これから
取れた3日間の休みは、入院の手続きや、母さんの身の回りの必要な物を病院に持って行ったり、家と病院の往復ばかりしていた。
母さんも初日に比べると話せる時間も少しずつ増えていっていたがまだまだ万全ではない。
疲れない程度に少しずつ話す程度だった。
母さんが搬送された日、夜遅くに家に帰って母さんが朝干した洗濯物を取り込んだ。
2月は乾きが良くない。
夜に取り込んだから尚更だ。
取り敢えず取り込んだはいいがどうやって畳むんだっけ……?
何となくやってみるが母さんの様にうまく畳めない。
洗濯物もしなきゃいけないんだ……。
洗濯機ってどうやって使うの?
洗剤ってどこにある?
柔軟剤ってどこに入れるの?
洗濯一つでも何もわからない……。
一番困ったのが母の保険証。
母さんの貴重品なんてどこにあるか知らない…。
母さんのの部屋を探してみたけれど、全然見当たらない……。
母さんと少し話せる様になって聞くとキッチンにある引き出しだった……。
貴重品って自分の部屋に置く物と思っていた。
キッチンと聞いてあまりまだ話せない母さんだったが、なぜ?と聞きたくなった。
家の事は母さんしかわからない事ばかりだった。
母さんがいて、この家は動いてたんだ。
母さんが倒れてから気付くなんて……。
トイレに行く事と、お風呂に入る事、それが必要最小限の母さんの動いていい事だった。
特にお風呂は入っている間は転倒の恐れもあるので近くにいてあげないといけない。
基本、横になっている方がいいらしい。
ベッドもリクライニングできるものに変えないといけないんだ……。
あ、ごはんももう作れないって事?
じゃあ、ごはんは俺が作るのか……。
いや……、俺、何も作れないけど……。
でもそれしかないよな……。
いろんな事に気付き始め、少しずつこれからの生活を思い描ける様になってきた。
と、同時に心の中にモヤがかかった。
これって……。
確信に似たこの気持ちをどうやって打ち消そうかと考えても打ち消す事ができなかった。
母さんには俺しかいない……。
母さんをどこかに預ける金銭的な余裕などない。
息子である俺は母さんを看る義務がある。
母さんは、これから少しずつできる事が減っていく。
今よりだんだんと大変になっていく。
そしてそれはいつまでという期限はない。
それでも母さんには長く生きて欲しい。
母さんの為に、自分の生活も変えるしかない事を悟った。
3日振りの出社、課長に時間を作ってもらい、3日休みを取らせてもらった事のお礼と、母さんの事を話させてもらった。
1番に伝えたのは営業から外してもらう事だった。
母さんを看なければいけない為、残業が多く土日も仕事になる事が多い営業職では難しい。
何より、転勤できない……。
そんな理由だった。
課長にも、何か他に方法はないのかと営業職から退く事を止められたが、他には見当たらなかった。
俺は営業という仕事が好きだったしこれからも続けたかったけれど、どう考えても無理だった。
人事が動くギリギリの時期に申し訳なかったが、他部署に変われないか確認してもらう事をお願いした。
何日か振りに社内で実咲と会った。
「大丈夫? 顔が疲れてる……」
「大丈夫。 実咲、今日夜20時くらいに会える? ちょっと話したいんだけど……。 病院行ってからになるからそれくらいの時間になるんだけど……」
「あ、いいよ。 どこかで待ち合わせる?」
「実咲、その時間、家でしょ? 家でいていいよ。 俺、実咲んち行くから。 いつもの待ち合わせのところ着いたら電話するから出てきてもらっていい?」
「うん、わかった……」
実咲にうまく話せるか不安だったが、話さない訳にもいかない……。
頭の中を整理して……。
いや……それ以上に不安しかなかった。
俺が悟った答えを受け入れる覚悟が俺にはまだできてなかった。




