第七十七話:異世界の思い出話
一夜は早速異世界についてのことを聞きたがった。異世界のことというか、私のことかな。
私が帰ってから戻ってくるまでの出来事は軽く話したが、それだけでは足りないと思ったのだろう。
私も、この四年半に色々あったし、話したいことはたくさんある。
だから、時間が許す限り、たくさん話した。
過去に私が起こしてきた騒動とか、日常の風景、異世界特有のルールとか色々ね。
一夜も一応、ファンタジー系のヴァーチャライバーというだけあって、異世界という概念についてはそれなりに考えたことがあるらしい。
考えたことがあるというか、そういう小説を読んだ、あるいはそういう世界観のゲームをしたことがあるって程度のようだけど。
それに当てはめると、あちらの世界って結構それに似ている部分もあるよね。
例えば、魔物の名前とか。ゴブリン、スライム、ワイバーンなど、そういう名前はこちらの世界でもお話の中では結構出てくると思うが、あちらの世界でもそれと同じ名前なのである。
まあ、あちらの世界には転生者がたくさんいるのだし、彼らがその名前を広めたという可能性もあるけど、魔物は大昔から存在していたようだし、ごく最近に集中している転生者から広まったとは考えにくい。
ただ、私がこちらの世界に来れたように、昔からこの世界を行き来する手段はあったようだし、そのタイミングで名前が伝わったのかもしれないね。
もしかしたら、工業化もしていたかもしれない。現在はそこまでではないけれど、あの魔法陣を作るには、多少なりとも工業の力が必要になるし。
こうして話していると、一夜も色々質問してくれるから楽しい。私も気づくことがたくさんあるしね。
「ハク兄って、こっちでユーリさんを庇って亡くなった後、今のお父さんの竜? に転生させられたんだよね?」
「まあ、そういうことになるかな」
私が転生した経緯は、お父さんが自分の子を生み出す際に、足りない魂を補うために呼び出したというものだ。
お父さんは竜、お母さんは精霊なので、本来なら子供を作ることはできない。だから、お父さんは子供の器を作り、それに魂を宿らせることで、疑似的な精霊を作り出そうとしていた。
精霊は、というかその子供である妖精は、万物万象すべてから生まれる可能性があるから、きちんとした器さえ用意してやれば、それに自我が芽生える可能性も十分あったわけだ。
しかし、それはうまくいかなかったため、仕方ないからとお父さんが私の魂を呼び出し、器に入れた。そうして生まれたのが、今の私である。
「それで、ユーリさんってハク兄に助けられた後に、なんやかんやあって亡くなって、これまた転生したと」
「うん」
「……それだとおかしくない?」
「なにが?」
「だって、年齢が全然合わないじゃん」
「……まあ」
確かに、年齢的に合わないのはわかる。
現在、私の年齢は20歳。ユーリの年齢が詳しくはわからないけど大体25歳くらい。
ユーリは生まれた時は俗世から離れて暮らしていたようだから、正確な誕生日を覚えておらず、それ故に正確に何歳かはわからないようだから、5年程度を誤差と考えるなら、同じくらいではある。
だが、私はこれに加えて700年間封印されていたという経歴がある。つまり、正確には私は720歳程度ということだ。
ほぼ同じ時期に死んだはずの二人なのに、なぜ700年もの開きがあるのか、これは確かに謎である。
こちらの世界とあちらの世界の時間のずれを計算して行くと、ユーリが亡くなった時期と年齢は大体一致しているようにも思える。だから、おかしいのは多分私の方だろう。
私だけ、神様に会わずに転生したというのもあるし、そこらへんが関係しているのかもしれないね。
「その、ハク兄を転生させたって言うお父さん、何者なの?」
「うーん、竜王で、神様に仕える神獣ってことだから、その関係なんじゃないかな」
「……子も子なら親もぶっ飛んでるね」
私の特殊な体については、以前にも説明した気がしたが、親についてはそこまで詳しく説明していなかった。
お兄ちゃんとお姉ちゃんが人間なのだから、親もそうだと思うところを、実際は竜と精霊である。しかも、どちらも王様。
一夜の中では、もう常識は捨て去っていることだろう。私にそんなものは通用しないとでも思っていそうである。
別に、私自身に常識がないわけではないんだけどなぁ。周りがぶっ飛んでるだけで。
「まあ、そういうことなら何かしらうまくやったんだろうね」
「多分ね」
「なんか、聞けば聞くほど頭が痛くなってくる気がするよ」
「そう思うなら、もう聞くのやめとく?」
「いや、ここでハク兄のことを知っておかないといつの日かそっちの世界に行った時に困るから聞いておく」
「……まだ諦めてなかったの?」
そりゃ確かに、今なら魔法陣の使用は気軽に行えるようになったし、あちらの世界からこちらの世界に行くならともかく、こちらの世界からあちらの世界に行く分には、そこまで時間のロスは起こらない。
あちらの世界に一か月いたとしても、こちらの世界では一日しか経たないわけだからね。
ずっと暮らすというのは反対だけど、ちょっと異世界を見てみたいって程度の願いだったら、まあ叶えてもいいかなとは思う。
ただ、あちらの世界はいつ死が飛んでくるかわからない。
そりゃ、ただ街中で暮らすだけだったらそうそう死ぬことはないだろうけど、万が一ということもある。あちらの世界の命は、こちらの世界よりもよっぽど軽いのだから。
いくら私が何重にも防御魔法を展開したり、護衛をつけたりしたとしても、その不安は拭えない。
私の我儘で連れて行って、それで死ぬようなことがあれば、こちらの世界でのお父さんやお母さんに顔向けできないしね。
「諦めてないよ。まだ実行には移してないけど、剣術とか習おうかなって思ってたりもするし」
「絶対やめといたほうがいいと思うけど……」
「あの時は、ハク兄の足手まといになると思ったし、一生この世界には戻ってこれないと思ったから諦めたけど、こうして戻ってきたってことは、いつでもこの世界には戻ってこれるんでしょ?」
「ま、まあ……」
「だったら、ちょっと行くくらいいいでしょ?」
まあ、私もそう思っているけど、思うだけで賛成はできないでいる。
そりゃ、こちらの世界でも死ぬ時は死ぬだろうし、むしろ私がつきっきりで守ってあげられるあちらの世界の方が死ぬ確率は低いのではないかという理屈もあるだろうけど、そんなこと言ってもしょうがない。
一夜の世界はこの世界なのだし、あまりその垣根を超えるのもどうかと思う。……いや、私がそれを言う資格はないか。がっつり超えてるし。
えー、うーん、少しくらいならいいのかなぁ……どうしよう……。
私はしばらくの間、連れていくべきか行くまいかで悩み続けた。
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