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第2の人生、開幕

 母さんが亡くなり、週末の休みには家の片付けをする日々が続いていた。

 少しずつ変わっていく家の中。

 一人だとこの家は広すぎる。


 何日かぶりに会社へ行った。

 またいつもの毎日に戻る。

 でも、もう今までとは違う。

 慌てて家に帰らなくてもよくなったし、毎日寄ったスーパーへも行かなくてよくなった。

 その生活に慣れるまでに少し時間がかかった。


 ある時、事務所に木村さんがやってきた。


「あ、木村さん。 今日、営業会議?」



「そう。 さっき着いたとこ。 今日夜、時間ある? 飲みに行かない?」


 あ、そっか……、こんな事もしていいんだ……。


「あ、いいよ。 ってか、飲みに行くの何年ぶりだろう……? 今日、みんな来てるの?」



「確認してないけど……たぶん来てると思う。 まだ予定確認してないけど声かけるつもり。 また夕方連絡するね。 準備しといてーー」



 今まで営業会議で本社に集まっても、俺に気を使って声をかけるだけにしてくれていた。

 母さんが亡くなって、元気付けようとしてくれてるのかも知れない。

 俺は久々の同期からの誘いに緊張していた。



 木村さんから指定された場所は、飲み屋街の中の居酒屋で店頭に赤提灯がたくさん釣られた店だった。

 賑やかな店内。

 こんなところに自分が足を踏み入れていいのか……。


 飲み屋街を歩く事自体、約20年ぶり?

 浦島太郎の気分だった。

 自分がこんなところを歩いている事にまだ罪悪感に似た感じを持ってしまう。



「曽根と飲むの、久しぶりだね。 何か新鮮だわ……」



「お母さんの事は残念だったね。 もう片付けとか終わった?」



「週末にやってるけどなかなか進まないねーー」



「お母さんのもの、たくさんあるの?」



「服とかさ、そういうのは片付いたかな。 この際さ、俺のものも捨てようかなと思って規模を拡大してやってる。 一人で住むには広すぎるから実家、売り払おうかなと思ってるんだ。 引っ越そうかなぁと……」



「それいいかもよ、心機一転というかさ、曽根、お母さんの為にやってきたからこれからは自分の為に時間もお金も使えばいいと思うよ」



「やりたい事やればいいよ! 恋愛だって解禁だよ。 曽根、独身だから俺らの中じゃダントツに見た目も若いし……。 俺たちは……腹も出てきた……」



「やりたい事……ないよ。 パッと浮かばない……」



「ジム行くとかさ、環境を変えてみたら? 今までと行動範囲が一緒だと変わらないからそこから変えてみる。 カフェ巡りとか、山登りしたり、何かのサークルみたいなのに入ってみたり……。 お見合いパーティーみたいなのに参加するのは?」



「えぇーー……。 正直面倒くさい……」



「何かを変えると変わってくる場所は絶対あるはずだからさ。 何かやってみなよ!」


 自分のために時間もお金も使え……か……。

 少しずつ考えてみようかな……。



 俺は実家を売り払う事に決めた。

 それと同時に中古のマンションを探した。

 いろんなマンションの内覧をさせてもらい、その中の1つを契約した。

 俺の第2の人生、新しいところから始めるには良さそうなところを見つけられてよかった。


 実家の片付けも一気に始まった。

 引っ越しも兼ねてなのでマンションに持って行くものだけを固めておいて、他のものは確認しながら破棄していく。

 これが気持ちいい程決断が早い……。


 家電も全て買い替え。

 母さんの形見になるものやアルバム以外は破棄。

 自分のものは服はほとんど捨てて買い替え、ゲーム機もいろいろ持っていたけど全て破棄、欲しくなったらまた買えばいい。

 卒業アルバムや写真類、思い出のものは持っていく。

 楽しくなる程、捨てる事に悩まない。


 少しずつマンションへ荷物を持って行くが、物が少なくてガランとしている……。

 少しずつ生活していれば嫌でも物は増える……。

 この荷物の少なさが気持ちよかった……。


 これから始まる自分の人生。

 遅ればせながらだけど、楽しみしかなかった。

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