第六百四十八話:アーカイブの確認
翌日。私は朝からネットで調べ物をしていた。
もちろん、魔法陣についての情報だ。
一応、私をこの世界に飛ばしたであろうあの魔法陣は多少覚えているけど、流石にすべて暗記しているわけではない。
そもそも、言語もわからないし、起動前の状態ならともかく、起動後の魔法陣はほんとに一瞬しか見れなかったので流石に再現するのは無理がある。
覚えてればそれを再現して、という手もあったんだけどね。まあ、それでうまくいくとは思えないが。
本当なら、わかるまでずっと調べていたいところだが、今日は早めに切り上げて別の事をする。
というのも、今日は同期生三人とのコラボがあるからだ。
内容としては、質問箱で集めた質問に答えていく雑談形式。
質問に関してはアケミさんが回収してくれるらしいので特に問題はないが、一応雑談なのだから私も何かしらのネタを用意しておく必要があるだろう。
使わないかもしれないけど、もしかしたら質問があまりなくて話が続かないってなった時に必要になるかもしれない。
使わないに越したことはないけどね。
だから、そのネタをまとめておく必要があるのだ。
「私はまだみんなについてあんまり知らないしね」
同期ということで顔合わせはしたが、それ以降は一度も会っていない。
いやまあ、そんな頻繁にオフで会うこともないだろうけど、まだ全然交流は少ないと言える。
そういう意味では、聞きたいことは山ほどあった。
後はそれをうまく言葉にできればいいんだけど、流れで何とかなるといいな。
「あ、一応みんなのアーカイブを見ておいた方がいいかな」
私は同期の配信を見たことはない。せいぜい、初配信の時にちょっと見た程度だ。
向こうはこちらの配信を見てくれているらしいのに、こちらが向こうの配信を見ないのは少し失礼だろう。
時間がダブって生で見られないのは仕方ないかもしれないが、アーカイブが残っているのなら後で見ることはできる。
みんなの事を知るためにも、アーカイブの確認はしておいた方がいいだろう。
「ええと、検索してっと」
それぞれの名前で調べてみると、いくつかの動画が見つかった。
どうやらみんな雑談枠らしい。コラボしている人は見当たらなかった。
まあ、まだデビューして四日だし、そんな早くコラボするはずもないか。私がちょっとおかしいだけで。
まあ、設定的には自然ではあるけどね。元々そのためにヴァーチャライバーになったようなものだし。
「みんなちゃんとキャラになりきってるの凄いよね」
柳瀬さんこと登日アケミさんはそこまで変わらない気もするけど、他の二人は結構違う。
魔王であるチトセさんはのじゃ口調だし、国王であるスズカさんも一人称が余だったりする。
まあ、いずれも元の口調が混ざっていてたどたどしいが、それが逆にいいのか、コメントの反応は上々である。
新人補正があるのかもしれないけど、リスナーさんってみんな優しいよね。
まあ、ネットの言葉だからあまり信用はできないけど。
「うん? アケミさんが配信してる?」
調べていて気付いたが、今まさにアケミさんが配信していることに気が付いた。
何してるんだろうと思って覗いてみると、アケミさんのアバターである女勇者が雑談しているのが見て取れた。
「やっぱり、ハクちゃんは別格だと思うんですよ。マジで可愛いからね」
(コメント)
・わかる
・わかる
・(風切チトセ)思わず抱きしめたくなりますね
・(遥スズカ)あれは病気に効く
・病気に効くは草
・実際癒されますしおすし
どうやら私の話をしているらしい。
コメント欄にはチトセさんやスズカさんの姿もあり、みんなで盛り上がっているようだ。
途中から見たからなぜ私の話題が出ているのかわからないけど、アケミさんは何を言っているんだろう。
いやまあ、イラストレーターさんが作ってくれたアバターは確かに可愛いと思うけども。それだったら他のみんなだって同じ話である。
青髪が美しいクール系の勇者に角を生やした巨乳美女である魔王、身長が低く、煌びやかなローブに着られている感じのする国王。
いずれも魅力的なキャラクターだと思う。
そういう話をしていて、たまたま私の話題になったってことなのかな?
この部分を見ているだけじゃまだ判断はつかない。もう少し見ていようかな。
「それで、他にはどんな質問がいいと思う?」
(コメント)
・三期生の中でハクちゃんは誰の所有物なのか
・ああ、妖精ってアイテム扱いだもんね
・勇者に妖精はつきもの
・ハクちゃんは誰を選ぶかな?
・ハクちゃんを物扱いするな
「まあ、所有物っていうのはちょっとあれだから、ハクちゃんが誰が一番好きなのかっていうのを聞けばいいかな」
(コメント)
・(風切チトセ)私達の答えだとみんなハクちゃんになってしまいますからね
・(遥スズカ)ハクちゃんが誰を選んでくれるかによって均衡が崩れる
・イメージ的にはアケミちゃんだけどな
・勇者と妖精はセットですし
・魔王サイドにつく妖精っていうのもよくない?
・実際好感度的にはどうなん?
・均衡が崩れたらハクちゃんを巡って戦争が起きそう
・勇者VS魔王VS国王、勇者だけ人少なそう
・でも勇者ならそれでも勝ちそうな気がする
「好感度はまあ、みんな一緒くらいじゃないかな? みんな一度しか会ってないし」
(コメント)
・今日のコラボで命運が分かれる
・(遥スズカ)戦争になったら国民達は援護よろしくー
・(風切チトセ)あ、私も臣下の皆さんにはぜひ力を貸してほしいです、のじゃ
・とってつけたようなのじゃすこ
・ですのじゃ
・国のトップは味方を増やしやすいですな
・国から見捨てられたら勇者はいよいよもって孤立無援では
・かわいそ
「僕にだって協力者のみんながついてるから! 負けないよ!」
……なるほど、恐らく、今日のコラボでの質問を募集していたようだね。
まあ、質問箱よりもこっちの方がより盛り上がりそうな気はしないでもない。
コラボのための下準備と考えればまあいいんじゃないかな。
ただ、他のみんなは参加しているのに私だけ呼ばれていないのはどういうことなんだろうか。
いやまあ、どうせコラボで話すことにはなるけど、こんなことしてるなら呼んでくれてもいいのに。
それとも、ここでみんな揃ってしまうと質問を集める意味がなくなるからかな?
みんな集まってたら、その場で答えてしまう可能性もあるわけだし。
多分、みんなに私を仲間外れにしようという意図はないだろう。
本当ならこのまま見なかったことにしてコラボに臨んだ方がいい気もするが、見てしまった以上はちょっとは存在をアピールしておきたい。
(コメント)
・(月夜ハク)考えておきますね
なので、私はそっとコメントを残すことにした。
コメントすれば、いることは知らせられるからね。
(コメント)
・ハクちゃんおるやんけ!
・ゲスト降臨
・ハクちゃんちゃんと見てるんだ、興味ないのかと思ってた
・(風切チトセ)とうとう見つかってしまいましたか
・(遥スズカ)ハクちゃんおはよー
「わっ、ホントにハクちゃんいる……。やっほー、この後のコラボ楽しみにしてるからね!」
そう言って手を振ってくるアケミさん。
誰の事が好きか、ねぇ。そこまで交流があるわけではないけど、みんなが望んでいるなら頑張って答えないといけない。
私はもう一度みんなのアーカイブを見直し、好きポイントを探すことにした。
感想ありがとうございます。
 




