう…


目の前で忙しそうに書類を読み漁るローデリヒを恨めしそうに睨む。




カストランドの中心部を少し過ぎた所で、ローデリヒはようやく書類から顔を上げ、

「ここからはお前に案内してもらうとしようか。」

と言った。


「ドアルドへ。」


「!!」



ローデリヒが、どうしてドアルドなんかへ…?


あそこは先日スラム街だと話していたはずなのに。



不審そうな私の顔を見て、ローデリヒがこう付け加えた。


「…そこに、お前が一番会いたがってる奴がいるはずだ。今も生きていればな。」



リーゼラはそれを聞いて、一人の相手しか頭に浮かばなかった。


半信半疑のまま歩き出し、気付いたら無意識に走り出していた。


ドアルドの地区に来ると、急に古びた建物が立ち並び、昼間でも薄暗い細い路地が細かく伸びて、その中を全体的に悪臭が漂い、不衛生で治安が悪い様子が窺えた。



リーゼラは、それより一歩先に進む勇気が出来ずに立ち止まる。


そもそも、考えていたよりもドアルドと呼ばれる地区がずっと広くて、これでは探しようがなかった。


途方に暮れて立ち尽くしていると、ローデリヒが

「こっちだ。」

とリーゼラの手を引いて誘導してくれた。


ローデリヒは、迷路のような道を迷わず進んでいく。

二人の後を護衛騎士と使用人達もついてくる。



しばらく歩いてから、ある建物の前で立ち止まった。


隣のリーゼラを見下ろして目で合図する。


「……。」

リーゼラもローデリヒに繋がれた手を離して、恐る恐るその建物のドアを開ける。


一部屋しかないその建物の中で、その相手は今にも死にそうな顔をして、藁で作った寝床に横たわっていた。



ああ……やっぱり……!




「ジーモ!!」




私はその変わり果てた老人に駆け寄った。


「ジーモ!!私よ!リーゼよ!!分かる!?」




「…リーゼ……げほっげほっ!……様…?」

ジーモは苦しそうに咳き込みながら、薄目を開けてリーゼラを見る。



「ああ、ジーモ!こんなに痩せこけて…!やっぱり私はあなたの元を離れるべきではなかったわ!!」


リーゼラはジーモの冷たくなった手を握りしめて、目からは大粒の涙が次々と流れ落ちた。

こんな暗くて冷たい部屋で満足に物も食べられず、ずっと独りで過ごしていたなんて…


ジーモは骨のように細くなった腕を上げて、リーゼラの頬に触れる。

病気と飢えで、命が尽きかけようとしているのが分かる。

リーゼラの目からは止まることなく涙が溢れ続ける。

「死なないでジーモ!死んではダメよ!!」


助けを乞うようにローデリヒを振り返ると、ローデリヒも頷いて、使用人達に指示を出した。



身体を拭かせながら全身に異常がないか確認し、大柄な騎士に背負わせて、使用人の馬車まで運んだ。


ジーモのことが心配で心配で取り乱しているリーゼラを見て、「安心しろ、すぐには死なない。」

とローデリヒが宥めてくれた。





「待ちな…」


「…!!」



ドアルド地区をもうすぐ出ようというところで複数の男達に囲まれた。


「出てくなら金目の物を置いていけ!」


全員ナイフのようなものを持っている。

人数は9人くらいだろうか。

服装は皆それぞれボロを着ているので、恐らくこのスラム街の住民達なのだろう。


護衛騎士の一人はジーモを背負っているため、二人の騎士が剣を抜いた。

使用人達は恐れの余り、ジーモを背負っている護衛騎士にしがみついている。


ローデリヒは「ちっ」と言って剣に手をかけようとすると、


「ご心配には及びません。」

とディルクが長い二本の剣を両腰の鞘から出すと、薄い唇を広げて笑った。


ローデリヒは頷くと、護衛騎士とディルクを残して足速にその場を離れた。


あのローデリヒが、前に〝ディルクは相当の手練れだ“と言っていた。

だからきっと大丈夫なのだろう…


それでも不安は消えない。

どうか無事に帰ってきてほしい…



リーゼラ達も無事に馬車に到着し、ジーモを使用人の馬車に運んでいると、すぐにディルク達も戻ってきたので、リーゼラはホッとした。



「ディルク」


「はい。彼らはスラム街出身のただの素人共でした。他領の民を傷付けるわけにはいかないので、軽くのしておくだけでやめておきました!」


軽く書類を片付けてきたかのように爽やかに答えるディルク…



でも素人とはいえ、9人にも囲まれてこの速さで誰も傷付けずに戻ってこられるのだから、やはりディルクも相当な剣の使い手のようだ…





こうして全員を無事に収容できた馬車は、再びアルトラントへと帰っていったのだった…








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ