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真実への一歩

 三郷ちゃんと話していたその人は年配の男性だった。


 親しそうに話しているのは遠目からでもわかる……。


 近くで見た訳じゃないからわからないけれど、その人を知っている気がした。



 でも、どうして……。



 俺は遠目から見るその人が俺が知っている人にしか見えなくなっていた。


 しばらく話した後、二人は和やかに別れ、その人は集合団地へと帰って行った。

 こっちに戻る三郷ちゃんも嬉しそうだった。



「お待たせ!」



「もう大丈夫? さっきの人って……?」



「あーー、お父さん」


 ……言葉が出ない……。


「腕時計、渡してきた。 やっと渡せたーー。 さ、行こう!」



 頭の中を整理し切れていなかったが、一瞬にして真っ白になった……。

 三郷ちゃんに話そうと思った事もこんな感じじゃ今日は話せない……。


 今、自分で見た光景を何度も何度も頭の中で再生する。

 でも何度再生しても理解できない自分がいた。


 俺の勘違いなのかな……。

 もし勘違いじゃなかったら……どういう事!?

 でも確信が持てない……。

 完全にパニックだ……。



 その後行った先で三郷ちゃんはショッピングを楽しんでいたが、俺は上の空で、三郷ちゃんには悪いが一人で考えたかった。

 さっきの自分が見た事の意味を知りたいが、聞ける人もいない……。


 何とか三郷ちゃんとの時間を過ごし、今日は用があるからといつもより早めに解散した。

 帰りの車の中。


「あ! 何か話したい事って言ってたのは?」


 三郷ちゃんが俺が言っていた事を思い出した。



「あ……、また今度話すよ……」



「え? 何? ちょっと気になるーー! 今度?」



「うん……、今度……」



「わかったーー」




 それからは、一人でこれまでの事を思い出し考える日々だった。

 けれど、答えはいくら考えても出てこない……。

 その間も三郷ちゃんはうちへいつもの様にやってくる。

 時間ばかりが過ぎるのがもどかしく、早くこの現状をどうにかしないと、と気持ちばかり焦っていた。



 ある日の昼休憩中、いつもの様に定食屋でお昼ごはんを食べている時だった。

 俺のスマホが鳴った。

 LINEが入った事を知らせる音。

 見ると実咲からだった。



 『こんにちは。

  今日も仕事かな。

  お疲れ様。

  返信が随分遅くなってごめん。

  司、話したいって言ってたよね?』



 実咲から連絡が来て嬉しくて安心した自分がいた。

 俺はすぐに返事を返した。



 『返信、待ってたよ。

  話したい事あるよ。

  実咲、会いたいんだ。』


 自分が思ったそのままの気持ちをLINEで送った。

 会いたいなんて迷惑だったかな……。

 相手が実咲でもまだまだ臆病だった。

 返事が返るまでの時間が長く生きた心地がしなかった。

 食べる事が止まった目の前の日替わり定食もどんどん冷めていく。

 実咲の返信を待ってる間にもう事務所に帰らなきゃいけない時間になりつつあった。

 急いで残りを食べ始めたが正直味はあまり感じられなかった。

 定食屋を出てスマホを片手に事務所へと戻る。

 歩きながらもスマホを気にして何度も画面を見る。


 会社の玄関前でスマホが鳴った。



 『私ってわかるのかな……。

  怖いけど……。

  私も話したい事があるの。

  会って話そうか。』



 実咲のLINEにいろんな思い詰めていた事が一瞬一気に吹き飛んだ。

 生きた心地のしなかったさっきまでとは真逆で、今は指の先まで全身で幸せを感じている。

 俺って単純だな……。


 その時は、実咲に会える嬉しさだけだった。

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