第七十六話:ユーリの行き先
帰った後、ユーリの話を聞きながら夕食を食べた。
結果的には女性を助けることができてよかったとはいえ、ここまで騒ぎが大きくなったのはユーリのせいでもある。
そりゃ、普通に考えて10歳程度の女の子が大の大人を投げ飛ばし、あろうことか車を大破させたのだから。
これがただ、地面に転がしただけだったらそこまで騒がれもしなかっただろう。車を壊し、警報が鳴り響いてしまったからこそ、注目を集めてしまったのだ。
ユーリも今はただの人間ではないのだし、そこらへんは注意すべきだったと言えるかもしれない。
「大の大人を軽々投げ飛ばせるって、ユーリさんって人間っぽいけど、もしかしてハク兄と同じで精霊だったりするの?」
「半精霊かな。元は竜人で、竜の子供だったんだけど、私と結婚するために半分精霊になったの」
「半分精霊とか竜人とかわけわからないんだけど」
一夜が頭を押さえている。
まあ、こうしてみるとユーリの種族って私と似ているのかな?
竜人だから竜の力を多少なりとも使えるし、半分精霊だから精霊としても認識される。
まあ、流石に精霊のように消費なしに完全に姿を消すことはできないみたいだけど、竜人の翼を消すことくらいは簡単にできるようなので、そこらへんは便利なのかもしれない。
《その、くるまの弁償はいいのか? 壊してしまったんだろう?》
《それに関しては原因となった不良に払わせるってさ。かなりいい対応してくれたみたいだね》
どうやら、私が来る前にその車の持ち主もいたらしいのだが、そういう話をしていたようだ。
本来なら、ユーリが壊したのだからユーリに払わせる可能性もあったし、そうでなくても保険会社に払わせるのが普通だと思うんだけど、車の持ち主もユーリの活躍は見ていたらしく、嬢ちゃんは悪くない、と言ってくれたのだそうだ。
いい人でよかったね。怖い人の車だったら、ユーリも何を言われていたかわかったもんじゃない。
《それにしても、ただチンピラに絡まれてただけで警備隊が来るって結構なことだね。常に巡回してるの?》
《巡回もしてるだろうけど、今回は通報されたから来たんだよ。通報は、まあ、この国の人はみんな通信魔道具みたいなの持ってるから誰でもできるしね》
《へぇ、あれって結構高かったはずだけどね》
《こっちでもそれなりに高いけど、もはや必需品レベルだと思うよ》
今時この国で携帯を持ってない人は稀だろう。
私が学生の頃は、学生はまだ持たないことも多かったけど、最近ではどうやら普通に持っているようだし。
時代の進歩って凄いね。
「そういえば、ユーリはどこに行ってたの? 結構遠かったみたいだけど」
「大した用事じゃないよ。ただ、家がどうなってるか確認したかっただけだから」
「ああ、そういう」
まあ、そりゃ気になるか。
ユーリが死んでからまだ一年程度しか経っていないようだし、まだ部屋は健在だろう。
それがアパートなのかマンションなのか、それとも実家なのかはわからないけど、どうなってるか様子を確認したいと思うのは当然のことだ。
私の部屋はすでに別の住人が住んでたみたいだけど、ユーリはどうだったのかな?
「ユーリの家ってどんなところ?」
「私は実家暮らしだったよ。だから、見に行ったのは家族の確認も兼ねてたんだ」
「なるほどね。元気だった?」
「うん、多分ね。窓の外からちらっと見ただけだからよくわかんなかったけど、多分大丈夫だと思う」
そう言って、少し俯いた。
家族か。会えるなら会いたいだろうが、今のユーリが会ってもいいのかどうかはわからない。
一応、ユーリの見た目は転生前とあまり大差ない。年齢は違うけど、顔立ちはほとんど一緒らしいし、家族が見ればすぐにユーリだとわかることだろう。
ただ、ユーリは死んだことになっているはずだし、そんなところに会いに行ってしまったらどうなるかって言う心配がある。
信じてもらえなくて突っぱねられれば傷つくことになるし、逆に信じてもらえても、ずっとこの世界にいることになりそうである。
ユーリがどう思っているかはわからないが、ユーリが私を捨てて元の家族を選んだなんてことになったら、お父さんが黙ってなさそうだし、その選択はあまり推奨できない。
それに、私達は転生した身だし、どちらが元の世界かと言われたらあちらの世界である。
吹っ切れるなら会ってもいいかもしれないが、その覚悟がないなら会うのはやめた方がいいかもしれないね。
私も、最初に来た時は、一夜との別れは辛かったし。
「後、ついでに拠点の方にも寄ってきたよ」
「拠点って、ローリスさんのところの?」
「うん。完全に別行動になっちゃったし、どうなってるかなって」
そういえば、そちらのことも考えなければならなかった。
まあ、今回は神力を手に入れた人達の試験的な転移であって、私はただのおまけに過ぎないから、別に離れて行動しても構わないとは思うけど、連絡くらいはしておいた方がよかったかもしれない。
ローリスさんも、一人で10人相手にするのは大変だろうしね。
「どうだった?」
「とりあえず、普通に生活できてるみたい。今のところは食料に余裕もあるし、外に出る用事はないだろうから、ただ引きこもって暮らす分には問題は起きないんじゃないかな?」
「それはそれでどうなんだろう」
まあ、見た目は人間に近いとはいえ、普通に人外だからあんまり外に出るのは好ましくないだろうけど、引きこもり生活するって言うのもなんかもやもやする。
いずれは仕事もしなくちゃいけないから今だけだとは思うけど、なんかちょっと不安になって来た。
「ローリスさんは何か言ってた?」
「明日か明後日に一度来て欲しいって。通信でもいいけど、一応会って確認しておきたいのと、お父さんを紹介したいからと」
「ああ、そういえば挨拶もしてなかったね」
ローリスさんの家は、ワーキャット姿のローリスさんを自分の娘だと見抜き、さらに異世界の品物をどうにか商品にできないかと模索している商家である。
ポンとアパートを用意してくれたのもローリスさんのお父さんだし、こちらの世界の拠点を作ってくれたお礼くらいは言っておいた方がいいだろう。
どんな人かも気になるしね。
「じゃあ、明後日に行こうかな。明日は、ちょっと用事ができちゃったから」
「なら、それだけ通信で伝えておいたらいいんじゃない? その方が助かるだろうし」
「そうする」
まあ、おまけだとは言っても一応は頼まれたわけだし、そちらの役目も果たすとしよう。
そう考えると一週間ってほんとに短いなぁ。どうにかして増やせたらいいんだけど、流石に無理だよなぁ。
「ハク兄、ご飯食べ終わったら私の部屋に来てね?」
「わかってるよ」
ご飯作る前はお兄ちゃん達に質問攻めされたが、今度は一夜の番である。
まあ、こちらは異世界のことを知ってもらうために必要なことだからしょうがないことだけど、あんまりお兄ちゃん達を放置してるとそれはそれでなんか言われそうだから怖い。
昨日だって、配信で夜遅くまで相手しなかったら、軽く文句言ってたしね。
いつもはそこまでしつこくないのだけど、やっぱり世界が違うから不安なんだろうか。
まあ、連れてきたのは私なんだし、そこら辺のメンタルケアも私の仕事である。
なんだかんだ忙しいと感じつつ、それを楽しいと感じていた。
感想ありがとうございます。




