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第35話「後日談」〜ローデリヒの誘い〜

仮面舞踏会の翌朝、王都から近い街では、早速昨日のデニスとローデリヒの一件が記事に書かれていた。



「〝父親の権力を傘に着て、やりたい放題のデニス第二王子、公爵に断罪される!”」



「くぅ〜!いいタイトルですね〜!!」

ディルクが執務室で新聞を読みながら声を上げる。


リーゼラも同じ新聞を手渡されて読んでみるが、昨日のことが事細かに詳しく書かれている。

何なら、前々回の宮廷舞踏会でフォルカーがデニスに公然と誹謗中傷を受けた話まで載っている。


リーゼラについてはほとんど記述がないが、ローデリヒとフォルカーについては、二人の美しい肖像画と共に、嫉妬による攻撃を一身に受けた義弟を庇いながらも、理路整然とデニスをやり込めるローデリヒが、まるでこの国の正義の味方であるかのように書かれていた。


…昨日のローデリヒの邪悪な笑顔は、どうみても正義の味方ではなかったが…。物は言いようである。



しかも今朝はこの記事が飛ぶように売れているらしい。



「しかし、なんでこんな詳しい話がこんなに早く…」

あの場に記者もいたのだろうかと、リーゼラが疑問に思っていると、ご機嫌なディルクがやって来て、


「ちなみに、明日の新聞では、あのませガキの貴族学校での悪事のあれこれが暴露された記事が出ますよ♪」

とるんるんとした笑顔で言った。



「そうなんですか!?というか、なぜそんなことをご存知なのですか!?」


「だって、この記事の情報流したの、私ですから!」


ふふふ♪と、ディルクが軽やかに笑った。


「情報操作は政治に必要不可欠ですからね!王都から近い自領と他領の新聞社はすべて押さえていますよ!ちなみにロー様とフォルカー様の肖像画を昨日のうちに各新聞社に配っておいたのも私です!」


「事前に!?え…っ!?」



事前に用意できるということは、彼らには昨日の事件は予定のうちだったということになる。


確かにデニスの様々な悪事の情報を知っていたことといい、マヌエラとの逢い引きを監視していたことといい、用意周到すぎる。

恐らく、舞踏会場で捉えたという不審者のことも事前に情報を得ていたのだろう。


そして、翌日にはもう新聞記者を使って、デニスの悪事を暴くような記事を書かせるとは、つくづく敵に回すのが恐ろしい相手だと、リーゼラは思った。



「あそこで殴らなくて良かっただろ?」

ローデリヒがリーゼラを見て、にやりと笑う。


「え、ええ…。」

デニスを殴ろうとしていたことをみんなの前で暴露され、思いがけず慌てる。


「えっ、あの第二王子を!?リーゼラ様も激情家な一面があるのですね!気性の荒い女性は好きですよ!私ちょっと惚れ直してしまいました!」

ディルクから謎の称賛を受ける。



「まあ、あの時リーゼラに殴らせるくらいなら、僕が先に殴ってやろうとは思ってたけどね。」

と同じく新聞を片手に、リーゼラの前に立ってにこりと笑いかけるフォルカー。

まさかフォルカー様にまで気付かれていたとは…


今日は朝食の後にフォルカーも執務室に来ていた。

さすがに朝食時に使用人達の前でこの話をするのは皆避けていたようだ。



「さすが、フォルカー様に馬乗りになられるご令嬢なだけあって、勇猛果敢ですね!!」


「!!?」


ディルクが不意に爆弾を投下する。


「ああ、あれはいま思い出しても興奮してしまう情事だったね。」

フォルカーが両手で自分の頬を包み、恍惚の表情を浮かべる。


「ほう。俺の知らないところでそんなことをしていたのか…。なかなか大胆な女だな。」

ローデリヒの目がぎらりと光る。


ひいぃ!!

リーゼラは、全身の血の気が引いて狼狽する。

「い、いや!誤解です!そんなこと、私は何も…!」



「してないって言うの?」


「ゔっ!」

フォルカーに詰め寄られて、言葉に詰まる。



「あの日、二人きりの馬車の中で、リーゼラが自ら僕に馬乗りになってきたのは、すべて僕の勘違いってことかな…?」

フォルカーが首を傾げながら人差し指を頬に当てて、わざととぼけた顔で聞いてくる。


「ゔぅっ…!」


「どうなのリーゼラ?」



「うっ………ぜ、全部……事実です……」

リーゼラは観念して、がくりと肩を落とした。



「馬車の中で、二人きりで、女性から馬乗りに…」


ディルク、変なパワーワードだけを連呼しないでちょうだい!!



「ああ!!その状況を想像しただけで興奮してしまいます!!フォルカー様が羨ましい!!私もそんな目に遭ってみたい!!」

ディルクが感極まったように叫ぶ。


「そうだ!このネタを知り合いの新聞社に持って行って、早速二人の官能小説を書いてもらいましょう!!」

「タイトルは〝いけない公爵夫人と馬車での秘め事”で。」


「……本当にやめて下さい……」

リーゼラは恥ずかしくて泣きそうだった。


そして右斜めから感じる鋭い視線が怖くて、そちらを見ることができない…。


「…なるほど、俺のいない間に相当愉快なことをしていたようだな?あとで二人きりの時にじっくり話を聞くとしよう。」


リーゼラは、ローデリヒに昨日のような獲物を狩るような視線と不気味な笑みを向けられ、ぶるぶると震えた。



ーーああもう!私ったら!!

勢いとはいえ、なんであんなことしてしまったのかしら!!

リーゼラは夜会の帰り道、フォルカーの首を絞めたことを思い返して、心底後悔したのだった。



ーー後日談だが、新聞に載せられたローデリヒとフォルカーの肖像画があまりに美しいと庶民の間で評判になり、遂には肖像画だけがそこかしこで売られるようになったそうだ…

なんとも恐ろしい兄弟である。




ーーー



「ちなみにあなたの義姉上であるマヌエラ様は、あの後何もお咎めは受けなかったようですよ。」

とディルクは言う。


「そうなんですね…。」


てっきり、王室側が不義密通の罪をマヌエラにだけなすり付けて処分を下すだろうと思っていた。


「マヌエラ様が王妃様に取り入ったそうですよ。」

ディルクの言葉に、リーゼラは納得した。


さすが、薪小屋時代に義母のマクダを上手く操って、様々な方法でリーゼラをいびっていただけのことはある。


マヌエラの行く末には興味がないが、これ以上自分を巻き込むのだけは止めてほしいと切実に願うリーゼラだった。





ーーー






「ところで、そろそろ寒い季節も終わる。お前のために新しい服を誂えてやりたいので、今度二人だけで出かけないか?」



フォルカーが執務室を出て行き、しばらく三人で各々の仕事に取り掛かっていたところに、突然ローデリヒが思いもよらないことを口にした。




!!!?



ローデリヒが私のために服を…!?

今までそんなこと一度もなかったのに、どういう風の吹き回しだろうか…!


しかも二人だけで……!!?



どういうことか分からずに、後ろのディルクを振り返るが、ディルクは二人の会話が耳に入っていないような涼しい顔で仕事を続けている。



リーゼラは突然のローデリヒの申し出に大いに頭を悩ませた…



「どうした?俺と二人では不満か?」

頬杖をつきながら、玩具を弄ぶような目でリーゼラを見つめて笑うが、その顔がまた心臓に悪い…。



「いえ!全然っ!」

咄嗟に返事をするも



「じゃあ決定だな。ディルク、5日後に二人だけで出かける。執事のオルゲンに準備をするように伝えておけ。あくまで二人きりで過ごしたいので護衛もいらんとな。」

とすぐに話を進められてしまう。


「畏まりました。」

ディルクもすぐさま立ち上がって礼儀正しくお辞儀をすると、さっと部屋を出て行ってしまった。




……!!!?



い、一体何が起こっているの…!!?



ローデリヒは指示だけ出すと、またすぐ視線を書類に戻して、それ以上喋ることはなかった。




しんと静まり返った部屋の中で、リーゼラの心臓だけが、ばくばくと大きな音を立てていた。









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