第26話「脱走②」〜弟への想い〜
本日も連投しております。
「…フォルカーのこと、礼を言う。」
「…へ?」
ローデリヒに肩を抱かれながら、突然突拍子もないことを言われて、おもわず間抜けな声を出してしまう。
「…あいつは、お前がここに来てから変わった。」
「……」
「心の寄る方を当てもなく探し回るのをやめ、
自分の足で立って歩き出すことができるようになった。」
「お前が地下牢から抜け出して、フォルカーとカストランドから帰ってきた夜、あいつは初めて、どんな形でもいいから自分も領政に携わらせてほしいと言ってきた。俺やお前の力になりたいのだと。」
「……!」
フォルカー様がそんなことを…
「それからは、フラフラと外に出かけていくこともなくなり、お前への用事以外は、家の図書室でひたすら自領について学んでいたようだ。」
「……。」
いつもふざけた冗談ばかり言っていたフォルカー様が、陰でそんなことをなさっていたなんて…
…でも本当は、あのふざけた冗談もリーゼラの緊張や不安を和らげるためにわざと言ってくれていたのを知っていた。
「先日の夜会の後に、改めて俺にその話を頼みに来た。あいつは生まれて初めて、自分の生きる目的を見つけたと言っていた。」
「そう、だったんですね…」
本当に、本当に、よかった…
幸せに向かって歩き始めたフォルカーを思い、おもわず目頭が熱くなった。
心なしか、ローデリヒに回された腕にも力が込められたような気がした。
ローデリヒの逞しい身体に抱き寄せられ、その温かい体温を感じていると、心も身体もぽかぽかと温かくなり、幸せな気持ちになった。
…少し酔いが回ったのかもしれない。
ローデリヒもいつもに比べると饒舌な気がする。
ローデリヒは表情を変えず、真っ直ぐ前を見たまま、徐に話し始めた。
「…今日は亡くなった弟のエックハルトの21歳の誕生日だったんだ。」
「……!!」
…だから、グラスが二つ用意されていたのね…
「あいつは昔から素直で人懐っこい性格で、周りからの人望も厚かった。あいつこそが跡取りに相応しいと思っていた。だから、いずれは爵位を譲って、俺がエックハルトを隣で支えればいいと思っていたんだ…」
「なのに…、助けられなかった…」
その声には、深い後悔の色が滲んでいた。
肩に回された手にも力がこもる。
「俺にとって大事な者は数えるくらいしかいないが、その者達ですら、いつもまともに守ることができない…。」
開いた掌を見つめるその青い目は、自分を無能な役立たずだと責めているようだった。
「俺はそういう者をこれ以上増やしたくないのだ。」
そう言ってローデリヒはリーゼラを見た。
「…お前は、俺の大事な者になってくれるなよ。」
ローデリヒは、いつになく柔らかく、悲しげな表情でこちらを見ていた。
その顔におもわず胸がときめいた。
…ローデリヒ閣下は、本当はとてもお優しい方なのだわ…
結婚を形式的なものとして捉えているのではなく、妻を家族として迎える覚悟をもっているのだ。
…そんな相手と結婚できたらどんなに幸せだろうかと、ローデリヒの未来の結婚相手がほんのちょっと羨ましかった。
フォルカーと同じく、家族の愛情に飢えて育ったリーゼラにとって、それはずっと手に入れたくてしょうがないものだった。
きっとそれは、今のこのローデリヒの腕の中のように、心地よくて安心できる居場所なのだろう…
自分はローデリヒとの結婚を拒絶されてしまったけど、これからの人生で、自分もそんな相手と出会うことができるだろうか…
運命の相手という者がいるのなら、是非会ってみたい。
柄にもなくそんなことを思いながら、ローデリヒの腕の中で心地よく目を瞑った…
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