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それぞれの道へ

 あの日以来、実咲とは会っていない。

 会社でも相変わらず会わないし、よく会っていた定時後の駐車場までの道のりでも不思議と会わなかった。

 たぶん実咲が会わない様に気を配っているんだろうな……と、思っていた。


 別れたものの、子供ができてないかな……と、そんな希望を持つ自分がいた。

 実咲が隣にいる未来になるのか、そうじゃないのか……。

 実咲に苦労はさせたくない、その理由で別れたのに、もし子供ができたらその苦労を実咲にもさせるのか……。

 矛盾で何が何だかわからなくなる……。


 ただただ実咲が好きでずっと傍にいて欲しいのに、簡単そうで俺には簡単ではなかった。


 ある日、昼休みに出遅れた俺は窓際にあるコピー機で書類が出来上がるのを待っていた。

 ふと、窓の外を見ると実咲が同じ課の人と話ながら歩いているのが見えた。

 窓から見えた実咲はいつもの様に朗らかに一緒にいる人と話している感じだった。


 出社はしてた事に安心した。

 俺は実咲が見えなくなるまでずっと目で追ってしまう。

 今はこうして実咲を遠くからしか見る事ができない。

 まだ全然好きなんだけどな……。


 毎日あった連絡もあれから取ってない。

 話がしたい、声が聞きたい、会いたい……でも、してはいけない現実。

 悶々と毎日を生きていた。

 そんな毎日に耐えられなくなり、実咲に電話した。

 子供はどうだったのかが気になって……という口実にはなるがどうしても声が聞きたくなった。



「司? どうしたの?」


 久しぶりに聞く実咲の声。

 やっぱり落ち着く……。



「実咲……元気なの……? その後……どうなの?」


 俺は子供の事を聞いた。



「司に連絡しようと思ってた……。 赤ちゃん、できてなかったよ……」


 それを聞いて落胆した自分がいた……。

 最後にそこにしがみついたがダメだった……。

 言葉が出なかった。

 もう本当に実咲を失ってしまうんだと確信した瞬間だった……。



「そっか……。 俺さ、できてて欲しかった。 苦労させたくないけど、でもさ、最後まで実咲と一緒に過ごす事を諦めたくなかった。 矛盾だよね。 自分でもそう思う。 けどさ、やっばり実咲には幸せになって欲しいんだ。 結局はそこにたどり着くんだよ。 だから実咲、幸せになってね。 いつも笑っててよ」


 最後に未練タラタラな本当の気持ちを伝えた。



「ねぇ、司。 連絡先、消さなくていい? お守りにしたいの」



「じゃあ、俺もそうしていい? 俺もお守りにする」



「わかった……」



 電話を切って本当の終わりを告げた実咲との恋愛。

 まだまだ愛おしいこの感情としばらくは付き合っていかなきゃいけない。

 もうすぐ母さんは退院する。

 仕事と母さんの看病とそれだけを懸命にやろうと、恋だの愛だのはもういらない……そう思った。



 年が明け、総務課から求人募集の依頼が人事課にあった。

 事務職1人、募集をかけて欲しいという依頼だった。


 何となく心がザワついた。


「どうやら、窓川さんらしいよ。 最近、体調崩しててずっと休んでるんだって……。 本人から退社の話があったみたいで……」


 その日のうちに詳細がわかった。

 実咲、辞めるの……?


 実咲、どうしたんだろう……。

 どこか悪いのかな……。

 それともやっぱり俺がいるのが嫌なのかな……。


 もうかけないと思った電話を実咲にかけた。


 電話の先の実咲は、いつもの様に明るくなく、声もか細かった。

 体調が良くないのはわかった。


「実咲、大丈夫? 今日、実咲が会社辞めるって聞いて……。 どこか悪いの?」



「うん……。 最近調子悪くて……ずっと寝てるかな。 会社にも迷惑かけるから辞めようと思って……。 でも大丈夫だよ。 病院にも行ったから……。 それより、電話してくれてありがとう。 司は? 元気? お母さん、退院したんでしょ?」



「ごめん、もう電話しないって思ってたんだけど……。 俺のせいなのかなとも思ったから……」



「司、それは違うよ。 司との事が理由とかじゃない。 だから気にしないで。 大丈夫だからね」



「何かあったら連絡してよ。 俺ができる事、やるから」



「ありがとう……」



 実咲の後任も決まり、体調が良い時に出社して引き継ぎをして、2月末で退社した。


 実咲がいなくなった。

 俺は何も言う権利はない。

 やっぱり同じ会社というのは居心地がいいものではなかったのかな……。

 あの時、それは違うと言っていたけれど、本当は俺の事を思って辞めてしまったのかな……。


 もう実咲と会えないのか……。

 本当の終わりだった。

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