第百三十四話:知恵を借りる
竜人達に事情を話すと、快く引き受けてくれた。
元々、アダマンタイトには興味があったらしい。以前加工を手伝ってもらった時は、アダマンタイトとは伝えずにやったのだけど、わかる人にはわかっていたようだ。
だから、ぜひまた加工してみたいという人は多く、私からの依頼は渡りに船だったらしい。
加工に関しても、温度に関しては竜の協力を得て解決しているし、道具に関しても問題はないようで、すぐに作って見せましょうと意気込んでいた。
相変わらず、竜人達の熱意は凄いと思う。閉じられた世界にいる分、そう言った情熱が強いのかもしれないね。
〈ハク、戻ったか〉
「はい、ただいま戻りました」
そうして、竜人達に加工を頼んだ後、私は宣言通りお父さんのいる洞窟へと向かった。
威厳のある銀色の竜に迎えられると、私も自然と背筋が伸びる。
お父さんに対しては、なかなか敬語が抜けない。別に、敬語じゃなくても怒らないだろうけど、やっぱりお父さん相手には敬語の方がいいと思う。
〈あれから何か変わったことはなかったか?〉
「それなんですが、少し相談したいことがありまして……」
私は、神力のことについて説明する。
私の体にあった魔力は、今はほぼすべて神力に置き換わってしまっている。
これは、魔法を使うなどして消費しても、寝て回復した時にはまた神力が補充される形なので、もう本質から変わってしまっているのだろう。
一時的にとはいえ、神様になってしまったのが原因だとは思うけど、これによる弊害が出てきた。
それが、神力による威圧である。
いや、正確には畏怖かな?
大量に魔力を所持している者が、何の制御もしないで歩いていた場合、周りからは、その人物に何かオーラのようなものが見えることがある。
それは、魔力の本質が攻撃寄りであることから、威嚇として作用し、なんとなく近寄りがたい雰囲気を感じたり、あるいはこいつただもんじゃねぇ、みたいな印象を抱くわけである。
だが、あくまでそれはただの威嚇だ。同じくらい強い者だったら、感じ取ることができていても怯むことはないし、そもそも威嚇として機能しない。
しかし、神力の場合はまた別だと思う。
同じ条件で、神力を何の制御もしないで歩いていた場合、同じようにオーラが見えることは確かだが、与える印象としては、威嚇と言うよりは恐れである。
この人には関わってはいけない、怒らせてはいけない、と言った感情を抱き、怯えることになる。
威嚇とやってることはそんなに変わりはないけれど、その規模が違うと言ったところだろうか。
怖いもの知らずが、相手の力量を測れずに突撃していくようなシーンがあったとして、魔力の場合はそのまま突っ込むが、神力の場合は本能的に危険を察知して止まるみたいな、そんな違いがあると思う。
もちろん、私はこの神力をきちんと制御していた。竜珠も作ってもらい、できる限り漏れ出るのを防いでいたつもりだった。
しかし、見る者によっては、まだまだ制御が甘いことがわかった。だから、できることならもう少し抑えたいのである。
〈なるほど。確かに、神力は竜に対しては少々刺激が強い。しかし、エンシェントドラゴンであるお前が畏怖するというのはどうなんだ?〉
「も、申し訳ありません……」
この相談をすることになった原因であるエルは、お父さんにそう言われて申し訳なさそうに縮こまっている。
現在残っているエンシェントドラゴン達は、それこそ神様が地上にいた時代から残っている竜達である。それ故に、神力を身近に感じてきた存在なわけで、他の竜と比べたら、よっぽと耐性が高いのだ。
一時は、神獣として神力を扱えていた時期もあったようあったようだしね。
だから、他の竜が怯えるならともかく、エルが怯えるのは少し問題なのではないかと言いたいわけだ。
ここにホムラがいたら絶対にエルのことを笑っているだろう。
邪魔しちゃ悪いからって外で待っているけど、このことは言わない方がよさそうかな。
〈それで、ハクは神力をどうにか抑える術が欲しいということか〉
「はい。何かいい知恵はありませんか?」
〈もっとも簡単なのは、竜珠にさらに神力を詰め込むことだろう〉
何か方法はないかと問いかけてみると、そう言った答えが返ってきた。
竜珠は、言うなれば魔力タンクである。
本来は、竜が特に認めた相手に、自分の力を分け与える目的で作られるものだが、その相手は別に自分でも構わない。
竜珠にした時点で、自分の魔力とは別物になるので、自身の所有量を減らしつつ、力は落とさない、そんな使い方ができるわけだ。
だから、今の神力の量に問題があるのなら、さらに竜珠に神力を移してしまえば、丸く収まるわけだ。
ただし、これには色々と危険が伴う。
と言うのも、竜珠には魔力、私の場合は神力だが、それが大量に秘められている。いくら空間魔法で容量を拡張しているとはいえ、最初に神力を込めた時点で、ほぼ容量一杯詰め込んだような形なのだ。
すでにパンパンに膨らんでいる風船にさらに空気を入れれば破裂する。それと同じように、無理に竜珠に神力をねじ込もうとすれば、竜珠自体が割れてしまい、内包されていた神力がそこら中に溢れ出すことになる。
もちろん、私はすでに竜珠を体に取り込んでいるから、それらはいずれ私の元に戻ってくるだろうけど、今の状態でもエルが若干怯えるほどの神力なのに、その何倍もの量の神力が一気に解放されたりしたら、その影響は計り知れない。
もしかしたら、神力の影響で新たな魔力溜まりが生まれてしまう可能性もあるし、神力の移し替えには細心の注意を払う必要がある。
そもそも、容量がいっぱいだから、その容量をさらに拡張する作業も必要だしね。
いつ割れるかもわからない風船を持ちながら、鋭い針で風船を突きまわるような所業を要求されるわけで、下手したら大惨事の危険な作業なのだ。
「なら、竜珠をもう一つ作ることはできないのですか?」
〈作れなくはない。ただ、基本的に、竜珠を取り込むことができるのは一人一つまでだ。取り込むこと自体はできるかもしれないが、それは体内に爆弾を抱えることとそう変わりない〉
「そうですか……」
二つ目の竜珠をさらに作って、それを取り込む場合、何かのきっかけで片方が神力を解放することになった時、もう一つの方も連鎖的に開放されることになる。
ただ単に神力が解放されるだけならいいが、それには破壊が伴う場合もあるのだとか。
要は、抑えられていた力が爆発して、私の体を破裂させてしまうかもしれないということである。
いくら私の体が頑丈でも、元が私自身の力である以上、それに耐えるのは難しいし、そもそも破裂してしまった時点で、周りに多大な影響を与えることは間違いない。
流石に、娘に爆弾を抱えて生きろとは言えないようだ。まあ、私だって、そんな危険なことしたくないけども。
そういうわけで、二つ目の竜珠を作ることは実質不可能である。
そうなると、最初に行ったように、今の竜珠の容量を拡張してってことになるんだけど、大丈夫かな。
私は、胸の間に収まる竜珠を手でさすりながら、不安を募らせた。
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